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データセンター:AIのインパクトを活用する
2024/12/06

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概要

人工知能(AI)の利用が広がる中、これまで以上に大量のデータが必要とされる状況では、すべての情報を安全に保管し、処理できるデータセンターが求められます。データセンターの効率性を向上させる企業は、優位な位置にあると考えます。



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AIの利用の広がりを受けて、計算力と記憶容量を高める必要性が増す中、企業、個人、政府のいずれにとっても、データを安全な方法で処理し、保管することの重要性が増しています。こうした状況は、最先端の設備を備えたデータセンターに対する需要が増すことを意味するものであり、データセンター自体と、データセンターが依存するインフラの双方に魅力的な投資の機会があると考えています。

データセンターは、AIがこなす大量のタスクの処理に必要なインフラを提供することによって、エスカレートする要求を満たすために不可欠な存在となっています。データセンターの開発に携わる企業は、過去10年間、多くの企業のサーバーやネットワーク機器を共有施設に収容するコロケーション・データセンターや、規模の大きさと性能の高さを求めるハイテク企業やクラウドサービス企業の要望に応えるために設計された、ハイパースケールデータセンターを新設する際に、着実にキャパシティを増やしてきました。

生成AIの台頭によって、データセンターのキャパシティ拡大に対するニーズが更に高まることが予想されます。したがって、今後数年間は、データセンターのインフラへの多額の投資が必要となり、巨大企業による新たな資本支出サイクルが生まれると思われます。安全で安心な方法で情報を保存していくためには、データセンターのインフラを進化させ、AIが新たに必要とする電力を提供すると同時に、過熱、停電、火事などによるデータの損失を防ぐ必要があると考えます。


AIトレーニング・モデルとAI推論モデル

主なAIモデルには、以下の2種類があり、モデルがデータセンターに求める要件は、それぞれ、異なります。

・AIトレーニングモデル

入力されたデータからパターンを認識し、予測するためのモデルです。レイテンシー(指示を出してからデータが送られてくるまでに生じる通信の遅延時間)の影響を受けにくいため、比較的隔離された環境で効果を発揮するものと考えられます。AIトレーニングは、地価が相対的に安い地域にあるデータセンターで行うことが可能です。

・AI推論モデル

入力されたデータから学んだ知識に基づいて予測やアウトプットを生成するために使われる(ChatGPTなどの)モデルです。最終ユーザーとの即時のやり取り(インタラクション)を可能にするために、極めて高いパフォーマンスとレイテンシーの最小化が求められます。こうした厳しい要件を満たすためには、都市環境にあるデータセンターが最も適していると考えます。

 

現時点では、AIトレーニングモデルが話題になることの方が多いものの、コロケーション事業者の可能性はAI推論モデルの領域にあると考えます。AI推論モデルは、AIトレーニングモデルの10倍から15倍の市場規模になる可能性があると考えます1。AI推論モデル用サーバーを設置したデータセンターが必要とする電力密度は、AIトレーニングモデル用サーバーの場合の半分程度に留まり、世界の20~30ヵ所でレプリケーション(システム環境の複製)が必要になるでしょう。


電力需要:データセンターにとっての障壁(ボトルネック)

データセンターの建設は、用地の確保と電力の供給制約という二つの深刻な課題を抱えています。その結果、需要が供給を遥かに上回っており、当面はこうした状況が続くことが予想されます。

電力の確保を巡る問題の解決がとりわけ難しいのは、電力網が電力需要の直線的な増加に対応するよう設計されているのに対して、AIデータセンターには、階段関数的な需要増への対応が求められるという固有の課題があるからです(図表1)。世界のデータセンター市場が2023年に消費した電力が60ギガワット(GW)だったのに対して、2027年の電力消費量は、2倍強の122GWに達することが予想されています。年率平均ベースでは20%前後の増加が見込まれていることになります2



データセンターの電力需要が急増した主な理由の一つがAI利用の拡大です。AIサーバーのエネルギー密度3は従来型のCPU(中央演算処理装置)サーバーのエネルギー密度を遥かに上回ります。これは、AIサーバーが、CPUサーバーのおよそ5倍の電力を必要とし、従って、およそ5倍の熱4を発生するGPU(画像処理装置)サーバーに依存しているためです。

今後15年間は、データセンターが必要とする電力の80%をAIサーバーが消費することになると見られており、電力を確保できるかどうかが重要な差別化要因になると考えます5

現在、データセンターの平均電力密度は、1ラック(サーバーやネットワーク機器を収納・管理するためのフレーム)当たり約10キロワット(KW)ですが、GPUを搭載するAIサーバーが高い電力密度を必要とすることから、ハイパースケールデータセンター(一般的に5,000台以上のサーバーが設置できるような巨大なデータセンター)の平均電力密度は、今後数年のうちに1ラック当たり約40~50KWに増加することが予想されています6

