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米国の金利体系が大きく変化する可能性
市川 眞一
2022/02/10

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概要

米国1月の雇用統計はマーケットの予想を大きく上回り、労働市場の改善を映すものとなった。特に注目されるのは平均時給で、コア消費者物価指数との連動性の強さから、米国のインフレ率が高止まりする可能性を示唆している。3月の次回FOMCにおいて、50bpの利上げも検討対象になるだろう。今後、米国の長期金利に一段の上昇圧力が掛かる可能性は否定できない。



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上昇する賃金:市場はインフレに依然として懐疑的?

1月の米国雇用統計では、平均時給が前年同月比5.7%上昇した。これは、新型コロナ禍による特殊要因で統計がぶれた2020年を除けば、1982年7月以来の高い伸びだ。産業別求人数が7か月連続で1千万人の大台を超え、空前の売り手市場となるなか、事業主は十分な賃金を払わなければ必要な人員を確保できない状態と言える。結果として、就業を回避していた層も雇用市場へ復帰しつつあるようだ。

賃金の大幅な上昇はインフレ圧力に直結する。横軸に1971年以降の平均時給上昇率、縦軸にコア物価上昇率をとると、2次回帰曲線は右肩上がりだ(図表1)。決定係数(R2)が0.64なので、この曲線には統計的に見た一定の説明能力が認められる。つまり、賃上げ率とコア消費者物価上昇率には正の相関関係があり、賃上げ率が高くなれば、物価へのインパクトはより大きくなると言えるだろう。

1月の雇用統計の結果を受け、10年国債の利回りは2019年12月以来の1.9%台になった。もっとも、10年国債とインフレ連動債の利回りから算出された市場が織り込む期待インフレ率は、足下、2.4%台に止まっている(図表2)。

従来、期待インフレ率は12ヶ月後のコア消費者物価上昇率を概ね正確に予測してきた。しかし、現状、大きなギャップが存在しているのは、30年間に亘る物価安定期を経て、市場がインフレの定着について未だ懐疑的だからではないか。

 

次回FOMC:3月の雇用統計次第で50bpの利上げ検討も

今年に入ってFRBによる利上げ観測が強まり、2~5年債の金利は急上昇した(図表3)。他方、10年債以上の市況が相対的に落ち着いているのは、マネタリーベースの供給残高が依然として歴史的高水準にあるなか、利回りの高さが資金を惹き付けていることも要因と言えよう。

ただし、雇用のひっ迫による高い賃金上昇率はインフレの長期化を示唆している。2月の雇用統計の結果次第では、3月15、16日のFOMCで50bpの利上げが検討される可能性も否定できなくなった。長期金利には上昇圧力が掛かるだろう。

金利の変化は、資産市場のバリュエーションに大きく影響する。長期債のみならず、ハイイールド社債や株価収益率(PER)の高い成長株などについては、より慎重なスタンスで臨むべき時期が来たのではないか。

 


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市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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