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- 経済学のキホン⑤ ~経済思想史②
アダム・ スミスが主張した経済理論やその思想は後の経済学者に大きな影響を与え 、現代の資本主義経済にもつながるものが多いため 、基本知識として理解することが重要です 。
■経済学の父 アダム・スミス
今回は産業革命が進展した18世紀後半に登場し、著書「国富論(1776年)」で有名な「アダム・スミス」についてご説明します。アダム・スミスはその著書の中で、重商主義を批判し、自由放任主義に基づくさまざまな経済理論や思想を展開しました。そして、その理論や思想は後の経済学に大きな影響を及ぼしたため、(古典派)経済学の父とも呼ばれます。経済学者であると同時に哲学者でもあったアダム・スミスが唱える理論は、人間の道徳心の存在を前提としているため、もう一つの有名な著書である「道徳感情論(1759年)」の内容にも一部触れながら、アダム・スミスの経済思想をご説明していきます。
■重商主義批判と国富の考え方
アダム・スミスの考え方は重商主義批判に基づきます。重商主義について簡単に振り返ると、国が豊かになるためには金、銀等の獲得、蓄積が重要であり、そのために商業中心の経済政策を執り、国家が積極的に貿易や国内産業に介入する必要があるという経済思想です。一方、アダム・スミスは国の豊かさについて、労働によって得られるモノやサービスの蓄積こそが真の豊かさだと考え、豊かさの源泉を労働とする労働価値説を主張しました。より多くのモノやサービスが蓄積するためには生産性を上げる必要があり、それはすなわち労働の価値の向上を意味します(図表1)。また、労働価値説では、モノの価値の尺度を金、銀等ではなく、そのモノを生産するために投下された労働量に求めました。金、銀等はあくまでモノと交換する手段にすぎず、モノの価値は労働によって決まるとする考えです。さらに、産業や貿易への国家介入についても、モノやサービスが国内に入ってこなくなることに加え、他国との競争力を弱め、生産性を下げるとし、規制のない自由貿易を主張しました(図表2)。では、アダム・スミスが考えた、豊かさの源泉である労働の価値を高めるため、つまり生産性を高める経済理論とは具体的にどういうものだったのか、確認してきましょう。
図表1:重商主義とアダム ・ スミスの思想比較
図表2:労働価値説
■労働価値を高めるための「分業」
生産性の向上を説いた理論の一つが「分業」です。アダム・スミスは国富論において、パンの生産工場を例に、一人ひとりが役割分担をせずにただ漠然と作業をするよりは、工程ごとに人員を割り振り、それぞれが割り振られた作業だけを行う方が生産効率が上がるとして、「工場内分業」を推奨しました。同時に、社会全体を見たときに、存在するさまざま職業自体も「社会的分業」であると捉えました。一人ひとりが特定の作業や職業に特化することで労働の価値が上がる、つまり生産性の向上や各分野における専門化の進展が期待でき、それに伴う市場の成熟が社会全体の経済成長、つまり国の豊かさにつながるという考えました。分業についてシャツの生産を例にイメージしたものが図表3になります。
図表3:分業について
■「見えざる手」と自由放任主義
1ぺージ目でアダム・スミスは国家が管理、介入しない自由な貿易や競争が労働価値を高め、国を豊かにすると説いたとご説明しましたが、、このように考えた背景には、市場には価格の自動調節機能である「見えざる手」が存在するという思想がありました。具体的には、たとえ国家が管理、介入せずとも、個人がそれぞれの利益を追求した結果は最終的に公共の利益に一致し、需要と供給の均衡も自然に図られるという考え方です。全員が利己的に動く場合、経済はもちろん、社会そのものの秩序が破壊されることが懸念されます。しかし、アダム・スミスはもう一つの著書「道徳感情論」で、人間は一見、利己的に見えても、内部には他人と共感、同感する力を備えており、この力が道徳の一般法則を形成し、社会秩序の維持に寄与していくと述べており、世の中の経済活動においても、この共感力や同感力が秩序ある調和のとれた生産と消費(需給バランスの均衡)に結びつくと考えました。誰しもが利己的に動いても、たとえ公共の利益を意識して活動していなくても、最終的には社会全体の豊かさにつながっていく、この流れを導くものを見えざる手と表現しました(図表4)。
また、アダム・スミスは産業や貿易に国家が関与しない、自由貿易や自由競争を主張しましたが、これは制限のない資本投下(設備投資)や資本形成が生産性をより向上させると考えたからです。労働価値説に基づいて、価値は投下された労働量で決まるとすれば、さまざまな産業注に資本が投入され、多くの労働の機会をつくる必要があります。このようにして、労働の機会が増え、多くの人が労働に参加すれば国が豊かになるとアダム・スミスは考え、国家による管理や介入を批判しました。
図表4:見えざる手
このように、国家が管理介入せずとも、見えざる手によって秩序ある調和のとれた経済活動や市場形成ができると考え、また、生産力向上のための資本投下や資本形成を促す考え方は自由放任主義と呼ばれました。ただし、あくまで自由放任主義は人の内面に宿る共感力や同感力が前提としてあることを理解する必要があります。
注:資本投下の順番は、農業が最優先だと考えられました。
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