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ハイイールド債:利下げを受けて一息つけるか?
2024/10/11

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概要

現在のハイイールド債市場の状況と今後の見通しについて解説いたします。



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■要約

●米国およびユーロ圏の社債は、クレジット・スプレッドの縮小と高水準のクーポン収益を追い風に、2024年年初来堅調に推移しています。ICEバンク・オブ・アメリカの米国ハイイールド社債指数(Bank of America US High Yield Index )の平均利回りは、2024年9月中旬に7%を上回りました。当指数構成銘柄の利益率には下押し圧力がかかる兆しが散見されるものの、4~6月期においては、総じて債務比率が安定推移する状況を示唆するものとなりました。また、7月の債務不履行(デフォルト)率が2.8%と低位に留まったことも注目されます。

●米国ハイイールド債市場では、最も格付けの高いBB格セグメントが市場シェアを増す一方で、最も格付けが低くリスクの高いCCC格セグメントの市場シェアは、概ね、低位で安定しています。今後は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げと米国経済の強靭性が、米国ハイイールド債の先行きをサポートするものとみています。


ハイイールド債の良好な年初来リターン

米国およびユーロ圏の社債は、クレジット・スプレッドの縮小と高水準のクーポン収益を追い風に、年初来堅調に推移しています。9月中旬にはICEバンク・オブ・アメリカ債券指数(HY指数)の年初来リターン(米ドルベース)は、投資適格社債が+5.6%、ハイイールド債が+6.6%となりました。この間、ユーロ債のトータル・リターンは、投資適格社債が+3.3%、ハイイールド債が+5.6%と米国債に劣後しました。

クレジット・スプレッドは、米国ハイイールド債を除いて若干縮小していますが、トータル・リターンの主な要因は、高いクーポン利回りと国債利回りの低下です。



ハイイールド債の利回りは、過去12ヵ月で大幅に低下したものの(図表1)、米国ハイイールド債は7.5%、ユーロ・ハイイールド債は6.3%と、過去との比較では、魅力的な水準に留まります。また、高水準のクーポン収益は債券価格下落の影響を抑える効果が極めて高く、ボラティリティも相対的に低く留まっています。加えて、ハイイールド債のデュレーションは総じて短期化しており、利回りの変動がトータル・リターンに及ぼす影響を抑えています。

8月上旬および9月上旬に株式市場が急落した際には、米国およびユーロ圏ハイイールド債の相対的な強靭性が際立ちました(図表2)。国債に対する利回りスプレッドは、一時、400ベーシスポイント(4%p)近くまで拡大したものの、市場のストレスが増す水準を示唆する500ベーシスポイント(5%)には至りませんでした(図表3)。

依然として上昇を続けるクーポン・レートと、中央銀行による利下げが、今後も債券市場の追い風になると思われます。株価収益率(PER)等の株式評価倍率の低下や、企業の強気過ぎる業績目標を考えると、株式パフォーマンスは悪化する見込みが大きいと思われる一方で、米国ハイイールド債は追い風の恩恵を受ける可能性があると考えます。



米国ハイイールド社債に吹く追い風は止まず


米国ハイイールド社債市場では、最も質の高いBB格銘柄が市場シェアを約52%に増す一方で、最もリスクの高いCCC格銘柄の市場シェアは約15%と、低位で安定推移しています。さらに、今後の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げと米国経済の底堅さも、米国ハイイールド社債の見通しを後押しするものと考えます。企業の利益率には下押し圧力がかかるものの、2024年4~6月期決算は総じて、債務比率とインタレスト・カバレッジ・レシオ(企業の借入金等の利息の支払い能力を表す)は安定しており、米国ハイイールド社債の7月のデフォルト率は相対的に低水準と見られている2.8%まで低下しました。多額の負債を抱えた非投資適格格付け企業は、FRBの利下げを受けて一息つけるものとみており、米国ハイイールド社債のデフォルト率は、4月の4.2%でピークを付けた可能性があります。

足元のデフォルト率が過去のデフォルト率よりも低いのは、米国の好調な名目GDP(国内総生産)成長率を受けた堅固な企業業績と、最も高リスクの高い発行体の一部がハイイールド社債市場からシンジケート・ローン市場やプライベート・クレジット市場に移動したことによって説明されると考えます。このことを示しているのが、2021年から2023年にかけて、シンジケート・ローン市場の規模が大幅に拡大する一方で、米国ハイイールド社債市場の規模は縮小していることです(図表5)。米国シンジケート・ローン市場のデフォルト率は、7月に6.4%を付けるなど、米国ハイイールド社債のデフォルト率よりも遥かに高く、低下の兆しも見られません。これは、シンジケート・ローン金利が変動金利であり、これまで、FRBの金融政策と連動して上昇してきたためです(37%のハイイールド社債の発行体の資本構成にはシンジケート・ローンが含まれます)。

米国ハイイールド社債の年初来の総発行額のおよそ70%は、借換えを目的に発行された借換債です。このことは、米国ハイイールド社債の利回りが投資家にとって過去の水準と比べて魅力的な水準にあったものの、ここ数年間の純発行額が限られているため、通常よりも供給が少なかったことを意味します。



景気後退(リセッション)の可能性に留意する

2024年7月の米国の雇用統計が事前予想を下回ったことで、市場参加者は米国の景気後退の可能性を意識しました。米国ハイイールド債のクレジット・スプレッドは、9月中旬時点では、339ベーシスポイント(3.39%)とタイトな水準を維持し、景気後退の可能性が織り込まれていないことを示唆していましたが、一方、業種別パフォーマンスは、7月以降、景気敏感セクターが、景気変動の影響を受け難いディフェンシブ・セクターに劣後しており、自動車、エネルギー、金属・鉱業、小売りの各セクターは、9月中旬には超過リターンがマイナスとなりました。業種セクター間の入替(セクター・ローテンション)は、米国経済の減速に対する投資家の懸念を、一部、示唆しているもの思われます。

エネルギー・セクターのスプレッドは、過去の平均と比べて、極めて拡大した水準にありますが、これは昨今の原油価格の下落に強い反応を示したものと考えれば想定外の状況ではありません。もっとも、当セクターが、HY指数の12%を占めていることを勘案すると、原油価格のもう一段の下落が、HY指数のスプレッドの更なる拡大につながる可能性は否めません。

米国の景気後退の可能性がさらに高まり、雇用市場が冷え込むことになれば、米国ハイイールド債のクレジット・スプレッドは大幅に拡大する可能性があります。高水準のクーポン・レートと当該セクターの質の改善を考えれば、多額の負債を抱えた非投資適格格付け企業がFRBの利下げによって一息つけるようになれば、投資家は難局を乗り切ることが出来ると考えます。


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