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毎月勤労統計調査、賃金の伸びを維持したが
梅澤 利文
2024/09/06

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概要

7月の毎月勤労統計調査で、現金給与総額は前年同月比3.6%増と、市場予想を上回りました。実質賃金も0.4%増で2ヵ月連続のプラスとなりました。春闘の賃上げが反映されたことで、所定内給与は堅調に推移し、夏季賞与についても前年に比べ増加していたとみられます。日銀は市場混乱の落ち着きを待って追加利上げを模索する構えですが、今後の賃金動向は判断に大きな影響を与えそうです。




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7月の毎月勤労統計:実質賃金は0.4%増と2ヵ月連続でプラスだった

厚生労働省は9月5日に7月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)を発表しました(図表1参照)。名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は前年同月比で3.6%増の40万3490円と、市場予想の2.9%増を上回りました。2年7ヵ月連続の増加となります。6月は4.5%増でした。6月から7月にかけての夏季賞与の支払いが増加の主な背景とみられます。

名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で0.4%増と、市場予想の0.6%減を上回り、 2カ月連続でプラスを確保しました。6月は1.1%増でした。なお、実質賃金算出のベースとなる消費者物価(持ち家の家賃相当分を除いた総合指数)は3.2%の上昇でした。

毎月勤労統計は春闘の結果を反映した賃金の上昇がみられる

現在の毎月勤労統計調査は歴史ある調査ですが1990年1月の大幅な改正により現在に至っています。名目賃金(前年同月比)の変化率を91年から足元まで見ると、90年代前半までは日本の賃金は概ね平均2%程度のプラス圏で推移していましたが、日本の金融危機(97年~98年)以降、賃金は「上がらない」状況が最近まで続きました。

状況は変わりつつあります。連合が7月3日に発表した24年春季労使交渉(春闘)の最終集計結果によると、平均賃上げ率(ベースアップ(ベア)と定期昇給)は前年比5.1%増と、1991年以来33年ぶりの5%超えとなり、これが6月や7月の毎月勤労統計調査の賃金に反映されたことなどによります。

なお、金融当局は毎月勤労統計調査を見るにあたり調査対象事務所に入れ替えの影響が少ない「共通事業所」ベースの数字にも注目しています。共通事業所ベースの名目賃金は前年同月比4.8%増と、前月の5.1%増は下回るも、市場予想の3.2%増を大幅に上回り、高水準の伸びを確保しました(図表3参照)。

基本給に相当する所定内給与(きまって支給する給与のうち所定外労働給与以外のもの)は7月が3.0%増と、市場予想の2.8%増、前月の2.7%増を上回りました。名目賃金、所定内給与はともに良好な結果とみられます。春闘の賃上げが4月以降徐々に給与に反映されたことが押し上げ要因と思われます。春闘を反映した賃上げの動きが続く可能性もあり、8月も若干の上乗せがあるかもしれません。ただし、所定内給与は昨年6月から8月にかけやや変動が大きかったこともあり、予断を持たずに見守る必要があります。

賃金の伸びが今後も続くことが、日銀の追加利上げに求められよう

7月に3.6%増加した現金給与総額(名目賃金)の変動要因を寄与度で確かめます。名目賃金の変動を「所定内給与」、「所定外給与(時間外手当、休日出勤手当、深夜手当など)」、「特別給与」に分類しました(図表4参照)。なお、図表4の名目賃金は一般労働者のみを対象に分析しており、パートタイムの寄与は除いています。

図表4の右2本の棒グラフは名目賃金が大幅に上昇した6月、7月分です。増加に寄与した主な項目は特別給与であることが確認できます。特別給与は夏季賞与などのように、あらかじめ支給条件は決められているが、その額の算定方法が決定されていないものを反映するとされ、賞与の支払い期間のずれなどもありますが、今年の夏のボーナスが23年に比べ想定以上に増加したことが押し上げ要因として考えられます。経団連が8月に発表した大手企業の24年夏季賞与(ボーナス)の最終集計結果で、平均妥結額が前年比4.23%増と好調であったことと整合的だからです。

一方、図表4で所定外給与を見ると、足元で寄与が減っているように見受けられます。働き方改革の影響で残業時間が減っていることが影響したのかもしれません。

堅調な伸びを続ける所定内給与と、6月~7月は夏のボーナスの伸びが名目賃金を押し上げたと思われます。これは追加利上げを模索する日銀にとっては追い風と思われます。もっとも、当面は市場の混乱の落ち着きを待つ姿勢です。また、日本の選挙日程を考えれば、12月会合での年内利上げはぎりぎりのタイミングです。秋以降、25年の春闘で賃上げの機運が高まる経済環境であることが追加利上げに求められそうで、ハードルは低くはないようにも思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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