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- ロシア経済にも目を向けてみる
ロシアとウクライナの戦況はたびたび報道されますが、ロシア経済について語られることは少ないようです。通貨ルーブルの安定や、低失業率や高水準ながら低下傾向のインフレ率などロシア経済の数字は一時より改善しているようにも見えます。しかしながら、実態は恐らく、データの信頼性などの問題も含め、数字ほどにはよくない面もあるのかもしれません。
ロシア経済:ロシア中央銀行は足元のインフレ落ち着きなどを受け政策金利を据え置き
ロシア中央銀行は2022年12月16日、金融政策決定会合を開催し、政策金利を市場予想通り7.50%に据え置くことを決定しました(図表1参照)。
ロシア中銀は10月に続き、2会合連続で政策金利を据え置きました。政策発表後の記者会見でナビウリナ総裁は、これからの金融政策については「中立的なシグナル」を送っているとし、今後の決定は「データ次第だ」と述べています。
どこに注目すべきか:ロシア経済、人手不足、人材流出、不安、節約
ロシア経済はウクライナへの軍事侵攻を受けた欧米などの経済制裁により一時大きく混乱しました。例えば消費者物価指数(CPI)は4月に前年同月比で約17.8%にまで急上昇しましたが、足元は落ち着いています(図表2参照)。ロシア政府のなりふり構わぬ対応策、例えば輸出企業に獲得した外貨のルーブルへの交換(ルーブル買い)義務付け、などを受けルーブル安が落ち着いたことが主な背景と見られます。
もっとも、侵攻による悪影響はロシア経済の随所に見られます。水準は依然高いものの低下傾向となっているインフレ率ですが不安材料も見られます。例えば失業率は足元3.9%と歴史的低水準ですが、一方でロシア経済は2四半期連続でマイナス成長となっています(図表3参照)。この不思議な組み合わせは、労働供給不足が背景で、人口減少に加えて、予備役として約30万人が紛争に動員されたうえ、徴兵回避で多くが国外に逃れた模様です。報道では100万人程度が脱出したとも伝えられており、人口の1%弱となる可能性も考えられます。そのうえ、流出した人材には情報技術(IT)関連の人が多く含まれているとも報道されています。量だけでなく、質の点でも深刻な問題と思われます。ロシア中銀も声明の中で人材不足をインフレ要因と指摘しています。
対外収支は今後悪化が見込まれます。ロシアの経常収支は国内消費減速による輸入減少と、資源輸出がある程度確保できたことから侵攻開始後も黒字が拡大しました。しかし、今後の輸出は減速が見込まれており、ロシア中銀も対外収支の悪化を懸念しています。経常収支への懸念から、足元では小幅ながらルーブル安に転じる兆しも見られます。
一方、国内はデフレ要因が見られます。家計消費は紛争への不安から節約と貯蓄指向を強めています。なお、7-9月期のGDP成長率を部門別にみると、小売・卸売業は前年比でマイナス19.3%と大幅に落ち込み、消費の弱さがうかがえます。消費の弱さや、国民の不満を和らげるためロシア政府は年金給付拡大、各種補助金の給付や、現金給付などばらまき政策による下支えを行っています。しかし政策の持続性や、将来的にインフレ要因となることが懸念されます。
紛争はロシア経済にインフレ、デフレの両要因が見られます。ロシア中銀が今後の政策運営はデータ次第というのは、あまりの先行きの不透明さの裏返しでしょう。経済的に失敗と見られるこの紛争、開始すべきではなかったのでしょう。
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