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IMF世界経済見通し:下方リスクをより多く指摘
梅澤 利文
2024/10/23

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概要

IMFは2024年と25年の世界経済成長率を3.2%と予測し、米国の成長率を上方修正する一方で他の先進国は下方修正しました。地域格差や政策の不確実性が見通しに影響を与えています。新興国も同様に地域によって成長見通しが異なりました。IMFは成長見通しについて下方リスクをより懸念しています。関税引き上げや移民流入の減少などの政策が要因でシナリオ分析にその影響が示されています。




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  IMFは10月の世界経済見通しで成長率を概ね据え置いた

国際通貨基金(IMF)は10月22日、四半期に1度の世界経済見通しを公表しました(図表1参照)。IMFは24年と25年の世界経済の成長率見通しを同じ3.2%と見込んでいます。 24年と25年の成長率見通しは7月、その前の4月の世界経済見通しでも3.2%前後と見込まれており、数字上では景気の軟着陸(ソフトランディング)という基本シナリオが維持されています。

しかしIMFは今回の成長率見通しで、米国を上方修正する一方で、他の先進国を下方修正するなど地域格差が相殺された結果、数字が変わらなかったことや政策の不確実性を指摘しています。

世界全体の成長見通しは安定を見込んでいるが地域格差に注意が必要

IMFは24年の世界経済の成長率見通しを据え置き、25年も小幅な下方修正にとどめ、数字上では安定的とみられます。しかし、中身を見ると、地域格差で相殺された結果の据え置きであることや、今後は下方リスクをみているなどから不安を示唆する経済見通しとなっています。

地域別の成長率を見ると、先進国では米国が賃金上昇と資産効果などを受け堅調な個人消費を背景に24年は0.2%、25年は0.3%それぞれ上方修正されました。一方で、ユーロ圏は下方修正されました。製造業の回復の遅れなどが背景です。日本は24年が0.3%増と0.4%下方修正されました。24年に発生した認証不正問題による供給障害や23年のインバウンドブームの反動とIMFは説明しています。しかし、日本の25年の成長見通しは0.1%上方修正されており24年の下方修正は主に一時的要因によるものとみられそうです。

新興国も全体の成長見通しは24年、25年ともに4.2%で前回からの修正も小幅ですが、地域的に明暗が分かれました。中国を除いたアジアは半導体ブームの恩恵もあり上方修正されました。一方で、中東・中央アジア、サブサハラアフリカは地政学リスクや政治的な不安定さなどを背景に下方修正されました。

先進国、新興国ともに地域的な明暗もあり、幅広い回復というよりも勢いのなさが見られます。

シナリオ分析では、関税引き上げなどによる景気下押しの影響が大きい

IMFは世界経済成長率が2%以下となれば事実上の景気後退とみなしていますが、25年に景気後退が起きる確率は17%と、半年前の4月時点の推定値である12%から引き上げ、懸念が高まったことを示唆しました。ソフトランディングを見込む一方で、IMFは成長の下方リスクを懸念しているようで、その一端がシナリオ分析で示されています。

IMFは2つのシナリオ分析(AとB)により、それぞれ下方リスクと上方リスクが世界経済見通しに示された成長率をどの程度押し下げ(A)、または押し上げる(B)かを示しています。

シナリオAでは次の5つのリスク要因を挙げています。①グローバルな関税引き上げ、②貿易障壁、③(米国の)所得税減税、④欧米の移民流入減少、⑤金融環境の変化、です(図表2参照)。

IMFはシナリオ分析を欧米中と世界全体について行っていますが、図表2は米国のみを示しています。シナリオ分析の見方は、まず①は関税引き上げの影響(ベースラインの経済予測を押し下げ)を示しており、①により米国のGDP成長率は25年が0.4%、26年が0.6%低下することが示されています。②以降は順次影響が「追加」されることが示されています。②の貿易障壁は18年から19年の関税引き上げに伴い見られた貿易障壁で、緑の線は①と②の効果を合算したものを示しています。

③の点線は①、②、③の合計です。所得減税は米国にはプラス効果となるため、③は②の緑線を上回っています。③を下方修正のシナリオAに入れているのはこの分析が米国だけでなく他の地域にも行っているからです。米国では③は当然ながらプラスですが他の地域ではマイナスの影響も見られます。④は25年から移民流入が減少する影響で景気下押し要因です。⑤は25年~26年は緩やかな金融引き締めに転じるとの前提で成長率への影響を推定しています。

次に、成長率を押し上げる要因を分析したシナリオBです(図表3参照)。上方修正要因として①中国の構造改革として社会保障の拡充を挙げています。これにより不安感から極端に高くなっている中国の貯蓄率が低下し消費に回ることを想定しています。②は欧州の財政政策が拡大することを要因としています。図表3は図表2と同等に、①に②の効果を加えたものですが、対象地域として世界全体を示しています。①と②が行われた場合、27年の世界の成長率はベースラインの予測を1%程度上回ることが示されています。

シナリオ分析AとBを世界全体について比較すると、年によって影響度合いは異なりますが、下方修正リスクの方が大きく、それこそがIMFのメッセージなのだろうと筆者はみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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