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10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点
梅澤 利文
2024/11/18

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概要

10月の中国の主要経済指標は、小売売上高が市場予想を上回る一方、工業生産や固定資産投資は予想を下回りました。小売売上高は消費刺激策や特殊要因が影響しており、持続的な回復には慎重な見方も必要と考えます。固定資産投資は横ばいながら、けん引役であったインフラ投資に息切れ感がみられます。したがって低迷続きの不動産投資の回復に向けて抜本的な政策対応が求められます。




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中国の10月の主要経済指標は小売売上高は堅調、他は前月並みだった

中国国家統計局は11月15日に10月の主要経済統計を発表しました。内訳をみると、消費動向を示す小売売上高は前年同月比で4.8%増となり、市場予想の3.8%増や前月の3.2%増を上回りました(図表1参照)。

10月の工業生産は前年同月5.3%増と、市場予想の5.6%増、前月の5.4%増を下回りました。電気自動車(EV)など新エネルギー車の生産や、集積回路が伸びを押し上げました。

10月の固定資産投資は(年初来)前年同期比で3.4%増と、前月から伸び率は横ばいで、市場予想の3.5%増を下回りました。製造業投資が伸びをけん引した一方で、不動産投資は低調でした。

小売売上高は市場予想を大幅に上回ったが、内容には注意が必要

10月の中国主要経済指標のうち、市場予想を上回ったという点で小売売上高、もしくは個人消費に底打ちの兆しは見られました。しかし、小売売上高の内容を見ると、当局の景気刺激策に頼るという特殊要因があり、中国の消費の持続的な回復の始まりと判断するには時期尚早と思われます。

小売売上高の8月から10月の伸び(前年同月比)を主な品目別にみると、化粧品が40.1%増、家電は39.2%増と大きく伸びました(図表2参照)。また、図表にはありませんがスポーツ・娯楽用品は26.7%増、自動車もEVを中心に堅調でした。全体の1割を占める飲食は3.2%増と、9月、8月とほぼ同水準でした。

中国の10月の小売売上高が増加した背景として、①ネット通販のセールの前倒し効果、②中国当局の消費刺激策、が挙げられます。

①は中国で最大級のセールである「独身の日」のセール開始が前年より10日ほど前倒しされた分、10月の小売売上が伸びた可能性があります。衣類や、化粧品の伸びはこの効果が考えられます。

②は国家発展改革委員会などが7月25日に発表した「大規模設備更新と消費財買い替えへの支援強化に関する若干の措置」による家電(電気製品)やEVの買い替えに対する補助金が消費を押し上げたとみています。なお、家電などの補助金政策は、5月に開始されましたが補助金の規模が小さかったことから効果が限定的でした。7月の消費刺激策では補助金を拡大して消費の落ち込みを防ぐという当局の姿勢の強まりがありました。

また、9月には、不動産対策、金融緩和、株式市場対策の3本柱からなる景気刺激策が発表されテコ入れ策が続いたことなども、間接的に9月以降の消費の下支え要因となったのかもしれません。補助金の効果で年内は消費が下支えされるとの見方もあり、中国政府の経済成長率目標(5%前後)達成に向け、ある程度の支えになることも考えられそうです。

しかし、景気を反映しやすい飲食店での消費の伸びは3%程度と低水準で推移しており、消費に慎重な面が見られます。また、不動産不況を反映して、建築材料はマイナス圏での推移が続き、改善の兆しが見られません。①は一時的要因であり、②の補助金は需要の先食いという面もあります。したがって、消費がしばらく底堅く推移したとしても、底打ちしたと判断するのは時期尚早とみています。

10月の固定資産投資は横ばいだが、抜本的な対策の必要性を示唆

次に、工業生産は前年同月5.3%増と、24年の成長目標に沿った数字を確保しました。ただ、押し上げ品目の新エネルギー車は補助金による底上げもありそうです。半導体(集積回路)が好調であったのは米中対立が本格化する前の駆け込み需要の可能性もあり、工業生産は今後の展開に不安も残ります。

固定資産投資は10月も前月と同じく前年同期比で3.4%増にとどまりました(図表3参照)。内訳をみると、不動産投資は10.3%減と低迷が続く一方で、インフラ投資と製造業がけん引役となる構図が続いています。しかし、図表3にあるように、10月の製造業投資は前年同期比で9.3%増と、おそらく新エネルギー車の生産増への対応や半導体の内製化などを背景に、堅調さを維持しました。一方で、インフラ投資は4.3%増とけん引役としては物足りない数字です。一対一路政策など、海外にインフラ案件を求めている中国にとって、国内インフラ案件が伸びる余地は、技術革新でもない限り、限られているのかもしれません。

固定資産投資のけん引役に過度な期待はできない中、底上げの鍵は低迷が続く不動産投資の回復とみられます。金融緩和や頭金の引き下げなどのテコ入れ策は過去にとられましたが、効果は限られ、むしろ本格的な回復には不良債権処理や未完成住宅の完成引き渡しを地方政府でなく、中央政府が主導する必要があると筆者はみています。来年3月とみられる全国人民代表大会(全人代)を目途に、中央政府主導で不動産問題への対策が打たれるかに筆者は注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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