AIの利用が増すに連れて、データセンター事業者は、地域の電力網から半導体に至るまでの電力管理を含む、電力インフラの更新を迫られることになりますが、これには数年を要する可能性も考えられます。更新プロセスを迅速化する方法の一つとして、必要なインフラが既に整備されている地域にデータセンターを建設することや、既存の施設の改修や建て替えなどが挙げられます。


今後のデータセンター設計

電力使用の増加は、熱の発生量の増加を伴うため、暖房、換気、空調設備もこれまで以上に必要となりそうです。したがって、データセンターには、冷却システムや空気の流れを管理する熱システムへの投資が必要になります。

これは、AIサーバーの稼働中に大量の熱が発生するためであり、データセンターには、機器の故障を回避し、信頼性の高いパフォーマンスを担保するために、最適な運転温度を維持することが求められます。

現在、ほとんどのデータセンターが空冷システムを使っていますが、サーバー密度の上昇は、空冷システムの冷却能力を超えています。空冷システムの冷却能力は1ラック当たり15~25キロワット(KW)で、この水準を超えると効果が薄れます7。データセンター事業者は、電力密度が限界点を超えた場合、空冷システムよりも現実的な選択肢として、液体冷却システムを検討する必要に迫られます。

データセンターの設計は、最近まで局所的な空冷技術を使って電力密度に対応するものでしたが、現在では生成AIに必要なラック密度に対応するため、大規模な液体冷却システムを重視するものとなっています。もっとも、現状の要求を満たすことがわかっていながら、基本設計を未だ変更していないデータセンター事業者が多いのが実状です。今後、生成AIの日常生活への浸透が進むに連れて、冷却システムや旧来型の施設の更新に対する関心が増すものと考えます。

その結果、データセンター用液体冷却管理システムに対応する市場は、今後5年間で5倍に拡大する可能性があり、冷却システムや関連機器を供給する企業は有望な投資対象になりそうです(図表2)。



2021年にストラスブールで発生したデータセンター火災により、政府のウェブサイトを含む何百万件ものウェブサイトが利用不能となり大量のデータが失われたことは、セキュリティ上、効果的な冷却システムの重要性を浮き彫りにしています。


データセンター業界に吹く追い風

ここまで、データセンターの歴史上で前例のない飛躍の年となった、2023年における需要拡大の様子を見てきました。データセンターのリースの伸びは、世界全体で6ギガワット(GW)強に達していますが、その大半、恐らく4~5GWは北米におけるリースです8。2023年のリースは、過去最高水準を記録した2022年から倍増し、2019年比ではほぼ8倍に達しています9

電力の供給制約と旺盛な需要により、データセンター事業者が受け取るリース料は増加の一途を辿っています。2023年のリース料は前年比で18.6%増加していますが、事業用不動産サービス最大手のCBREは、2024年についても2桁台の伸びを予想しています(図表3)。





データセンター業界は、主にAI技術の利用の広がりによって、今後数年間で指数関数的な成長を遂げることが予想されます。これは、大量のデータ処理能力と高性能の演算を行うためのインフラが必要となっているからです。また、液体冷却などの効果的な冷却ソリューションに対する需要も、AI機器の信頼性と効率性を担保するために拡大することが予想されます。

変化する需要に対応し、インフラを拡張することができるデータセンター事業者は、AIの利用が拡大する状況を活用できる優位な立場にあると考えます。変化を捉えることで、技術革新の未来を形作り、保管するデータの安全性を確保するために重要な役割を果たすことができるるからです。

データセンターは、企業の重要な資産の保全に不可欠な役割を果たしており、ピクテのセキュリティ株式戦略において重要なテーマの一つとなっています。


[1]  Wells Fargo, Generative AI Brings Opportunity to Data Centre Future
[2]  Morgan Stanley Research による試算
[3]  エネルギー密度とは、施設内の単位面積あたりに消費または必要とされる電力の量を指します。これは、サーバー、冷却システム、その他の設備を運用するために必要なエネルギー量を、利用可能な床面積に対して測定するものです。
[4]  Vertiv Capital Market Day 2023
[5]  DigitalBridge Group CEO Marc Ganzi, 2023年第2四半期決算説明会
[6]  JLL Data Centres 2024 Global Outlook
[7]  グリーン・グリッド
[8]  Wells Fargo, データセンター需要が2023年第4四半期に新たな高みへ
[9]  Wells Fargo, Data Centre REITs: 2024 Outlook



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