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外資系金融機関で働く私たちの資産運用のリアル 第9回:今後のマーケットで投資家が留意しておきたいこと
渡久地 海
2024/09/20

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概要

ピクテ社員の具体的な資産運用例を可能な限り公開し、どのような考え・目的で運用を行っているか実際に示し、皆様の資産運用のご参考にして頂きたいと思います。また、このコラムでご紹介する資産運用例は、あくまでも個人の意見であり、当社の見解を代表するものではありません。

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2024年のマーケット


前々回のコラムで振り返った2022年のマーケットは、急激な利上げによって株式と債券の両方が下落する非常に難しい環境でしたが、2024年は今のところ好調です。長く続いていた高インフレも、多くの中央銀行がターゲットとする2%へ向けて低下しています。多くの投資家が注目する米国では、9月に利下げへ転じました。

このような状況の中、特に株式のパフォーマンスが良好です。年初来(2024年8月末まで)の円換算のリターンは、世界株式+18.45%(年率換算+28.92%)、米国株式+21.42%(年率換算+33.79%)、ナスダック+20.99%(年率換算+33.09%)、日本株式+15.49%(年率換算+24.11%)となっています。では長期平均と比較した場合どうでしょうか。図表1に1989年12月末から2024年8月末までの世界株式、米国株式、ナスダック、日本株式の年率リターンを示していますが、今年のリターンは長期平均を大きく上回っています。ちなみに日本株式は、やっとバブル時の高値まで戻ってきましたので、この期間のリターンはほぼ0%です。

図表1:主要株価指数のリターン(月次、期間:1989年12月末~2024年8月末、円換算)


※世界株式:MSCI世界株価指数、米国株式:S&P500種株価指数、ナスダック:ナスダック総合指数、日本株式:日経平均株価
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

ミーン・リバージョン(平均回帰、Mean Reversion)と利下げ


ミーン・リバージョンとは平均回帰とも訳され、資産価格やマーケットリターンは最終的に長期平均に収れんしていくという考え方であり、運用業界において広く認知されています。この考え方に基づくと、現在の株式リターンは出来すぎで、今後長期平均に収れんしていくと予想されます。そのためには、株価の調整が必要です。もちろん、経済や社会のバックボーンが大きく変化し、技術革新などによって企業収益が過去と異なるペースで上昇していった場合は、その限りではありません。例えば、生成AIの急速な発展と普及によって、一部半導体企業の業績予想は大幅に上方修正され、株価も大きく上昇しました。しかし、生成AIが経済全体の生産性を向上させ、付加価値をどの程度創出できるかは未知数です。

加えて、米国の利下げと株価下落の関係性もマーケットでは注目されています。一般的に利下げは、経済や株価にとって追い風と考えられているのですが、これまでの両者の関係性をみると、必ずしもそうとも言えません。特に、利上げが休止し利下げに転じる局面では、株価が下落するパターンが多く見られました(図表2)。中でも2000年のITバブル崩壊や2008年のリーマンショックは、歴史的なマーケットの下落となりました。その代表的な理由の1つに、各種経済指標はリアルタイムのデータではなくラグのあるデータであるため、金融当局が経済状況の認識を誤ってしまい金融政策が後手に回ってしまうということがあげられます。また、利下げを投資家が景気減速のシグナルとして受け取ってしまい、売り急ぐ投資家がマーケットに殺到し、売りが売りを呼ぶ状況に陥ってしまうという理由もあげられます。


図表2:米国株式とフェデラルファンド金利の推移(月次、期間:1989年12月末~2024年8月末)

※色付けしている箇所は、利下げが行われた期間(2024年9月の利下げは含まれていません)


※米国株式:S&P500種株価指数
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

今後のマーケット展開と長期投資家のスタンス

2024年8月上旬に、日本株式が大きく下落し、それに連動する形で他のマーケットも大きく調整しました。今後のマーケット環境について投資家が認識しておきたいことは、ボラティリティ・クラスタリングと呼ばれる、マーケットの変動率が極端に大きくなると一定期間その状況が続く傾向にある点です。つまり、今回の下落をもってマーケットの調整は完了したわけではなく、再度大きな下落の可能性を否定することはできないということです。前述したマーケットに対する懸念も考慮すれば、投資家は大幅な下落に備えるに越したことはないでしょう。

ただ備えるといっても、今すぐに運用をやめて現金化するというわけではありません。以前にもお伝えしましたが、長期投資において最も重要なことは、投資し続けることです。下落する可能性があるのであれば、その前に現金化しておいて、実際に下落が起こったタイミングで再度買い直せばいいのではないかと思う方もいらっしゃると思いますが、マーケットのタイミングを捉えて売買するのは至難の業です。下落に備えるという意味は、相対的に下落局面に強いポートフォリオを構築することや、下落が起こった際の投資行動をある程度決めておくことと考えます。

下落局面に強いポートフォリオを構築するためには分散投資が基本ですが、個人投資家が自分自身で効果的な分散投資を実現することは非常に難しいです。したがって、バランスファンドなどのプロが分散投資を行ってくれる金融商品を活用いただくことをお勧めしています。次に下落が実際に起こった場合の投資行動についてですが、まずは狼狽売りを避ける必要があります。そのためには、保有資産の購入目的や理由を再確認することが有効と考えます。

購入目的や理由に変化がなく、整合性がとれているのであれば投資を続けるべきです。また余裕があれば、割安になった資産を複数回に分けて購入することを検討しても良いでしょう。ただし、この判断はある程度深い金融知識を要しますので、投資初心者の方はご自身で判断せずに、金融機関の担当者からのアドバイスや各種金融機関のレポートなどを参考にすることをお勧めします。


 




渡久地 海
ピクテ・ジャパン株式会社
資産運用推進部 シニア・コンサルタント

明治大学経営学部を卒業後、日系証券会社でリテール業務に従事し、外資系銀行を経て、2014年よりピクテへ入社。入社後はフィールド・マーケティング部にて勉強会やセミナーの講師を務め、2015年より資産運用推進室へ。2018年より投信営業第一部にて投信営業に従事し、2021年から資産運用推進部にて主に販売会社の営業員や一般投資家向けのコンテンツ作成を行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。



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