セミナーレポート


ピクテ・スペシャル・ジャパン・ツアー2019

これからどうする?50代からの資産運用戦略

不透明な市場環境で 避けるべき投資、注目するべき投資とは


ピクテでは、2019年8月19日から9月20日にかけて全国47都道府県でセミナーを開催。
全会場合計で約2,000名の投資家の皆さまにご参加いただきました。
ここでは、満席となった8月22日の東京会場での代表取締役社長・萩野琢英による講演の模様をお届けします。



いま、ピクテが伝えたいこと


全国47都道府県で行っている本セミナーは、市場全般に対するピクテの見方やどのように資産運用に取り組むべきかを、資産運用経験者が直接お伝えすることで、投資家の皆さまにお役立ていただくことを目的に行っています。

投資家のステージは大きく2つに分けられます。1つは積立投資などで資産をコツコツと構築していく段階、もう1つは積立で資産構築をした人も含めて、ある程度の資産をすでに持っている段階です。本セミナーでは、資産全体がマーケットの影響をより受けやすい後者を対象としてお話させていただくことから、「50代からの資産運用戦略」というタイトルをつけさせていただきました。

現在のように市場が荒れる中では、直感的な値ごろ感だけで売買をするのは大きなリスクがあるといえます。価格変動の背景をきちんと理解したうえで、本セミナーの内容が「避けるべき投資、注目するべき投資」を見つけていくことの重要性をご理解いただく一助になればと思います。




景気は後退局面入りしたのか


5年~10年程度の単位で見た市場サイクルの中では、現在はピークを過ぎて下落サイクルに入る局面にある可能性があります。このように考える背景には、世界的な株価の下落だけでなく、緩和に動いた金融政策や長期金利の低下などがあります。また、一部の資産では流動性リスクが発生している兆候も見られています。こうしたことから、現在は、敢えてリスクを大きく取る時期にはないと考えています。下落サイクルの最終局面で、さまざまな資産が安くなったタイミングで買う(バーゲン・ハンティング)ためにも、今、過剰なリスクを取る必要はないと見ています。

現在の市場の立ち位置を知るための指標の1つが、米国の長期国債と短期国債の利回り差です。過去を振り返ると、景気後退局面に入る前には長短金利差がマイナスとなっていることから、景気後退のサインとされてきました。また、景気後退局面入りすると、株価も軟調に推移していました。足元では、この長短金利差が約13年ぶりのマイナス入りとなったことで景気後退が意識されています。

ただ、2000年代前半のITバブルや2008年のリーマン・ショックとは異なる点があるということには注意が必要です。それは、過去2回の局面では、政策金利の引き上げによる短期金利の上昇が要因であったのに対し、今回は短期金利が横ばいの中で長期金利が下落したことが要因であるという点です。中央銀行がある程度コントロールできる短期金利とは異なり、長期金利はマーケット参加者の思惑で動く部分があります。つまり、今回は、バブルを懸念する中央銀行が意図的に景気にブレーキをかけるために動いた結果、長短金利差が逆転したわけではないということです。そのため、この指標だけを見て景気後退入りと決めつけるのではなく、反転する可能性があることも考慮しておく必要があると言えるでしょう。


米国長短金利差の推移

週次、期間:1976年12月31日~2019年8月2日

※景気後退局面:全米経済研究所(NBER)が公表する米国景気後退局面
※米国長短金利差:米国10年国債利回り-米国3ヵ月国債利回り
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成


債券投資をどう考えるか


今から30年ほど前は、日本を含め先進国の多くでは、10年国債利回りは5%を上回る水準にありました。しかし、足元では、日本や欧州各国の金利がマイナス圏にまで下がってきており、高金利国として知られていたオーストラリアでさえ2%を下回る水準まで低下しています。

それでは、こうした環境において、債券投資はどのように考えればよいのでしょうか。投資対象としての魅力が大きく低下する中で、リターンを生み出さなくなってきた債券に投資する意味自体が無くなり始めていると私たちは考えています。

