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インド、4-6月期のGDP成長率と今後の展望
梅澤 利文
2024/09/04

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概要

インドの4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比6.7%増と市場予想を下回りました。個人消費は堅調ながら財政支出の減少が主な下押し要因でした。インドの7月のインフレ率は、昨年の大幅上昇の反動もあり、伸びが鈍化しました。インド中銀はインフレへの警戒を緩めない姿勢ですが、足元の金利水準は投資抑制などにより成長を押し下げている可能性もあります。インド中銀の次の一手が注目されます。




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インドの4-6月期のGDP成長率はほぼ市場予想通りながら前期を下回った

インド政府が8月30日に発表した4-6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比で6.7%増と、市場予想の6.8%増、1-3月期の7.8%を下回りました(図表1参照)。

需要項目別にみると、GDPの構成で大半を占める個人消費(民間最終消費支出)は前年同期比で7.4%増と、1-3月期の4.0%増を上回りました。政府支出は4-6月期が0.2%減と、1-3月期の0.9%増を下回りました。

投資などを反映する総固定資本形成は4-6月期が7.5%増と、1-3月期の6.5%増は上回りました。しかし、23年7-9月期の11.6%増、10-12期の9.7%増は下回りました。

インドの成長率は底堅い面もあり、インフレ率の伸びは鈍い

市場予想ではインドの4-6月期のGDP成長率が前期を下回ると見込まれていました。4~6月に実施された総選挙期間中、(行動規範の適用により)政府支出が抑制された影響を考慮したからと思われます。結果を見ても4-6月期の政府支出は減少しており、想定通りとみられます。

なお、4-6月期の総固定資本形成は、少なくとも1-3月期を上回っていることから、民間の投資は比較的底堅かったとみられます。

4-6月期の個人消費は前年同期比7.4%増と堅調で、これは22年7-9月期の8.2%増以来の強さです。今年のインドのモンスーン期(雨期)の雨量が平年を超えていることや、物価の落ち着き(図表2参照)などが背景と思われます。

モンスーン期の雨量についてはインド準備銀行(中央銀行)の最近(8月8日)の金融政策決定会合でも「今年のモンスーンの雨量は長期平均を上回ることから作物の生産が向上する」と声明文で表明しています。

インフレ率の低下が、ある程度消費者心理を改善させた可能性もあります。インドの7月のCPIは前年同月比3.54%上昇と、6月の5.08%を大幅に下回りました。前年のベースが高かったことがインフレ鈍化の主な背景ですが、エネルギー価格は前年同月比で5.48%下落しました。原油価格の落ち着きが押し下げ要因となっています。

高騰が続いていた食料品価格も前年同月比で5.42%と、前月の9.36%を下回りました。インド政府は23年夏頃に米の生産悪化を背景に、関税や輸出禁止など米の輸出制限を科しました。しかし、足元ではこれらの制限は緩められています。

もっとも、ルピア安傾向が続く中、輸入インフレ懸念は残されています。短期的な価格動向を反映する前月比ベースで7月の食料品価格は2.82%上昇と警戒は必要です。

インド中銀は政策金利を据え置いたが、利下げ期待も高まっているようだ

インドの4-6月期のGDP成長率は、財政が下押し要因となった一方で、消費や民間投資が下支え要因であったことをみてきました。次に、今後の消費や投資を占うと、物価の安定や、投資の意思決定を左右する金利水準に注目する必要がありそうです。そこではインド中銀の金融政策の役割が重要です(図表3参照)。

インド中銀は23年2月に政策金利を6.50%に引き上げてから8月会合まで政策金利を据え置いています。据え置きの背景のうち、海外要因は、ルピー安傾向である中、米国との金利差縮小がルピー安を加速させることを回避する必要があったことが主な理由とみています。

国内要因として、昨年来の食料品価格の上昇などがあげられます。しかし、インドの7月のCPIはインド中銀の物価目標の中心値(4%)を下回っています。インド中銀は年内残り2回の金融政策決定会合(10月と12月)を予定しています。市場では10月利下げ開始を見込む声が増えているようです。

次に、投資の観点からインドの政策金利を見ると、水準は高く、利下げの必要性が高まっているように思われます。短期的な投資の意思決定を左右する要因の1つである実質金利(名目金利をインフレ率で調整)は、インフレ鈍化に伴い引き締め度合いが高まったと考えられるからです。

インド中銀の8月会合の議事要旨では据え置きの決定は賛成4、反対2でした。反対の2名が利下げを支持した主な理由は、金利が成長抑制的であること、その結果インドの実績の成長率は、潜在成長率を下回っている可能性があることを指摘しています。インフレを恐れるあまり、投資が抑制されているという指摘については、筆者もその可能性があるとみています。

なお、インドは長期的な投資先としての魅力を維持していると思われますが、直接投資がやや減速しているのは気がかりです。この原因は投資元の欧米の景気減速という仕方ない面がある一方で、インドの規制の複雑さなどへの不満もあるようです。これは政治が取り組むべき問題でしょう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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