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フランス下院選挙、第1回投票と市場動向の勘所
梅澤 利文
2024/07/01

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概要

フランスの国民議会選挙の第1回投票で、極右「国民連合」が首位となり、左派連合、与党連合の順でそれに続きました。市場の反応は比較的冷静で、ユーロ、フランス国債先物は小幅に上昇しました。大半の候補者は決選投票に進むため、最終結果は7月7日の決選投票を待つ必要がありますが、極右、左派連合、そして与党連合のいずれもが過半数を取れない議会構成になることも視野に入りそうです。




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フランス下院選挙、第1回投票は事前の世論調査通り極右が勢力拡大

フランスの国民議会(下院、定数577)選挙の第1回投票が6月30日に実施されました。世論調査会社の推計による出口調査を見ると、実質的にマリーヌ・ルペン氏率いる極右の「国民連合(RN)」が得票率で首位となり、下院で最大勢力をうかがう勢いです(図表1参照)。2位は左派連合の「新人民戦線」で、マクロン大統領が率いる「与党連合」は3位となっています。

出口調査は、調査会社により得票率の推定に幅があります。しかし、各調査とも「国民連合」の得票率が首位であること、以下「新人民戦線」、「与党連合」の順位である点は概ね共通し、第1回投票では極右政党が最大勢力となる見込みです。

フランス下院選挙第1回投票を受け、市場ではユーロ高が進行した

フランス下院選の第1回投票を受けた市場の反応は、欧州時間を待つ必要はありますが、日本時間7月1日午前の動きからはユーロが対ドルで上昇し、フランス国債先物(長期国債)は小幅ながら上昇しています(図表2参照)。ドイツ国債先物が下落していることから、マクロン大統領が唐突に実施を発表した下院選挙を受けて拡大傾向となったフランスとドイツ国債の利回り格差(スプレッド)再拡大の兆しは、現段階では見られません。

もっとも、フランスの下院選挙の仕組みでは、第1回投票で当選が決まるのは、有効投票総数の過半数を確保し、かつ有権者数の25%以上の票を得た候補者に限られます。大半の候補者は決選投票(7月7日、第1回投票での上位得票者2人と、有権者数の12.5%以上の票を得た候補者が争う)により当選が決まるため、最終結果は決選投票の結果を待つ必要があります。

第1回投票を受けた市場のこれまでの反応と、決選投票に向け次の点に注目する必要があると見ています。

出口調査では極右や左派連合が極端に票を伸ばすことはなかったようだ

まず注目されるのは極右の「国民連合(RN)」が下院で過半数の議席(289議席)を獲得できるかです。第1回投票の出口調査に基づいて各調査会社は予想獲得議席数を、主な政党グループについて公表しています(図表3参照)。極右、左派連合、与党連合についてみると、極右の「国民連合」は議席数を現在の88議席から大幅に伸ばし、第1党となることが見込まれています。調査会社の中には「国民連合」が300議席超と過半数の確保を見込むところもありますが例外的です。大半の調査では、国民連合の獲得議席が今回の下院選挙で過半数に達しないと見込んでいます。

なお、報道によるとマクロン大統領率いる与党連合と左派連合は極右政権発足を阻止するため決選投票における候補者の調整を進めると伝えられています。決選投票の登録は火曜日までとなっており、協力関係の内容も注目されそうです。

一方、「国民連合」の首相候補で党首のバルデラ氏は「議会で絶対過半数が取れなければ首相にならない」と表明しています。30日には「国民連合」の実質的な代表であるルペン氏も過半数獲得の必要性を強く訴えています。仮に「国民連合」が過半数を獲得すれば、通例として首相は第1党から選ばれるため、大統領は中道、首相は極右というねじれ(コアビタシオン、共存)となりフランス政治の混乱も懸念されます。もっとも、その場合でもルペン氏は27年に実施が見込まれる大統領選挙を自身の目標と定めているならば、当面は反欧州連合(EU)など過激な政策は抑え、政権担当能力を示すよう振る舞う可能性もあると筆者は考えています。国民連合の最近の主張から、仮に過半数を確保しても、財政赤字を極端に拡大させる懸念は後退したと思われるからです。

次に、市場の別の懸念は左派連合の台頭であったとみています。マクロンと極右の対立の陰で、左派連合が票を伸ばすというシナリオに一定の警戒感がありました。左派連合が台頭した場合、財政がさらに悪化する恐れがあるからです。

しかし、出口調査を見る限り左派連合の伸びは限定的であったと見られます。この点も出口調査で市場が落ち着きを見せた背景と見ています。

また、与党連合は得票率が3位で、決選投票後の議席数は現在の250議席から大幅減となることが予想されています。ただし出口調査による得票率は、選挙直前の世論調査よりも高かったと見られます。第3位であることに変わりありませんが、決選投票に向けある程度のプラス材料かもしれません。結果として、極右、左派連合、そして与党連合のいずれも過半数に達しない「ハングパーラメント(宙吊り議会)」となる可能性が浮上してきました。決選投票の結果を待つ必要はありますが、極右や左派が議会で主導権を握れないハングパーラメントを、市場は現実的に起こりうる選択肢の中では、ましな選択肢と見ているようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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