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- インド高額紙幣「停止」、悪夢は回避と考える理由
インド中銀は2000ルピー札の流通停止を発表しました。当面は法定通貨として使用できるものの、新規発行は終了する模様です。インドでは2016年に高額紙幣の突然の廃止で経済が混乱した記憶があります。しかし今回の2000ルピー札の流通停止は16年の高額紙幣廃止と目的が異なること、インドの現金依存度が低下したことなどから、混乱は限定的と見ています。
インド中銀、高額紙幣の停止を発表するも、市場は今のところ冷静
インド準備銀行(中央銀行)は2023年5月19日、インドで現在、最も高額な紙幣である2000ルピー(日本円で約3300円)札の流通を停止すると発表しました。モディ政権は、16年11月に偽札や脱税の対策などとして高額紙幣を突然「廃止」して経済が大きく混乱しましたが、今回は 2000ルピー紙幣の流通量が減っていることなどから、比較的冷静な受け止め方が広がっています。
インド国債市場では流動性が銀行間市場に戻ってくることが期待されることなどを反映して短期の2年国債利回りが低下しました(図表1参照)。一方で、16年の高額紙幣廃止では経済混乱を反映して急低下した長期国債利回りは今のところ落ち着いています。
経済的混乱を引き起こした16年の高額紙幣の廃止とは異なる様相
過去の話ですが、インドのモディ政権は16年11月8日突然、1000ルピー札と500ルピー札を廃止すると発表しました。当時両紙幣は流通紙幣の86%に相当する規模でした。銀行が新札などと交換しましたが、時間のかかる作業でした。当時のインドは現金決済が中心であったこともあり、経済は大混乱となりました。当時の経済指標を見てもマネーや経済動向を反映するマネーサプライは大幅に低下しました(図表2参照)。
今回の2000ルピー札の流通停止を受け、通貨ルピー安に転じていますが、16年の高額紙幣廃止発表後に比べ小幅の下落にとどまっています。
今回の2000ルピー札流通停止の影響が限定的と見られる背景は以下の通りです。
まず、インド中銀は2000ルピー札が法定通貨として引き続き支払いに使えると表明している点です。16年の高額紙幣廃止は現金で蓄財し脱税してきた富裕層のブラックマネーを使えなくすることが目的であったため、突然の廃止に打って出た経緯があります。これに対し、今回の2000ルピー札の流通停止は流通紙幣全体の10%強と使用頻度が低い2000ルピー札の停止であることから影響は小さいと思われます。
なお、インド中銀は当面2000ルピー札は引き続き使用できるとする一方で、今年9月30日までに銀行で別の紙幣に換えるか、預金するよう呼びかけています。停止から廃止の動きなのかもしれませんが、時間は十分と思われます。
インドのキャッシュレス化の進展も、紙幣停止の影響を軽減させた可能性
インドのキャッシュレス化の進展も流通停止の影響を限定的とした背景と見られます。16年の高額紙幣廃止は経済混乱を引き起こした点で評価は低いですが、一方でキャッシュレス化の進展を促したという別の評価もあります。インドは16年以降貨幣流通額が頭打ちとなる一方で、電子マネーや、スマートフォンのアプリを通じて銀行間送金や決済を行えるインドの代表的な決済システムであるUPI(Unified Payment Interface)の利用が拡大しました。
インドのキャッシュレス化の進展はインド中銀デジタル決済指数(RBI-DPI、Digital Payments Index)に示されています(図表3参照)。 RBI-DPIの上昇が、キャッシュレス決済の拡大を示唆しているからです。
インド中銀はRBI-DPIを2018年に発表しました。 RBI-DPIは5つの構成要素①モバイルやインターネットなどによる「支払い方法のデジタル化」、②クレジットカードやデビッドカードなど「支払い手段」、③QRコードなどの「決済インフラの供給」、④デジタル決済使用量やペーパーレスの進展度合いなどパフォーマンス測定、⑤ユーザー認知度、ユーザー教育、セキュリティなどシステムの信頼性、から評価しています。
更新頻度は半年に一度で、お世辞にもデータの公表が早いとは言えませんが、総合的にキャッシュレス化の進展が数値化されています。なお、5つの構成要素は等ウェイトではなく、④のデジタル決済のパフォーマンスを重視する作りとなっています。
16年に高額紙幣が廃止された当時のインドは現金決済主体の経済で銀行口座を持たない人も多くいるという問題がありました。しかし、紙幣の交換を銀行経由としたことで、銀行と取引をする個人も増え、キャッシュレスサービスも拡大したことで現金決済の重要性が低下したとみられます。
インドは今後もキャッシュレス化を進めるものと思われます。
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