Article Title
米国株式市場のかく乱要因 ADPと非農業部門雇用者数の不協和音
田中 純平
2022/06/06

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米労働省が発表する非農業部門雇用者数の先行指標として注目されるADP雇用統計が、米国株式市場のかく乱要因になっている。6月2日に発表されたADP雇用統計は市場予想を下回りS&P500指数は急騰したものの、翌日に発表された非農業部門雇用者数は逆に市場予想を上回りS&P500指数は急落する展開になった。このふたつの不協和音をどう解釈すべきか?



Article Body Text

ADP雇用統計で急騰、非農業部門雇用者数で急落した米国株式市場

ADP雇用統計は、米給与計算代行サービス会社オートマチック・データ・プロセシング(ADP)が独自に集計する雇用統計だ。この雇用統計は米労働省の雇用統計(非農業部門雇用者数など)が発表される前に公表されるため、株式市場ではその先行指標として注目される傾向がある。

6月2日(木)に発表された5月ADP雇用統計は市場予想の前月比30.0万人増に対し、実績が同12.8万人増となった。これを受けて翌日発表される5月非農業部門雇用者数も市場予想を下回る可能性があるとの観測が高まり、6月2日のS&P500指数は前日比+1.84%と急騰した(図表1)。

本来であれば、このような雇用統計の下振れは景気鈍化の兆候と捉えられてもおかしくはない。しかし、約40年ぶりの大幅なインフレを記録した米国では、「雇用統計の下振れ=米国連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペース鈍化」と解釈され、むしろ米国株式市場に対してはプラスに作用した。だが、翌日に発表された5月非農業部門雇用者数は市場予想の前月比31.8万人増に対し実績が同39.0万人増となり、ADP雇用統計とは真逆の結果になった。このため、6月3日のS&P500指数は前日比-1.63%と急落する展開となった。

市場参加者は非農業部門雇用者数をより重視

もともとADP雇用統計と非農業部門雇用者数のブレはそれなりに大きい。非農業部門雇用者数から政府部門の雇用者数を差し引いた民間部門の雇用者数と、ADP雇用統計の雇用者数の月次差異を比較すると、ADP雇用統計開始以来の平均差異はほぼゼロとなる一方、標準偏差は約17万人にもなる(2002年5月~2022年4月)。つまり、5月ADP雇用統計が上振れたとしても、5月非農業部門雇用者数(民間)は12.8万人±17万人(4.2万人減~29.8万人増)程度のブレが想定されたため、先行指標としてはあまり当てにならないことになる。

ちなみに、今回の5月非農業部門雇用者数(民間)は市場予想の前月比30.1万人増に対し、実績が同33.3万人増となったことから、1標準偏差を上回る乖離になっている。また、直近2ヵ月の状況を見ても、ADP雇用統計は市場予想を上回っているが、非農業部門雇用者数(民間)は市場予想を下回っており、市場予想との乖離も大きいことが分かる(図表2)。市場参加者は後者をより重視するので、ADP雇用統計はあくまで参考程度にとどめたほうが無難、ということになる。

実際、フェデラル・ファンド金利先物市場においても、非農業部門雇用者数の上振れを受けて利上げ見通しが幾分上方修正されたことが見て取れる(図表3)。無論、9月に利上げ休止を織り込む見方はなく、むしろ0.5%の連続利上げ観測のほうが高まっている。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米中小型株の復活か?ラッセル2000vsナスダック100

米AI(人工知能)関連株の動向に変化の兆し?

日経平均株価が4万円台を回復した理由

フランス総選挙 極右優勢で金融市場は警戒ムード

軟調な日本株の裏に好調な中国株

NYダウは史上初の4万ドル超え けん引役は意外な銘柄