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- 10月の米CPIはインフレ率の鈍化傾向を示唆
10月の米CPIは前年同月比で3.2%上昇と、市場予想の3.3%上昇を0.1%下回っただけにも見えます。しかしエネルギー価格の下落などで夏の物価上昇が一時的であった可能性があること、米金融当局が注目するサービス価格(除く住宅関連)が10月は前月比ベースで9月を大幅に下回ったことも物価の落ち着きを示唆しました。物価の鈍化傾向には筆者も同意しますが、過度な楽観には注意も必要です。
10月の米CPIは物価の鈍化傾向を確認する内容であった
米労働省は2023年11月14日に10月の消費者物価指数(CPI)を発表しました(図表1参照)。前年同月比は3.2%上昇と、市場予想の3.3%上昇、9月の3.7%上昇を下回りました。変動の大きい項目を除いたコアCPIも前年同月比で4.0%上昇と、9月の4.1%上昇を下回りました。
物価の短期的動向を反映する前月比でみると10月のCPIは横ばいとなり、市場予想の0.1%上昇、9月の0.4%上昇を下回りました。項目別に見ると、ガソリン価格をはじめ、中古車、宿泊費、通信など幅広い項目で物価の下落が見られました。
コアCPIも前月比で0.2%の上昇と、市場予想の0.3%上昇、9月の0.3%上昇を下回りました。
米国の夏の物価を押し上げたガソリン価格は下落に転じた
10月の米CPIが全般に前月を下回ったため、8~9月に見られた物価の再上昇懸念が一時的であった可能性が示唆されました。この結果を受け米国債市場では利回りが大幅に低下しました。
物価の長期的傾向を反映する前年同月比で米CPIの推移をみると8~9月のインフレ率に再上昇の兆しが見られました。しかし10月のCPIを受け、物価は依然鈍化傾向と見られます。
もっとも、重要なのは物価変動の内容です。この点を明らかにするため、CPIの前月比の構成をエネルギー、食料品、財、及びサービスの各項目に分類し、各項目の寄与度を参照しながら物価変動の内容を振り返ります(図表2参照)。
エネルギーは8月、9月のプラスの寄与度から10月はマイナスに転じました。エネルギー項目の構成を指数のウェイトで見ると約半分がガソリンとなっています。米国のガソリン価格は夏をピークに足元まで下落傾向です(図表3参照)。ガソリンCPIは10月分までが発表されていますが、算出のベースとなるガソリン価格は足元で1ガロン=3.3ドル台と下落傾向です。電力価格など他のエネルギー価格も落ち着いており、エネルギーが物価上昇圧力となる懸念は当面は後退したとみられます。
家具や衣服、自動車などを含む財CPI(除く食品、エネルギー関連)は10月が前月比でマイナス0.1%と下落しました。寄与度も5ヵ月連続でマイナス圏での推移でした。品目別では、自動車は新車、中古車ともに前月比でマイナスとなりました。衣服は前月比0.1%上昇と小幅な伸びにとどまりました。スマートフォンなど通信機器も最近の傾向同様にマイナス圏で推移しています。
10月の米CPIでサービス価格の減速は確認されたが、過度な安心は禁物
10月の米CPIで恐らく最も注目を集めたのはサービスCPIの落ち着きです(図表4参照)。サービス価格の傾向を前年同月比でみると、10月は5.5%上昇と、9月の5.7%上昇、8月の5.9%上昇を下回っています。なお、サービスCPIの構成を指数の構成割合でみると、約6割が住居費で、残りがメディケアや交通サービスなどサービス(除く住居費)項目に大別されます。サービスCPIが鈍化傾向ながら、依然高水準であるのは住居費が前年同月比で6.7%上昇と高水準なことが背景です。住居費の主な構成項目は賃料と帰属家賃ですが、変動が大きい宿泊費も一部含まれています。10月は宿泊費が前月比マイナス2.5%と下落したものの、住居費が依然高水準で推移している点に注意は必要です。一方、図表4にあるようにサービス(除く住居費)は10月分が前月比で0.3%上昇と、9月の0.5%上昇を下回りました。図表2の寄与度をみても、10月はサービスの寄与度が前月に比べ大幅に下回っています。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は過去の講演で、賃料や帰属家賃は今後低下するとの見通しを表明しています。一方、物価動向を占ううえで、最も関心が高い項目はサービス価格(除く賃料と帰属家賃)と指摘しています。これが前月を大幅に下回ったことからインフレの上昇圧力が低下していると市場は判断し、米国債利回りの急低下要因になったとみています。
もっとも、夏のインフレ再加速の懸念が後退したことなどから、確かに追加利上げの可能性は低くなったと思われます。しかし、サービス価格の水準は依然高く、早期の利下げを急激に織り込みすぎることには、注意が必要とみています。
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