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2025年「金利の上がる世界」の影響度
大槻 奈那
2024/12/23

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概要

先週日銀は政策金利の引き上げを見送ったが、来年も政策金利は緩やかな上昇が続き、25年末には0.5%かそれ以上に達するだろう。金利上昇は、中小零細企業にとっては大きな負担増となるものの、上場企業は総じて金利感応度が低い。業界の整理淘汰で競争環境が改善する可能性もある。住宅価格の金利感応度も当面は大きくないと見られるため、個人消費への影響も限定的。来るべき金利上昇は、日本の上場企業にとって、マイナスよりプラス面が勝ると考えられる。



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■ 2025年の政策金利見通し

12月19日に終了した日銀政策決定会合では、3会合連続の政策金利据え置きが決定された。植田総裁の記者会見では、「賃上げの情報がもう少し必要」、「(米トランプ政権の政策について)不確実性が大きく、見極めていく必要がある」と慎重な姿勢が示されたことから、来年1月の利上げ予想が後退した。

一方、同日発表された「金融政策の多角的レビュー」では、量的緩和等の非伝統的な金融政策手段は、短期金利の操作という伝統的な手段に比べて効果が不確実とし、「可能な限りゼロ金利制約に直面しないような政策運営が望ましい」とした。つまり、いざという時、金利が下げられる余裕ができるように、政策金利を引き上げておくべきという考え方である。これらを受け、1年後の政策金利の市場予想は0.7%程度の高留まりが続いている(図表1)。


実際、政策金利はどの程度まで引き上げられるのか。一般に、適正な政策金利の水準は、「自然利子率+期待インフレ率」で示される。自然利子率とは、引き締めすぎでも緩すぎでもない、中立的な実質金利のことで、これに期待インフレ率を足したものが政策金利の目安となる。

この計算によれば、日本の適正な政策金利は1%を超えるレベルとなり、現在の政策金利と約0.9ポイントも乖離している。因みに米国の政策金利と同様の手法で算出された推定政策金利との差は0.3ポイント程度となっている。


■ 長期金利の動向

政策金利の上昇を前提とした場合、長期金利はどの程度上昇するだろうか。政策金利が0.5%~1%まで上昇し、日銀が国債購入を予定通り縮小する前提で、日米の国債利回り、日銀の国債保有残高等から日本の10年国債利回りを推計したものが図表3である。

これによれば、来年以降の10年国債利回りは1.2%~1.6%程度まで上昇する可能性がある。仮に1.6%まで上昇すれば、2008年のリーマン・ショック以来の水準となる。

■ 「金利が上がる世界」の経済影響

(1) 全企業収益への影響:小規模企業と大企業の格差が拡がる

こうした金利上昇は、企業収益にどの程度の影響を与えるのか。

図表4は、日本の法人企業全体の年間利払い費の経常利益に対する比率を示している。仮に、企業の借入金利が24年7‐9末比で1.0ポイント上昇した場合、利払い費の経常利益に対する割合は、現在の約7%から13%程度まで上昇する。これは、2013年の異次元緩和前の水準に匹敵する。特に影響が大きいのは資本金が1千万円から1億円未満の小規模企業である。利払い費の経常利益に対する比率は現在の8%から16%に上昇する。

注目すべきなのは、金利が上昇するにつれて、企業の規模による差が拡大するという点である。借入金の資本に対する割合が小規模企業の方が高いことが主因である。

更に、利払い負担の増加で破綻する企業が増えれば、銀行の上乗せ金利(クレジット・スプレッド)が上昇する。このため、財務力が脆弱な中小零細企業では、金利負担はここで示す以上に上昇する可能性がある。

(2) 上場企業への影響はごく限定的

上場企業に対する影響はどうか。日経平均構成企業の負債比率(有利子負債÷純資産)の割合の中央値は、例えば米S&P500構成銘柄に比べて低く、ばらつきも小さい(図表5)。

このため、金利上昇に対する耐性は総じて高いと考えられる。金利が1%上昇した場合に、経常利益が黒字から赤字に転落する企業の数は、東証株価指数の構成銘柄全体で、10社にも届かないレベルである(図表6。銀行、証券を除く。直近期に経常赤字だった企業は含まない)。

更に、中小零細企業の整理淘汰が進めば、過度な価格競争が抑制されるため、上場企業の中長期的な収益にとっては、却ってプラスとなる可能性もある。

(3)不動産価格下落を通じた個人消費の鈍化リスク

一方、個人ローンの金利上昇に伴う住宅価格の下落と、これを通じて個人消費が落ち込む懸念はあるのか。

米国等に比べると弱いものの、日本でも、個人の保有資産の価値上昇が消費を促すという「資産効果」(下落時の消費抑制は「逆資産効果」)が観測される(図表7)。このため、金利の上昇によって住宅価格が下落するなら、これを通じて消費意欲が減退するリスクには注意が必要である。

しかし、金利の上昇幅が0.5~1ポイント程度に留まるなら、住宅需要を大きく冷やすまでには至らなそうだ。家計の住宅ローン返済負担は今のところ極めて低位で推移している(図表8)。現在の平均的な家計の残存ローン金額は1800万円程度とみられる(国土交通省、2022年)。これに対し変動型住宅ローン金利が0.5~1ポイント上昇した場合の返済額の増加は月々4000~8000円程度(30年返済、現在の平均的な変動金利=0.4%を前提)である上、既存の借入については当面返済額が据え置かれるのが一般的であるためだ。但し、もし銀行に住宅ローン貸出を抑制する動きが出れば話は別だ。住宅ローンの借りやすさが個人の住宅取得熱を高めている大きな要因の一つであるためだ。しかし、金利上昇で銀行の貸出意欲は、むしろ上昇する可能性があると考えられるため、こうした銀行の貸出抑制による住宅価格下落というシナリオもまだ考えにくい。

■ まとめ

先週日銀は政策金利の引き上げを見送ったが、今後も利上げの可能性は高い。2025年末時点の政策金利は、0.5%か、状況によってはこれを超える水準にも達しうる。

企業にとっては、金利上昇は、ある程度利益の押し下げ要因となるだろう。しかし、中小零細企業にとっては、クレジット・スプレッドの拡大も含めて大きな負担増となりうるのに対し、上場企業は、金利感応度が低い上、業界の整理で、競争環境が改善する可能性もある。住宅価格の下落リスクも、銀行が貸出態度を硬化させない限り限定的で、逆資産効果を通じた消費へのマイナス影響は当面考えにくい。

このように、1%までの政策金利の上昇は、企業の財務規律を高め、上場企業の相対的な競争力を高めるものであり、個人消費への影響も限定的とみられることから、経済・株価に対してはプラスがマイナス面を上回ると考えられよう。


大槻 奈那
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

内外の金融機関、格付機関にて金融に関する調査研究に従事。Institutional Investors誌によるグローバル・アナリストランキングの銀行部門にて2014年第一位を始め上位。国家戦略特区諮問会議有識者議員、規制改革推進会議顧問、デジタル行財政改革会議アドバイザリーボード委員、財政制度等審議会委員、金融庁・資産運用に関するタスクフォースメンバー、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等を勤める。日本経済新聞「十字路」、日経ヴェリタス「プロの羅針盤」、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授 一橋大学博士(経営学)


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