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- 12月のユーロ圏インフレ指標とECBの今後の方針
12月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.4%上昇し、市場予想と一致した。エネルギー価格の上昇は12月のインフレを再加速させる要因となったがテクニカルな面が強い。総合CPIに占める構成割合の高さなどから、サービス部門の価格上昇により注目すべきであろう。ECBはユーロ圏の景況感やインフレ鈍化への見込みから利下げ路線を維持するだろうが、慎重に進める必要もありそうだ。
ユーロ圏の12月の消費者物価指数は全体の伸び率が3ヵ月連続で加速
欧州連合(EU)統計局が1月7日に発表した24年12月のユーロ圏の消費者物価指数(総合CPI、欧州連合(EU)基準)は、速報値で前年同月比2.4%上昇し、市場予想と一致したが、11月の2.2%上昇を上回った(図表1参照)。価格変動の大きいエネルギーや食品を除いたコアCPIは2.7%上昇と、市場予想、前月に一致した。
総合CPIを構成指数別に見ると、衣料品などモノの価格を示す財は前月とほぼ同水準で落ち着いていた一方、エネルギーは前月の2.0%下落から12月には0.1%上昇し、プラス圏に転じた。賃金動向を反映しやすいサービスは12月が4.0%上昇と高水準なうえ、前月を上回った。
ユーロ圏CPIを部門別に見ると、サービスの動向に注意が必要なようだ
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は昨年9月や10月の政策理事会後の会見でユーロ圏のインフレについて、当面エネルギー価格の(対前年比での)上昇を背景に短期的な加速が想定されると指摘した(図表2参照)。足元のユーロ圏のインフレ率は「予告」通りの動きと見られ、段階的な利下げ方針に変更を迫るものではなかろう。
ユーロ圏の総合CPIをサービス、財、エネルギー、(図表1にはないが)食品の4部門に分けて前年同月比の伸び率を見ると、エネルギー以外の3部門は前月と同水準だった。サービスは11月が3.9%上昇と12月とほぼ同水準だ。
一方、エネルギーは2.0%減から0.1%上昇とインフレ押し上げ要因だった。この背景を、ユーロ圏のエネルギー価格動向(天然ガス価)の指標とされるオランダTTF(先物翌月物、図表2)で確認しよう。図表2の点線で示したように、1年程前、天然ガスの先物価格は高値を付けていた。この反動で足元のエネルギーの前年比の伸びはこれまでマイナス圏だったが、その効果は失われているようだ。
もっとも、総合CPI に占めるエネルギーの構成割合は10%弱で、天然ガスの価格が急上昇するなどの事態とでもならなければ、エネルギーが総合CPIに与える影響は大きくはないのではないか。
やはり注目すべきは構成割合が約45%と半分近くを占めるサービスだろう。12月のサービスは4.0%上昇と高止まりの背景となっていた。サービスは賃金動向を反映する傾向があるとされるが、ラガルド総裁の「予告」ではユーロ圏のインフレ率は(足元のように当面再加速するが)25年末に向けて2%の物価目標に向け鈍化すると見込んでいる。この背景に、ECBが賃金の先行指標として参照する賃金トラッカーは賃金の先行きの伸び鈍化を示唆していることが挙げられそうだ(図表3参照)。賃金契約の更新には時間がかかるため、賃金トラッカーは求人広告データを活用して先行性を持たせた指数となっている。このため賃金動向の先行指標として参照されている。ただ、実際の賃金動向の指標とされる妥結賃金は24年7-9月期が前年同期比で5.4%増と伸びが拡大している。賃金トラッカーとの乖離の大きさは気になるところだ。
おそらく、ECBは賃金鈍化を想定して利下げ方針は維持するものの、実際の賃金の伸び鈍化を確認しながら利下げを進めると思われる。
ECBは景況感悪化を懸念しつつ、インフレやユーロ安に配慮する方針だろう
ECBは今年、ユーロ圏のインフレ鈍化に伴い慎重なペースで利下げを進めると筆者は見ている。昨年9月の(米国の大幅利下げに合わせた)0.5%幅での利下げはむしろ例外ではないかと考えている。
ユーロ圏の景況感や政治の不透明さを考えれば景気テコ入れに追加利下げのペースを加速させてもよさそうなものだ。しかし、インフレ鈍化のペースが鈍いことが利下げペースを抑えそうなことはこれまで指摘した通りだ。
加えて過度なユーロ安への懸念も利下げペースを抑える要因と見ている。ユーロ安が輸入物価を押し上げる懸念もあるからだ(図表4参照)。もっとも、22年頃のような輸入物価の急上昇は為替よりもエネルギー価格の急上昇が主な原因である点に注意は必要だ。ただし、市場は1-3月にユーロが対ドルでパリティ(等価、1.00)となる確率を4割程度見込んでいる。米国景気の強さもユー安要因であり、この要因は年内ユーロ安圧力となりそうだ。こうしたなか、ECBはユーロ圏の景況感に懸念を持ちながら、インフレやユーロ安抑制に配慮した慎重な政策運営が求められそうだ。
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