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果実をもたらす資産運用
市川 眞一
2024/07/05

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概要

日銀の資金循環勘定によれば、昨年度、家計の金融資産は株式、投資信託などへの投資で146兆円の運用益を稼いだと推計される。ただし、2,199.1兆円の金融資産のうち、依然として50.9%に相当する1,118.4兆円が現預金だ。一方、国債・財投債の53.2%を保有する日銀が国債の買い入れを減額することから、中長期的な財政のファイナンスには強い不透明感が台頭している。



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■ 待機資金1,100兆円

6月27日、日銀が発表した2024年1-3月期の資金循環によれば、家計の金融資産は過去最大の2,199.1兆円になった。株式は1年前と比べ78兆9千億円増の313兆1千億円、投資信託は同28兆6千億円増の119兆4千億円であり、いずれも記録を塗り替えている。

株式、投信の増加については新NISAの効果を指摘する声が目立った。もっとも、フローベースで見ると、株式は4兆3千億円の資金流出だ(図表1)。それでも、資産総額が前年同期比33.7%増となったのは、株価上昇によるものだ。投資信託は7兆7千億円の資金流入、外国証券は1兆7千億円の流出だが、いずれも資産価値は大きく増加している。投資が報われた結果と言えよう。



他方、定期性預金は前年同期比17兆円の資金流出であり、29.8兆円増加した流動性預金へのシフトが見られる。金利の先高観が高まるなか、定期預金は敬遠されているのだろう。これは、極めて合理的な判断なのではないか。


ただし、個人金融資産全体のうち、50.9%に相当する1,118.4兆円が依然として現預金に積み上げられている(図表2)。新型コロナの感染第1波が日本を襲った2020年6月末、現預金の対総資産比率はその1年前から1.6%ポイント上昇して55.1%になった。その後、インフレ懸念が強まるに従って、この比率は緩やかに低下している。

それでも、金融資産の半分以上が現預金である状況は、インフレに対して極めて脆弱なポートフォリオなのではないか。インフレを前提にすれば、資産運用に関する根本的な考え方を変えなければならない。1千兆円を超える現預金の存在は、むしろ積極的な運用への待機資金と言えるだろう。

■ インフレが変えるマネーフロー

マクロ的に見ると、2023年度は民間企業が32.9兆円の資金余剰だった(図表3)。また、家計が11兆円の資金余剰であり、企業と合計すると余剰額は44兆円である。一方、中央政府は26兆円の資金不足だ。過去5年間では、企業が73兆円、家計が112.5兆円、計185.5兆円の資金余剰、中央政府は167兆円の資金不足だった。

日本経済においては、家計、企業が資金余剰である結果、消費、投資が不足している。それを補うため恒常的に財政が拡張し、日銀が実質的に財政をファイナンスしてきた。従って、日銀には市中銀行の超過準備が積み上がった状態だ。

その結果、政府債務が雪だるま式に膨れた。それ以上に深刻なのは、利潤の追求を求められない財政のプレゼンス拡大が、長期的に生産性の低下をもたらしてきた可能性に他ならない。

ちなみに、銀行、生保による国債及び財投債の保有シェアは、2010年代前半をピークに低下してきた(図表4)。日銀による買い入れの減額を前提とすれば、国債の安定消化には、民間銀行、家計、海外による投資が必須となるだろう。

もっとも、国債の利回りが物価上昇率を下回るマイナスの実質金利下で、長期の投資資金が国債へ向かうとは考え難い。長期金利の急変を抑えるために日銀が国債を買えば、意図せざる量的緩和が円安を助長するのではないか。

通貨の下落による構造的なインフレの可能性が高まるなか、家計にとって投資が資産価値を保全する数少ない有力な手段だ。今回の資金循環は、その胎動を示唆するものだったと言えるだろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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