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- 金価格上昇の背景を考える
金の価格が上昇しています。田中貴金属工業が金の価格を1グラム当たり9,443円で店頭販売しましたが(2023年4月5日時点)、これは国内金小売価格としては過去最高となります。また、ニューヨーク先物市場をみても、1トロイオンス2,000ドル台を維持しており、2020年8月に記録した最高値(2,089.20ドル)の更新が視野に入っています。これから先も金価格が上昇するのかどうかを知るためには現在の価格上昇の理由を理解する必要があります。
景気減速懸念と金融不安
米国で発表された経済指標を見てみると、3月の雇用統計では2ヵ月連続で就業者数は鈍化しており、3月の米ISM非製造業景況感指数も3ヵ月ぶりの低水準と経済指標が全般的に弱い結果が続いています。また、3月は米国でシリコンバレー銀行の経営破綻からはじまり、シグネチャー銀行、シルバーゲート銀行と銀行の破綻が相次ぎ、更に欧州ではクレディ・スイスがUBSによって救済買収されるなど、一時は「リーマンショックの再来」を懸念する投資家が増えました。現時点では金融不安は後退しているように見えますが、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ退治を優先して金利の引き上げを継続すれば、今後も同様の危機が生じる可能性もあるでしょう。
このように、景気が減速したり、金融不安が生じ始めると、場合によっては大きく価値が棄損してしまう株式や債券に比べて、実物資産としての価値がある金には投資家のお金が集まることが考えられ、まさに足元の金価格の上昇はこのような背景があるのでしょう。
利下げを織り込む動き
米国の消費者物価指数は依然として前年同月比で6%という高い水準を維持しており、FRBのインフレ目標を考えれば今後も金利を引き上げてインフレを抑制しなければいけないように感じますが、利上げの副作用として前述のように景気減速懸念が高まっていることから、FRBは非常に難しいかじ取りを迫られています。
CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)が提供するデータを見てみると、市場参加者間では既にFRBの利上げフェーズは終了し、夏からは利下げフェーズに突入していくという展開がコンセンサスになっています。仮にFRBがインフレ退治よりも景気のオーバーキル(過剰な引き締め)を懸念して利下げフェーズに移行するのであれば、これもまた金価格には追い風となるでしょう。金は実物資産としての価値はありますが、一方で株式のように配当が出ることもなく、債券のように利子を受け取れるわけではないため、金利低下局面では金に投資が集まる傾向があるからです。
ドル離れが影響?
景気に関係なく金価格上昇の要因になっていることの1つに実需も挙げられるでしょう。ワールド・ゴールド・カウンシルのデータによると、2022年の第3四半期から急速に金の需要が高まっており、第4四半期には超過需要が発生しています。これは経済活動が再開されたことに伴い、宝飾品としての金需要が高まったことが背景にあると考えますが、富裕層以外にも大きな買い手が登場しています。
それは中央銀行です。2022年は中央銀行による金の需要が約55年ぶりの高水準となりました。ロシア・ウクライナ危機に伴い欧米各国がロシアに行った経済制裁を背景に中国やそれほど米国と距離が近くない国の中央銀行がドルから金へと一部の資産を移動させたのでしょう。
冷戦以降は米国一極支配に近く、ドルが世界の基軸通貨として機能してきました。しかし、中国の経済力が大きくなり、新興各国も経済成長を遂げたことにより、世界のパワーバランスが崩れてきました。そこにロシアによるウクライナ侵攻に対する欧米各国の経済制裁と、それには参加しなかった新興各国の動きがパワーバランスの崩壊をより明確にし、前述のように中国を筆頭にドル決済以外の経済圏を確立すべく、金を買い集め始めたと考えます。
既に中国の上海石油天然ガス取引所では中国海洋石油(CNOOC)とフランスのトタルエナジーズとの間で液化天然ガスの人民元建て取引が完了しており、今後はこの流れがどんどん加速していくと考えられることから、各国中央銀行による金の需要が萎むことは考えにくいのではないでしょうか。
とはいえ、金価格がまだ上昇しそうだと考えるからといって、すべての投資資金を金の購入に充てることはリスク管理上問題があります。あくまで投資資産の一部を金の購入に充てることを検討する程度にとどめましょう。
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