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東京都区部7月CPIは利上げを支持できるのか?
梅澤 利文
2024/07/26

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概要

日銀は7月末に金融政策会合の開催を予定しています。市場では7月会合における追加利上げの有無が関心事となっています。日銀の利上げの有無を占ううえで、会合前に発表される最後の主要な物価指標である7月の東京都区部CPIが発表されました。 今回の指標から「基調的な物価上昇率」が物価目標と整合的かを判断すると、物足りなさもあったように思われます。




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全国CPIに先行する東京CPIは7月分が発表され、まちまちの結果に

総務省が7月26日に発表した7月の東京都区部の消費者物価指数(東京CPI)は変動の大きい生鮮食品を除くコア東京CPIは前年同月比で2.2%上昇しました(図表1参照)。市場予想も同じく2.2%上昇でしたが、6月の2.1%上昇を上回りました。政府による電気・ガス代負担軽減策がいったん終了した影響などでエネルギーが14.5%上昇と前月から伸びが拡大したことが押し上げ要因です。

総合指数の東京CPIは前年同月比で2.2%上昇と、市場予想の2.3%上昇、6月の2.3%上昇を下回りました。生鮮食品とエネルギーを除いた(日銀版)コアコア東京CPIは1.5%上昇と、市場予想の1.6%上昇、6月の1.8%上昇を下回りました。

基調的な物価上昇率を捉えるため、7月はコアコアCPIに注目

全国CPI(6月分が公表済)の先行指標となる7月の東京都区部のCPIのうち、物価指標として参照されることが多いコア東京CPIは6月を上回りました。コア東京CPIは23年1月の4.3%上昇をピークに鈍化傾向ですが、過去数ヵ月は2%前後で推移し、鈍化傾向は底打ちしたようにもみられます。

この22年末頃までの大幅な物価上昇はエネルギーなど主に輸入物価高騰が国内物価に波及したもので、日銀は第1の力と表現しています。この力による物価上昇がピークアウトしたのは日銀の想定通りです。このまま鈍化が続くのではなく、賃金上昇を伴って物価が上昇すること(第2の力)を日銀は物価目標達成の条件としています。

日銀は7月末に金融政策会合の開催を予定しています。市場では7月会合における追加利上げの有無が関心事となっています。自民党の茂木幹事長の発言などを受け、市場では一部が利上げ時期の見通しを7月に前倒しする動きもあるようです。しかし、先の発言は「段階的利上げの検討も含めて金融政策を正常化する方針をもっと明確に打ち出す必要がある」と述べており、利上げを求めたと思わせない配慮も感じられます。

利上げの有無で注目すべきは日銀の物価判断でしょう。植田総裁は利上げについての考え方として、「基調的な物価上昇率」の重要性を指摘しています。高い賃上げ率を達成した今年の春闘の結果が賃金に反映されることで、賃金と物価の好循環が実現する確度が高まることを待ち望んでいます。

その観点で7月の東京CPIを振り返ると、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコア東京CPIが1.5%上昇と、前月の1.8%上昇を下回ったことに注目してます。生鮮食品を除き、エネルギーを含むコア東京CPIは前年同月比2.2%上昇と前月の2.1%上昇を上回り、物価目標の2%を上回っていますが、7月は電気・ガス料金の補助金削減が物価を押し上げ要因となっているとみられ、物価を判断する、つまり利上げ決定の判断材料としては使いにくいように思われます。その点、エネルギーをあらかじめ取り除いたコアコア東京CPIが7月鈍化した点をより注目すべきと考えます。

生鮮食品とエネルギーを除いたコアコア東京CPIではサービス価格が主要な構成要素となっています。そこでサービス価格の個別項目について物価への寄与度を見ると、7月は通信や教養・娯楽などが下押し要因でした。サービス価格は6月に前月比0.3%上昇と5月を上回りましたが、7月は0.0%と横ばいでした。賃金動向の影響が大きいサービス価格は6月に上昇しましたが、7月のデータから、一過性の可能性が想定されます。

なお、賃金について、厚生労働省が7月25日に発表した5月の毎月勤労統計調査(確報)によると現金給与総額は前年同月比2.0%増でした。物価の変動を反映させた実質賃金は1.3%減と26ヵ月連続で前年を下回りました。春闘の結果の反映は道半ばで、今後の上昇については、もう少し様子を見る必要がありそうです。

基調的なインフレ率を捕捉するための指標は今後の見極めが必要だろう

「基調的な物価上昇率」として、一般に「コアCPI」などが利用されますが、両者は同じでない点に注意が必要です。コアCPIなどの指数は一般に生鮮食品やエネルギーなど特定の変動が大きい品目をあらかじめ決めて取り除いた物価指標であり、取り除く品目に恣意性があるという欠点があります。

一方、基調的な物価上昇率は幅広い概念であり、日銀は基調的な物価上昇率を捕捉するための指標を複数公表しています(図表2参照)。日銀は23日に、品目別価格変動分布の両端の一定割合(上下各10%)を機械的に控除した値である刈込平均値や、加重中央値、最頻値の3指標を6月分についてみると、3指標とも足元に底堅さが見られます。これがサービスなど賃金の影響を受けやすい部門による上昇で、かつ持続的であれば利上げへの距離は近づく可能性があります。しかし、先行する7月のコアコア東京CPIの上昇率が鈍化したことなどから、6月の3指標が底打ちだったと判断するには時期尚早の可能性もあります。

6月の全国CPIなどから、インフレ率は2%台で十分推移しているように見受けられます。また6月以降の賃金統計には春闘の結果が上乗せされることも期待されます。4-6月期の実質GDP成長率は1-3月期を上回る見込みです。これらは利上げを支持する要因で、日銀が7月に利上げを決定する可能性は以前より確かに高まったと思われますが、4-6月期GDPや実質賃金がプラスとなるのを見たわけではありません。インフレ率の2%定着に疑問も残る中で、7月は利上げ見送りの可能性がやや高いように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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