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- 注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理
中国の全人代常務委員会は11月8日に閉幕しました。注目の財政政策では、市場の一部が期待していた需要刺激策の発表はなく、地方政府の既存債務を特別地方債に交換する方針が発表されました。これにより市場は失望し、株価などが下落しました。藍仏安財政相は来年の強力な財政政策を示唆していますが、中国当局の問題解決には全体を把握する時間も必要で、長期的取り組みが求められます。
中国全人代常務委員会では地方政務の債務借り換え策が発表された
中国では全国人民代表大会(全人代)常務委員会(11月4日~8日)が予定通り8日に閉幕しました。事前の報道などから市場では、今回の常務委員会で景気刺激策を伴う財政政策が発表されることに対し期待が高まっていたようです。しかし発表された内容は地方政府の既存債務の借り換え(債務交換)にとどまりました。
常務委員会の発表を受け、上海総合指数などに代表される中国株式市場に失望感が見られました(図表1参照)。中国経済を反映するといわれる銅価格(ロンドン金属取引所(LME)3ヵ月先物)も、同様に下落しました。
常務委員会では既存債務を交換する地方特別債の発行枠が承認された
11月の常務委員会後の8日の会見で、今回の財政政策は既存(隠れ)債務の交換にとどまったことに対し、失望も見られました。事前の報道などを受け期待されていた家計への直接給付や住宅市場の活性化など需要刺激策が今回の政策に含まれなかったことが失望の背景と思われます。
しかし、藍仏安財政相は会見で25年に強力な財政政策を実施するとも述べており、本格的な財政政策は先延ばしされただけとも受け取れそうです。中国の経済対策は、長期的な取り組みが求められると筆者はみています。
まず、今回の債務交換の内容を振り返ると、地方政府特別債(LGSB、地方特別債)発行枠として合計10兆元(約214兆円)が承認されました。その内訳は、①3年間(24~26年)で合計6兆元の地方特別債の発行枠容認、②5年間(24~28年)で各年8,000億元の地方特別債の発行枠容認です。なお、6兆元の地方特別債、24年末の地方政府特別債の発行上限を29兆5,000億元から35兆5,000億元へ引き上げることに伴います。
合計10兆元とされる地方特別債は、地方政府の既存の債務(隠れ債務)と借り換え(債務交換)に利用されます。中国の地方政府が抱える隠れ債務の金利負担を抑えることが今回の地方特別債に期待されています。
中国の地方政府の合法的な資金調達ルートは、本来地方債に限られます。しかし、地方政府は傘下の投資会社である融資平台(LGFV)を資金調達に活用し、これが隠れ債務と呼ばれています。問題なのはLGFV経由の資金調達は利払いなどのコストが高いとみられることです。隠れ債務を(利率の低い)特別地方債と交換して地方政府の債務返済負担を和らげるのが今回の政策の主旨とみられます。
藍仏安財政相は、債務交換により、地方政府の利払い負担は5年間で計6,000億元節約できると説明しています。また、23年末時点での隠れ債務残高は14兆3000億元だとも述べた一方で、(今回の措置により) 今後2兆3000億元に減ると述べています。
債務交換は既存の債務との借り入れ条件などを変更した交換であるため、中国全体でみれば、借り入れを増やすというものではありません。市場が期待していたのはネットで財政を拡大して消費拡大策が講じられるとの期待もあったようですが、その点は失望に変わったとみられます。
もっとも、藍仏安財政相は来年の強力な財政政策の実施を示唆しており、市場の失望と言っても、決して政策を完全にあきらめたわけではなく、次への期待は残っているようです。筆者も常務委員会より、来年の経済政策を検討する中央経済工作会議(おそらく12月開催)や、来年3月の全人代に注目すべきとみています。
中国の本格的な財政政策は来年以降となりそうだ
毎年3月に開催されることが多い中国の全人代ではその年の経済成長率の目標が注目されます。成長率目標以外の経済目標(失業率など)や財政目標も発表されます。財政では財政赤字対GDP(国内総生産)比率なども発表されます。中国が直面する地方政府の債務問題や不動産問題は規模が大きく、中国当局としてもおそらく全容の把握に時間が必要と思われることが、少なくとも全人代や、その土台となる中央経済工作会議を待つ必要があると考えています。また、地方政府の債務や不動産問題の解決には中央政府の支援が必要で、抜本的な対策を講じるには経済目標の調整も必要と思われます。
隠れ債務残高について、藍仏安財政相は約14兆元と会見で述べましたが、国際通貨基金(IMF)の推計ではLGFVの債務残高は毎年5兆元程度増え続けているうえ、24年には60兆元(対GDP比で約50%)に上ると見込まれています。しかしながら、これは中国当局が少なく見せようとしているのではなく、問題の全体規模の把握と対策を準備する段階にあるというのが筆者の仮説です。
中国のように深刻な問題に直面している国が、根本問題に目途がつく前に、財政政策として家計にクーポンを配るような需要刺激策を実施しても、景気の底割れ回避には役立つとしても、問題解決につながらないことは、日本の90年代の不良債権問題への対応からも想定されます。
中国の地方政府の収入は不動産の売却に依存していた中で、中国の住宅市場の不振が債務問題を悪化させたとみられます。形は違うにせよ不動産問題が根本にあったという点で、中国は日本の経験を活かしているのかもしれません。
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