Article Title
インド中銀、金利を据え置きながら方針は「中立」へ
梅澤 利文
2024/10/10

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インド準備銀行は10月7日~9日の金融政策決定会合で政策金利を6.5%に据え置くことを決定しました。インドのインフレ率は7月、8月と一時的に鈍化していますが、今後も警戒が必要な面も残ると指摘しています。一方で、政策スタンスを「中立」に変更しました。インドの長期的な経済見通しは投資などに支えられ良好ですが、一部に鈍化の兆しもあり、政策金利の据え置きに変化も想定されます。




Article Body Text

インド中銀は市場予想通り政策金利を据え置いたが政策方針を「中立」へ

インド準備銀行(中央銀行)は10月7日~9日まで開催した金融政策決定会合で、政策金利(レポ金利)を6.5%で据え置くことを、賛成5、反対1で決定しました(図表1参照)。据え置きは10会合連続です。

市場では大多数が据え置きを予想していました。しかし少数は利下げを見込んでいました。米国の利下げに歩調を合わせ利下げに踏み切る国が多くみられる中、インドも利下げをするのではという思惑が利下げ予想の背景と思われます。インド中銀の今回の金融政策決定会合でやや意外だったのは、従来の政策方針から「中立」に修正しハト派(金融緩和を選好)色をにじませたことです。

インドのインフレは鈍化の兆しを見せるが、手放しで安心はできない

インド中銀のダス総裁は9日の記者会見で「インフレのリスクを過小評価することはできない」と述べ、政策金利を据え置きました。一方で、インフレ鈍化の可能性にも言及し、2019年6月以来初めて政策スタンスを全会一致で「中立」に変更しました。インド中銀の発表を受け、インド国債市場では利回りが低下しており、「中立」への変更は今後の利下げのサインと受け取られたようです。

この背景を明らかにするため、インドのインフレ動向を振り返ります。インドの8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.65%上昇と7月とほぼ同水準でした(図表2参照)。インド中銀の物価目標である4%±2%に収まっています。インフレ鈍化の背景は昨年の7月、8月の急激な物価高の反動(ベース効果)です。昨年は雨期(モンスーン)の雨量が少なく野菜など食品価格が急上昇しました。食品CPIは8月が前年同月比で5.66%上昇と依然高水準ですが、昨年のピークの11.5%に比べ鈍化しています。

しかし、インフレは鈍化し続けると、インド中銀は(そして市場も)見ていません。9月のCPIでは7月と8月のCPIを押し下げたベース効果が期待できないからです。また、食品CPIも豆類など品目によっては足元で2桁の上昇となっています。

さらに、ダス総裁は食品など変動の大きい項目を除いたコアCPIが、図表2にあるように、再加速の兆しを見せている点を指摘しています。インフレリスクについて過小評価はしない姿勢です。

インドで今年4〜6月に実施された下院の総選挙では与党・インド人民党(BJP)が事前の圧勝予想が外れ苦戦を強いられました。雇用問題や宗教(ヒンズー至上主義)などが苦戦の原因とされていますが、インフレも支持を押し下げたとみられます。

インフレへの批判はインド中銀も共有すべきところで、金融政策は22年4月から23年2月まで合計2.5%の利上げをした後、政策金利を6.5%で維持しています。なお、10月5日に実施されたハリヤナ州議会選挙ではBJPが過半数を確保しました。確定的なことは言えませんが、インフレに対する批判は収まりつつあるのかもしれません。

インドの長期経済見通しは良好だが金融政策に調整の余地もありそうだ

インドのインフレは今後も警戒は必要ながら落ち着きの兆しもある中、景気についても確認します。インドの4-6月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比6.7%増と、1-3月期の7.8%増を下回りました。ただし、インド中銀は成長鈍化の背景として、4-6月の総選挙期間中は財政政策が控えられたためと指摘しています。インドの消費と長期的な投資は堅調で、成長を下支えするとインド中銀は見込んでいます。インドの長期的な成長要因である投資は今後も順調な推移が見込まれます。

インド中銀のGDP成長率予想を見ても、今年度が7.2%増、来年度の4-6月期(第1四半期)が7.3%増と回復を見込んでいます。国内需要は底堅く、政府支出への制約がなくなること、内外からの投資意欲などが要因として挙げられます。インドの中長期的な成長ドライバーは健在と思われます。

しかし、短期的な景気サイクルには鈍化の兆しもみられます。インドの製造業とサービス業の購買担当者景気指数(PMI)指数は足元でやや下向きとなっています(図表3参照)。

インド中銀の今回の金融政策決定会合でも、反対の1票は0.25%の利下げを支持したためです。インドの金融政策委員会は6名で構成され、3名を内部から、残り3名をエコノミストなど外部から招聘して構成されるのが通常です。今回の会合は、3人の外部からの委員が新メンバーになって初めての会合でしたが、そのうちの一人のNagesh Kumar委員は今回の会合で反対票を投じました。インドの政策金利の水準はおそらく景気抑制的で、早めの調整(利下げ)の必要性を同委員は示唆したとみられます。そうした中、インド中銀はインフレへの警戒スタンスを維持し続けながらも、早ければ次回(12月)の利下げの可能性を筆者は念頭に入れています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ブラジルレアルの変動要因と今後の展望

ベージュブックにみるFOMC利下げの道筋

IMF世界経済見通し:下方リスクをより多く指摘

中国7-9月期GDP成長率と主要経済指標の結論

ECB政策理事会の主なポイントと今後の道すじ

インドネシア、タイ、フィリピン各国中央銀行の事情