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- 米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた
10月の米雇用統計では、非農業部門の就業者数が前月比1.2万人増と市場予想を大幅に下回りました。ハリケーンやストライキの影響が下振れ要因とみられます。平均時給は前月比で0.4%上昇しましたが、他の賃金関連指標に緩やかな減速が見られます。失業率は10月が4.1%で、前月と一致しましたが、労働参加率の低下で押し上げられた面もありそうです。10月の雇用統計の解釈は慎重に行うべきです。
10月米雇用統計で非農業部門の就業者数は市場予想を大幅に下回った
米労働省が11月1日に発表した10月の米雇用統計では、非農業部門の就業者数が前月比で1.2万人増と、市場予想の10万人増、9月の22.3万人増(速報値の25.4万人増から下方修正)を大幅に下回りました(図表1参照)。8月も速報値の15.9万人増から7.8万人増に下方修正されました。10月は大型ハリケーン(9月26日に「ヘリーン」が、10月9日に「ミルトン」が相次ぎ上陸)の被害や、大規模なストライキといった一時的な要因が就業者数の伸びを押し下げたとみられます。米労働省はストライキの影響について10月25日に、合計で約4万人超の影響があると指摘しましたが、ハリケーンなど天候要因の影響を数量的に把握するのは困難と声明文で述べています。
10月の就業者数が伸び悩んだ背景として天候とストライキがあげられる
米雇用統計は非農業部門就業者数や賃金を発表する事業者調査と、失業率などを発表する家計調査の2種類で構成されています。米労働省によると、事業所調査の平均時給などは悪天候の影響を受けやすい一方で、家計調査は受けにくいと指摘しています。10月の米雇用統計では、以下に指摘する点に注意は必要ですが、米労働市場に緩やかな鈍化が示されたとみています。
まず、非農業部門の就業者数の前月からの変化を部門別にみると、天候とストライキの影響が浮きあがります(図表2参照)。娯楽・宿泊や人材派遣などハリケーンの影響が想定される部門で伸び悩みがみられた一方で、影響が限定的とみられる政府部門は前月から伸びを確保しました。なお、今回の事業所統計では調査の回答率が低かったことを米労働省は指摘していまが、天候の影響を受けた地域とそうでない地域の回答率に大きな差がないことから天候要因だけでなく、回答期間のタイミングがより大きな影響を与えた模様です。10月の非農業部門の就業者数や平均時給を見るにあたっては回答率の低さにも注意が必要です。
ストライキの影響についてみると、製造業の就業者数が前月を大幅に下回ったことから、大手航空会社のストライキの影響が大きかったことが示されています。市場では天候とストライキによる10月の就業者数への影響として合計で10万人前後押し下げられたと見込んでいるようです。10月の非農業部門就業者数は前月比で1.2万人増にとどまりましたが、市場の目線は、影響を加味した水準を見込んでいると思われます。
図表1にあるように非農業部門の就業者数はコロナ禍後の過熱感からの伸びは明確に鈍化傾向です。また、8月、9月の就業者数は合計で11.2万人も下方修正されました。天候やストライキの影響を除いても、米雇用市場はソフトランディングに向かい緩やかな減速傾向であると思われます。
平均時給は悪天候の影響が考えられ、失業率も解釈には注意が必要
10月の平均時給は前月比で0.4%上昇と、市場予想の0.3%上昇、前月の0.3%上昇(速報値の0.4%上昇から下方修正)を上回りました。部門別にみると、注目度が高いサービス部門が0.4%上昇と堅調な伸びとなっています(図表3参照)。
ただ、繰り返しとなりますが、平均時給は悪天候の影響を受けやすいことは米労働省も指摘している通りです。また、平均時給は図表1で示した部門別の就業者の伸びの大小による影響を受けたことも考えられます。こうした中、この違いを受けにくい雇用コスト指数(ECI)は7-9月期が前期比0.8%上昇と前期の0.9%上昇を下回りました。幅広く賃金関連指標を見渡すと減速感もみられます。10月の米雇用統計で示された平均時給だけでなく、他の賃金指標も参照すると米国の賃金は緩やかな減速傾向にあるというのが筆者の見立てです。
家計調査により算出される失業率は10月が4.1%で、市場予想、前月(共に4.1%)と一致しました。悪天候で職に就けなかった人の取り扱いが事業所調査とは異なることなどから、家計調査に含まれる失業率は天候要因を受けにくいとされています。しかし、その失業率が4.1%で前月から変化なかったことから、10月の変動は限定的であったといえそうです。しかしながら、失業率の低下は労働市場への参入が減った労働参加率の低下が背景である点は割り引く必要があります。また、少数3桁目までみると10月は4.145%で4.2%に近く、9月は4.051%と4.1%の下限に近い数字でした。これらの点から、10月の失業率は緩やかながら上昇したとみられると筆者は考えています。
10月の非農業部門就業者数は今後、大幅に修正される可能性があり、来月以降の修正に注意が必要です。そうした中、解釈は慎重にすべきですが、10月の米雇用統計は労働市場の緩やかな軟化傾向(悪化ではなく)を示したとみており、ソフトランディングシナリオと整合的とみています。なお、10月の雇用統計が米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に与える影響は限られると考えており、年内2回の利下げ見通しを維持しています。
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