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投資をする際には幅広い情報を確認しよう
森永 康平
2019/12/25

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概要

投資をする目的は人によって違いますが、筆者は投資を通して得られるものは金銭的なリターンだけではなく、投資を通して経済や政治などに詳しくなる機会を得られることだと思っています。なかには、積立投資の設定だけをして、相場や経済環境をいちいち確認するのは面倒だと思う方もいるかもしれませんが、自分の大事なお金を投資に充てている訳ですから、投資先に影響を与える情報は確認しておいた方がよいでしょう。それでは、どのような情報を確認すればいいのか、ということになりますが、確認すべき情報は非常に多く、全てを確認していくと大変です。そこで、今回は幅広い情報を基に米国の株式市場について考察していきます。今後の投資の参考にしてみてください。



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株価を見るときのポイントは2つ

まずは株価を見てみましょう。ポイントは2つあります。1つ目は目先の株価を見るのではなく、少し長めに株価の推移を見ることです。2つ目は1か国の株価だけではなく、他の国の株価と比較もすることが重要です。

株価を長めに見る場合は2008年9月のリーマンショックの前から見るのがよいと思います。下図を見ると、米国の株価はリーマンショック時に大きく値を下げましたが、2009年の春先からは緩やかな上昇を続けていることが分かります。  

他国・地域と比べてみると、米国の株価だけが大きく上昇していることが分かります。2018年後半からは米中貿易摩擦や金融政策を巡る思惑の影響から変動幅は上昇していますが、それでも上昇傾向に変化はありません。

米国株式、日本株式、ユーロ圏株式、新興国株式の株価指数推移

(出所): ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成。
※各国株式:MSCI各国株価指数、ユーロ圏株式:MSCIユーロ圏株価指数、新興国株式:MSCI新興国株価指数。

株価から投資家の考えを想像してみる

それでは、なぜ米国だけがそこまで力強い上昇を続けているのでしょうか。他国・地域と比べて明らかに米国の株価だけが上昇しているわけですから、何か特別な理由があるのでしょう。株価から投資家の考えを想像してみることも重要です。

理由を探るために幅広く情報を確認していきます。国際通貨基金(IMF)は、2019年10月に最新の世界経済成長率見通しを発表しましたが、2019年と2020年の世界経済見通しを前回発表時(7月)から下方修正しました。しかし、 2020年の経済成長率見通しを見ると、米国は利下げと財政政策への期待から2.1%と、前回の予想から0.2%上方修正されています。ここから想像できることは、投資家は世界的に景気減速が見込まれるなかで、米国経済の力強い成長に期待をしていることが挙げられます。

国際通貨基金(IMF)による主要国の経済予想

(出所): 国際通貨基金(IMF)のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成。
※:グラフ上の数値は小数点以下第二位を四捨五入。

複数の経済指標を同時に調べる

GDP成長率という観点では米国経済は好調を維持しそうですが、他の経済指標も見ていきましょう。たとえば、米国の製造業の景況感を示す指数ISM製造業PMIを見てみると、2018年の夏頃から米国の製造業の不振が続いていることが見てとれます。しかし、米国連邦準備制度理事会(FRB)が10月29、30日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利を0.25%引き下げることを決定しました。これは製造業の不振が更に悪化することに対して予防的な観点からの利下げと考えられます。  

その結果、利下げは他の分野にも影響を与え、たとえば住宅ローン金利が低下したため、米国における住宅投資は回復傾向にあり、個人消費も下支えされています。

米国の政策金利と主な経済指標

(出所): ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成。

それでは、米国経済の先行きには一点の曇りもないのでしょうか。債券の利回りをイールドといいますが、一般的には償還までの期間が短い債券の金利(短期金利)の方が、償還までの期間が長い債券の金利(長期金利)よりも低くなります。しかし、稀に短期金利の方が長期金利よりも高くなるケースがあり、この状況を「逆イールド」といいます。過去に数回この「逆イールド」と呼ばれる現象が起きていますが、そこから平均して2年前後で景気後退するという経験則があるのですが、2019年8月にこの逆イールドが発生し、米国景気が後退する可能性が高いとの報道を目にすることがありました。実際、長短金利差から算出される米国の景気後退確率は依然高い水準を示しています。  

しかし、ピクテが注目するほかの経済指標は低下傾向を示しており、前月時点の状況から改善しています。

各指標にみる米国の景気後退の可能性

(出所): ピクテ・アセット・マネジメント。

このように、長期的な株価の動きやトレンドをみることで、目立った動きをしている国や地域を見つけましょう。そして、その後に経済指標や産業動向を調べることで、その動きの理由を探ることで、投資家達が何を考えているのかを想像し、自分達が投資をするうえでのシナリオを作成していくのです。

森永 康平
株式会社マネネCEO
経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。
業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在は複数のベンチャー企業のCOOやCFOも兼任している。
​著書に『親子ゼニ問答』(角川新書)
日本証券アナリスト協会検定会員。


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