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トランプ関税をうけたピクテの見方|米国「解放の日」のその後 (アップデート版)
2025/04/10

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概要

トランプ米政権による一連の相互関税措置を受け、米国の関税率が100年ぶりの高水準に達しつつあります。予測不能な現在の市場環境下では、リスク資産に偏ったポートフォリオではなく、株式ではディフェンシブ・セクターや債券では国債などへの資金シフトを検討いただく必要があります。



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トランプ大統領が発表した広範な関税措置は、市場予想を上回るものでした。この結果、米国の輸入関税率は平均で4.8%から約20%へと上昇し、大恐慌時代の水準に達する見込みです。しかし、この輸入関税について、その大きさだけでは、その内容の深刻さを十分に表せません。特に驚くべきは、提案された関税が、公正な貿易障壁の概念ではなく、米国の貿易赤字の解消を明確に目的としている点です。さらに、トランプ政権側が交渉相手国に求める具体的な譲歩内容が示されていないため、事態が早期に収束する見通しは立っていません。

中国はすでに全ての米国製品に対し34%の報復関税を課しており、欧州も対抗措置を検討しています。これにより、本格的な通商戦争の危機が現実のものとなり、世界の成長と物価にも大きな影響を及ぼすことになると考えています。さらに、市場の混乱により金融不安も高まる恐れがあります。

経済への打撃は過小評価できません。ピクテの分析では、米国への経済的ダメージは世界の他の地域の3倍に達すると予想されます。発表された関税により、消費者の追加負担額は6,000億米ドル超、これは米国のGDP比2%に相当し、1968年以来最大規模となります。これは企業や消費者の信頼感を大きく損ない、支出計画を大幅に縮小させることにつながるでしょう。

ピクテのエコノミストの試算では、これらの関税措置により、今年の米国のGDP成長率が最大1.8%ポイント下振れし、物価は最大2.6%ポイント上昇する可能性があります。これだけでも米国が景気後退に陥る十分な要因となりえます。ピクテでは、現時点で、米国の景気後退確率は50%以上とみています。これは数ヶ月前の予想を大きく上回るものです。関税が現在の脅威的な水準で長期化するか、あるいは景気減速が進む中で、消費者に及ぼす心理的ショックを通じて、2次的な悪影響として、より深刻さを増してくるものと考えます。



したがって、単なる一時的な景気後退ではなく、本格的な景気収縮と失業率上昇に備える必要があります。さらに憂慮すべきは、米国政府が景気後退に対し、金融・財政両面で対応を制約されることです。

関税が完全に実施された場合、米国企業の利益は15%減少し、株価収益率も10%下落する可能性があります。これは、米国製品の不買運動など、その他の波及効果は考慮していません。実質金利の低下による一部の下支えは期待できるものの、景気後退シナリオでは、S&P500種株価指数が約4,500ポイントまで下落する恐れがあります。

米国の景気後退リスクが高まっていることから、リスク低減が重要と考えられます。ただし、株式のバリュエーションは2024年後半ほど高くはなく(12ヶ月先予想PERは22.6倍から18.5倍に低下)、投資家のセンチメントも既に悲観的であり、下値は限定的になると予想されます。

当社のモデルによれば、米国株式は現在、モメンタムやテクニカルの観点から完全に売られ過ぎの状態にあるとみており、一時的な反発が期待できると考えています。今後数日間は、国と国との交渉で一定の解決が図られ、関税が引き下げられる可能性もわずかにあるでしょう。しかし、ピクテでは、さらなる事態の悪化を経た後、紆余曲折を経ながらも徐々に事態が収束に向かうというシナリオが最も現実的だと考えています。

世界の他の地域は、米国よりも有利な立場にあるとみています。欧州や新興国は、金融・財政両面で景気対策を講じる余地があるためです。中国、英国、そして潜在的にはインドにおいて相対的な強さを見込んでいます。中国は50%を超える高い関税率に直面しますが、デフレ環境と財政余力を背景に、金融・財政両面で大規模な景気刺激策を実施することが可能です。さらに、中国の米国向け輸出依存度はGDPの3%程度となっています(4月7日時点)。

インドは、国内需要の強さとサービス輸出比率が高いため、株式市場は耐性が高いと見られます。一方、日本と欧州大陸諸国は、貿易依存度が高いことから、株式市場は極めて脆弱な状況にあります。

英国は10%程度の比較的低い関税率が課される見通しです。加えて、高い配当利回りと資源や防衛セクターの比率が高いことから、英国株式は他国に比べて相対的に良好なパフォーマンスを示す可能性があります。

セクター別では、公益株や通信株がディフェンシブ的な特性、非製造業であること、割安な評価(バリュエーション)などから、相対的に良好なパフォーマンスが期待できます。一方で、消費者向けや一般消費財、ハイテク株は、それぞれの消費者の購買力の減少や高バリュエーションなどから、景気循環への高い感応度、関税の標的となるリスクから、最も脆弱とみています。

債券市場では、国債が資金の避難先として選好され、金利低下期待から相対的に良好なパフォーマンスを示すと予想されます。市場は現在、米連邦準備理事会(FRB)による年内4回の利下げを織り込んでいます。インフレ連動債の投資妙味が高いと考えられます。米10年物TIPS(インフレ連動国債)の1.8%水準にある利回りは魅力が高いとみています。景気後退やスタグフレーション環境下では実質金利の低下が見込まれるためです。一方、債券の中でリスクが高いとみているのが米国のハイイールド債です。スプレッドが小さく、景気減速から企業のデフォルト(債務不履行)率の上昇が最も懸念されます。欧州社債にも同様の圧力がかかるとみられますが、欧州中央銀行(ECB)にはFRBよりも金利引き下げの余地があるため、米国ほどの影響は受けないと見られます。

金は、金融市場の大きな混乱の中で、当初の価格下落が安全資産としての側面に注目していた投資家を失望させたかもしれません。しかし、実質金利の低下、米ドル安、経済の不確実性の高まりなどを背景に、今後数ヶ月、金価格は上値が期待できると考えています。

関税発表を受けて米ドルは通常の経済理論に反して急落しました。米国の景気後退リスクの高まりを受けて、FRBが一段と金融緩和に動かざるを得なくなる可能性があるからです。また、米ドルは当社モデルベースで15%程度、割高な評価となっています。さらに、トランプ政権は貿易赤字削減のため、米ドル安を歓迎するでしょう。

金に加え、スイスフランは現在の環境下で貴重でかつ本物の避難通貨と位置付けられ、世界的な金利低下の恩恵を受けるでしょう。英ポンドも、英国への比較的有利な関税措置が支援材料になる可能性があると考えます。


*本稿は最新の情報(執筆時点)をもとに、2025年4月7日発行「トランプ完成をうけたピクテの見方」、2025年4月8日発行「米国「解放の日」のその後」
を加筆・修正したものです。

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