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- グローバル株式市場 - ショック後の状況を整理する
最近の株式市場の状況と今後の見通しについて解説いたします。
◆概要
• ここ数週間の株式市場の調整は特に珍しいことではありませんが、それ以前に、株価の変動率が低く推移していたことを考えると、より劇的な出来事に感じられます。株式市場の調整はさまざまな理由で始まりますが、景気減速懸念により株式の投げ売りが起こるまでは滅多に終わりませんし、今のところ、まだそのような状況には至っていないと見ています。
• ピクテでは、現在の経済成長に対する不安が景気後退につながるとは予想していません。景気後退は、株式市場の一時的な調整を長期的な下落に変える可能性が最も高い要因です。長期的には、株式市場は堅調さを維持すると見ていますが、短期的には現在の不確実性と株価の変動が大きい状況がしばらく続くと考えています。
厳しい時期
株価の変動率が低い期間が続いていましたが、ここ数週間で市場の傾向は大きく変化し、世界的な景気後退懸念を引き起こし、近年で最大の市場トレンドの逆転を生み出しました(図表2)。
ピクテの見解では、リスク資産の見通しはここ数か月間で悪化していました。シンガポール政府の金融資産を管理している投資機関のひとつであるGIC(Government of Singapore Investment Corporation:シンガポール政府投資公社)は6月末に株式への投資額を削減する決定をしましたが、こうした見方がその根拠のひとつであったと思われます。以下のような要因が、その決定に影響を与えたと考えられます。
1) マクロ経済の弱さを示すニュースの増加。
経済指標の結果が市場予想とどれだけ乖離しているかを示すエコノミック・サプライズ指数は、2024年第2四半期に、実際の経済指標が市場予想より悪かったことを示すマイナスに転じました。しかし、世界の主要な株価指数は7月上旬まで値を崩すことなく持ちこたえました。これは、クレジット市場の安定と2024年下期を通じた低金利への期待を反映している可能性があります。しかし、7月末に先行指標が再び下落し、米国労働市場の悪化の兆候が見られたことにより、景気後退への懸念が高まりました。
2) 高まる企業業績の不透明感。
第2四半期の決算発表シーズンでは、米国、欧州ともに例年並みに業績の上振れが見られましたが、これは過去のデータに基づく指標であり、市場の安心材料としては限定的です。今後を展望すると、2024年下期の収益についてのコンセンサス予測は、マクロのセンチメントの弱さと、いくつかの大手企業(特に消費関連セクター)の減収予想から、利益率の低下を示唆している可能性があります。ピクテでは、今後、業績の下方修正が加速すると予想しており、これは8月から9月の季節パターンと一致します。
3) 地政学的リスク。
8月から10月にかけては、金融市場の変動が年間で最も高くなることが多い時期であり、今年は11月初旬の米国大統領選挙と中東情勢の悪化の可能性という、例年以上の複雑さがあります。金融市場は何よりも不確実性を嫌うという原則から考えると、現在の季節的な要因と地政学的背景は、再参入を目指す投資家にとってかなりの障害となります。
4) 円の変動
円が本格的に強くなり始めたのは7月下旬のことですが、実際には7月初旬に米ドルに対し直近最安値を付けていました。これはMSCIワールド指数が直近最高値をつける約半月前のことでした。金利の低い通貨で資金を調達し、金利の高い通貨で運用するキャリートレードに関する見通しの不透明さが、リスクの上振れや下振れをモデル化しようとする投資家にとって、更なる不安要素となっています。
株価の調整から成長懸念へ、そして市場の下落へ
経験上、株式市場のピークをタイミング良く予測することや、株価が下落し始める要因を正確に特定するのは難しいと言えます。ただし、一度、株価の調整が始まると、通常は3つの段階を経ることになります。まず、株価の調整は最初、市場イベントと見なされます。次に、調整の範囲が広がり世界経済の成長鈍化懸念へと変わります。そして、投資家がリスクを減らすために株式を売却し、一定の期間、市場の下落が続きます。現在、株式市場は第2段階にいる可能性が高いです。これは、金利見通しの急激な低下(図3)と、3年ぶりの低水準に近づいている商品価格(図4)によって示唆されています。
日本の株式市場の下落やVIX指数(恐怖指数)の急騰からは、市場がリスク・オフに傾いていると見えるかもしれませんが、ピクテではこの点については懐疑的です。S&P 500イコール・ウェイト指数は、今のところ、直近高値から6%程度の下落です。また、7月には市場環境が悪化したにもかかわらず、株式への投資資金の流入が堅調であり、CFTC(商品先物取引委員会)のデータによれば、資産運用会社のS&P500指数先物の持ち高は、7月末から8月初旬へかけて非常に高い水準にありました。
株式のリスク・リターン・プロファイルの改善が待たれる
株式市場の現在の乱高下を、長期的な見通しに影響を与えるものではなく、一時的な出来事と見ています。その見方を変えるとしたら、例えば、労働市場の弱さが景気後退を引き起こすなど、予想以上に米国経済が減速した場合が考えられます。これによって、株式のバリュエーションや企業収益が下がる可能性が出てきます。しかし、ピクテでは2024年後半に米国の経済成長が長期的なトレンドを下回る可能性はありますが、景気後退はしないと見ています。
景気が後退しない限り、長期的には株式市場は堅調であると考えますが、短期的には、最近見られているような弱さがしばらく続く可能性があり、現時点では株式への投資を急ぐ必要はないと思われます。株式市場が安定するためには、以下の3つの要因が影響すると考えられます。
1) 経済成長に対する見通しの改善。
特に先行指標の上昇や、米国の労働市場に大幅な悪化が見られないことが必要だと考えます。
2) 株式の投げ売り。
前述の通り、これはまだ起こっていないと考えており、株価指数が現在よりもかなり低い水準になった場合に発生すると見ています。
3)バリュエーションの低下。
米国以外の株式のバリュエーションはすでに妥当な水準にありますが、世界の株式は依然として、バリュエーションがより高い米国の動向に影響を受けます。したがって、この要因も、株価指数が現在よりも低い水準になった場合に影響を及ぼすものと思われます。
このような時期は常に投資家にとって難しいものです。資本損失の可能性が大きくなるため、これは当然のことかもしれませんが、市場は通常、上昇局面でも下降局面でも不安定です。この双方向の変動は投資家に対して、冷静な判断を保ち、非常に短期的な市場の動きに振り回されないようにするという課題を投げかけます。このような状況では、全体的なリスクとリターンのバランスを取るために、また、今後の投資タイミングを見極めるために、適切な企業業績や株価の評価基準を維持することが重要だと考えています。
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