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内憂外患、中国経済の問題点と今後の懸念
梅澤 利文
2024/09/03

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概要

中国国家統計局が発表した8月の製造業PMIは49.1で市場予想を下回り、4か月連続で50を下回りました。新規輸出受注指数が先行きの悪化を示唆するなど、比較的堅調だった輸出に不安が残る内容でした。一方、中国の財政データを見ると景気回復の鈍さを反映して税収が伸び悩んでいることや、不動産売却収入の減少で、特に地方政府の財政悪化が財政政策拡大の足かせとなりそうです。




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中国の8月の政府版製造業PMIは49.1と市場予想を下回った

中国国家統計局が8月31日に発表した8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.1と、市場予想の49.5、前月の49.4を下回りました(図表1参照)。非製造業PMIは50.3と、市場予想の50.1、前月の50.2を小幅に上回りました。PMIは50が景気拡大・縮小の目安ですが、製造業PMIは4ヵ月連続で50を下回り、回復の鈍さが示されました。

財新/S&Pグローバルが9月2日に発表した8月の財新製造業PMIは50.4と、市場予想の50.0、前月の49.8を上回りました。財新製造業PMIは国家統計局発表の製造業PMIに比べ輸出企業の構成割合が高いことから、おそらく輸出が押し上げ要因とみられます。しかし、新規輸出受注は前月を下回り、先行き期待は悪化しています。

輸出の先行きが不透明なことが、生産活動の今後に影響を与えそうだ

中国国家統計局が発表する政府版PMI(製造業、非製造業)などから判断して、中国の景気は、政策次第ながら、回復の兆しに乏しいようです。

最近までの中国経済のけん引役として輸出が挙げられます。7月の輸出(ドル建)は前年同月比で7.0%増と、前月の8.6%増は下回りましたが、依然底堅い伸びを確保しました(図表2参照)。

しかし、先行きには懸念があります。輸出の今後を占う輸出向け新規受注は8月が48.7にとどまり、これで4ヵ月連続の50割れとなりました。数字が悪化した背景として次の点が考えられます。

まず、欧米の景気減速の影響です。中国の主要な輸出相手は欧米の国々が多く含まれます。クリスマス向け商品の出荷見通しの悪化が新規輸出受注指数を押し下げた可能性がありそうです。

別の理由として、米中対立の影響が懸念されます。米国は中国の電気自動車(EV)の輸入関税を引き上げる動きを見せています。EVの輸入実績に乏しい米国の関税引き上げは政治的な色合いが濃いものの、欧州も追加関税で追随しました。中国の輸出に対する西側の包囲網は確実に強まっており、先行きに影響した可能性があります。

また、最近まで中国の輸出を支えていた品目をみると、ハイテク関連が多く含まれます。追加関税などを想定した輸出の前倒しが、これまでの輸出を押し上げていた一方で、その反動から輸出の先行きに慎重となっている可能性があります。中国を取り巻く政治動向は輸出に影響を与えそうです。

なお、図表2にあるように、中国の製造業PMIと輸出には相関がみられます。「世界の工場」ともいわれる中国ゆえ、中国の生産活動は輸出と密接に関連しているようです。8月の製造業PMIの内訳をみると生産指数は49.8と、今年2月以来の50割れとなり生産活動も悪化しました。中国国家統計局は発表文で、今回の製造業活動の縮小の原因は高温や豪雨、一部産業における季節的な生産停滞が原因と説明しました。天候要因が生産活動を押し下げたことに疑問はありません。問題なのは8月の新規受注が48.9と、前月の49.3を下回っていることです。天候要因だけが問題なら、新規受注は悪化しないと思われます。

中国の財政は税収の伸びが鈍いことと、不動産市場悪化の影響が顕著

外需の先行きに不安がある中、内需底上げに金融・財政政策が期待されます。ここでは財政政策を占うため中国の財政状況を振り返ります。

中国財政省が8月26日に発表した24年1~7月期の財政収支は約3.8兆元の赤字でした(図表3参照、マイナスは赤字)。一般公共予算、政府管理基金の各収支は2.0、1.8兆元の赤字でした。

財政収支全体を見ても、問題点が分かりにくいので、歳入に絞って次の2点を取り上げます。

まず、一般公共予算の予算内歳入は大半が法人税や所得税などの税収ですが、歳入を「税収入」と「税外収入」に分けると、税収入はやや低調でした。年初来前年同期比で5.4%減となった法人税の落ち込みなどを反映しています。しかし、より懸念されるのは、「税外収入」が同期間に12%程度増加していることです。税外収入は手数料や資産没収、罰金などが含まれます。規制当局が取り締まりなどで罰則を強めたというニュースが中国で増えていることとも整合的で、質の悪い増加です。

次に、財政収支のもう1つの構成要素である政府管理基金の歳入を中央政府と地方政府に分けると、中央政府は1~7月期で7.8%増加しました。一方、地方政府は20.7%減と大幅に減少しました。この背景は地方政府の主要な収入源である土地使用権譲渡収入が不動産市場の悪化で22.3%減と大幅に下落したことが挙げられます。地方政府は土地使用権譲渡収入減少の埋め合わせに四苦八苦しており、前向きな財政政策は期待しにくい状況です。税収や土地使用権譲渡収入などを反映する中国の財政データは中国経済の実態をより正確に数値化している面もあると思われます。地方政府を中心に苦境は明らかです。今後の、中国の財政政策を占ううえでは、地方政府を支援する中央政府の動向に注視する必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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