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新興国市場を再考する
2024/07/18

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概要

新興国の経済には、それぞれ異なる力が働いており、様々な側面からそれらを考えることで、新興国市場がこれまでどのように推移してきたのか、そして今後どのように推移していく可能性があるのかを理解するのに役立ちます。



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新興国株式市場は大きな可能性を秘めていますが、長期間にわたり期待通りの成果を上げているわけではありません。1988年以降、先進国のGDP成長率(年平均)が2%にとどまっているのに対し、新興国では4.7%を達成しているなど、新興国経済の潜在力は高いにもかかわらず、それが常に株式市場のパフォーマンスに反映されてきたとは言えません。

その理由のひとつは、新興国市場自体が多様であることです。しかし、これらを経済的特性に基づいてグループ化することで、投資家はこの資産クラスへの投資をより適切に調整でき、それによってリターンを向上させることができるはずです。

長期サイクルに注目する

1988年に資産クラスとして紹介されて以来、新興国株式は先進国株式をわずかに上回るパフォーマンスを示しています。しかし、その間にはいくつかの長期的なサイクルがあり、波乱の多い道のりとなっています。

1988年から1994年にかけ、かつての共産主義国の開放や、アジアにおける製造業の急速な発展のおかげで、新興国株式のパフォーマンスは先進国株式を大きく上回りました。その後の10年間は、米国経済が活発化しITバブルとドル高が進行する中で、新興国株式のパフォーマンスは低下、ドルペッグ制を採用していた国では一連の危機が発生しました。この状況は、2000年代初頭のITバブルの崩壊と、9.11同時多発テロにより一旦終わりを告げました。次の10年間は再び新興国市場が台頭しましたが、世界金融危機の余波で金利がゼロまで低下すると、状況は再び逆転しました。



この時期の新興国株式市場の最も顕著な特徴のひとつは、経済の動きに対する反応が国によって大きく異なるというものでした。新興国の株式市場は先進国に比べ、お互いに似た動きをすることが多いものの、それぞれの市場が経済全体の変動にどう反応するかには、かなりの違いがあります。

このような違いをうまく扱うことが、投資家が新興国市場から得られる利益を最大化するひとつの方法です。

新興国市場を理解する

一般的には、新興国市場は大きく4つの区分に分けられます。1) 中国とその他の新興国市場、2) 資源国と製造業主体の国、3) 債務国と債権国、4) 開放経済と閉鎖経済、です。

これらの区分は、市場の上昇期と下落期のサイクルを理解するのに役立ちます。

まず、中国とその他の新興国市場について考えてみます。2008年以降、中国経済は他の新興国を大きく上回り、名目成長率(年平均)は約10%を記録しています。この期間に企業の収益も力強い成長を見せましたが、一株当たりの利益は平均的な水準にとどまりました。これは、企業による株式の大量発行が一株当たり利益の希薄化につながったからです。そのため、中国株に大きく投資していた投資家の収益は低迷しました。

次に、資源国についてです。資源の輸出に依存する度合いが高い国ほど、製造業を経済基盤とする国と比べて経済成長が不安定になります。その結果、資源国の株式市場は、製造業主体の国の株式市場より割安に取引きされることになります。

また、債務国は、米国の金利と米ドルの動きに対して脆弱であると言えます。この脆弱性は、米連邦準備制度理事会(FRB)が資産購入プログラムの縮小を示唆したことが誘発した2013年のテーパー・タントラム以降、債権国に比べて債務国の株式市場のパフォーマンスが低迷していることに現れています(図1参照)。

最後に、開放経済と閉鎖経済についてです。2001年から2007年末まで続いたコモディティ・ブームの間、中国を除いた閉鎖経済国の株式市場は、開放経済国よりもパフォーマンスが良かったものの、その後は大幅に低迷しました。

要するに、過去10年間に中国、資源国、債務国、閉鎖経済国への投資比率を低く保った投資家は、新興国株式のベンチマークを上回る投資成果を得られたことでしょう。ただし、これが今後数年間についても当てはまるとは限りません。

新たなサイクルの始まりか?

新興国株式が、先進国株式に対して再びアウトパフォームに転じる兆しが散見されています。歴史が示すように、これは10年以上続く可能性があります。ピクテの分析アプローチでは、どの新興国市場が最も恩恵を受けるべきかを示しています。

これは、投資家が他の新興国市場に比べて中国により多くの比重を置くべきであること、製造業国より資源国、債権国より債務国、閉鎖経済国より開放経済国をより重視すべきことを示唆しています。

中国経済は新興国の株式市場に大きな影響を与えますが、過去10年間の新興国株式のパフォーマンスが低迷した主要な原因のひとつでもありました。しかし、中国の株式市場と経済は転換点を迎えている可能性があります。中国政府は一部のセクターへの介入を緩和しており、不動産市場は底を打つ兆しを見せています。不動産セクターのGDP(国内総生産)に占める割合は、2014年のピーク時につけた15%から2023年には8.6%に減少しています。また、企業の経営陣は株主価値にもっと関心を持つよう奨励されており、これは既存株主が持ち株を手放すのを抑えられることにつながるはずです。

同時に、FRBが利下げに踏み切れば、米ドルの長期にわたる過大評価は終わる可能性が高いと見ています。米ドルと新興国株式のパフォーマンスには逆の相関関係がありますので、これは新興国、特に、開放的な新興国の経済にとっては良い兆候となるでしょう。さらに、新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)後の景気回復に伴って世界貿易が再び活発化し、リショアリング(国内回帰)の動きが鈍化する兆しが見られることも、新興国経済が先進国に対して持つ成長プレミアムを支える要因となるでしょう。



また、新興国株式を支える長期的な要因もいくつかあります。ひとつには、新興国の株式市場は先進国の市場に比べて大幅に割安であることです。新興国市場の魅力を再評価することは、これらの市場の再評価につながります。同時に、化石燃料からの脱却を目指すグローバルなエネルギー転換は、太陽光発電セル用の鉱物など、必要な資源を供給する国だけでなく、赤道に近く日光が強い国々にも利益をもたらすでしょう。新興国の経済が成熟するにつれて、国ごとの多様化も進み、株式市場にさらなる刺激を与えるはずです。


新興国市場の長期的なサイクルは、投資家に、この資産クラスが持つ長期的な魅力、つまり、リスク調整後のリターンの向上、を下落局面で忘れさせています。しかし、新興国市場が多様であり、異なる経済環境で異なるパフォーマンスを示すことが理解できれば、下降局面の影響を緩和し、上昇局面でのパフォーマンスを向上させることができると考えます。


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