債券投資では、金利から得られる収益がリターンの重要な部分を占めます。そのため過去のデータを見ると、債券の利回りが低い水準で投資を開始した場合のリターンは、相対的に低いものとなっていました。そして、これからの債券投資のリターンを暗示する例として挙げられるのが、スイス国債です。スイスは、日本に先駆けてマイナス金利を導入した国として知られていますが、足元では10年国債を含めて国債の金利水準がマイナス圏で推移しています。2015年頃にスイスの国債指数の利回りはマイナスとなりましたが、時を同じくしてこれまで右肩上がりだったパフォーマンスも停滞することとなりました。こうした新たな局面をスイスが世界に先駆けて経験してきたという点は、押さえておくべき重要なことだと言えるでしょう。


スイス国債指数のパフォーマンスと利回り

現地通貨ベース、月次、期間:1985年1月末~2019年7月末、1985年1月末=100として指数化

※スイス国債指数:FTSEスイス国債指数
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成



下がった資産との向きあい方


過去1年の円に対する主要通貨の動きを見ると、南アフリカ・ランドや豪ドルなどが10%を越えて下落していることが分かります。こうした動きを見ると、「下がったので、反転を見越してそろそろ買っても良いのではないか」と思うかもしれませんが、こうした値下がりした資産への投資に当たっては、なぜ下がったのかという点をきちんと考える必要があります。

豪ドルへの投資を例に考えた場合、押さえておくべきポイントがいくつかあります。1つは、すでにお伝えしたとおり、「利回りがかつてほど高い水準にはない」ということ。過去を振り返ってみると、リーマン・ショックが起こった2008年前後には、豪ドル安・円高が進みました。ただ、当時は5%近い利回りが確保できていたので、仮にその後に為替が動かなかったとしても、10年間持ち続ければ収支はトントンになりましたが、現在は2%を下回っています。もう1つの押さえておくべきポイントが、「オーストラリア債券は流動性の高い市場ではない」ということです。オーストラリア債券の取引主体は中国と日本の投資家だと言われており、グローバルに見ると必ずしもメジャーな投資対象ではありません。取引に厚みのある市場ではないことから、一方向に動く可能性があると言えます。

ここ1年の動きでは、魅力的な水準にあるように見える豪ドルへの投資ですが、かつてとは状況が違うという点を踏まえる必要があると思います。また、豪ドルに限らず、保有する資産全体に占める1つの資産の割合が大きくなり過ぎないようにすることは大切なのではないでしょうか。


オーストラリアの10年国債利回りと対円為替レート

月次、期間:1989年7月末~2019年7月末

出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成


資産を保全するために


2018年以降の動きを見ると、世界株式に比べて、金や世界公益株式の価格が上昇してきました。その背景にあるのは、いずれも実物投資の対象ともなり得る資産(リアル・アセット)という一面を備えているという点です。

金は、かつては通貨の代替手段と位置づけられてきましたが、中央銀行による貨幣供給量の増加とともに通貨の価値が低下する中にあって、相対的な価値を高めてきました。債券などのように利息を生まない資産がこうして価値を保ってきた理由は、供給量が限られていることに加え、金そのものの価値が広く認められていることにあります。一方の世界公益株式の場合はどうでしょう。リーマン・ショック以降の景気回復局面では特許などの無形固定資産を多く持つ成長企業が注目されてきましたが、市場の変動に対する底堅さという点においては、鉄道や発送電設備といった有形固定資産を持つ企業が注目されます。

下落サイクル入りした可能性がある現在の局面においては、リスク分散という観点で、これまでのような「株式と債券」というシンプルな組み合わせではなく、公益株式や金といった、ここ数年あまり注目されてこなかったリアル・アセットとしての側面をもつ資産をポートフォリオに組み入れていくことも選択肢になるのではないでしょうか。



講演動画(前編・後編)







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