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経済学のキホン⑥ ~経済思想史③~
2024/03/21

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概要



資本主義を批判するかたちで広まった社会主義的思想と、それを理論化したカール・マルクスの主張は当時の社会に大きな影響を与え、資本主義が見直される契機となりました。



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■ 社会主義的思想の広がり

今回は社会主義的思想とカール・マルクスを中心にご説明します。まず、社会主義的思想についてです。これまでご説明してきた、商業革命後からアダム・スミスの自由放任主義までの時代においては、価値を生産する手段(資本)を持つ「資本家」と生産手段を持たず労働力を提供する「労働者」という2つの階級が存在しており、それが基本的な社会構造でした。このような社会を資本主義社会といいます。18世紀後半には、産業革命による労働生産性の向上によって、資本主義がさらに成熟し、国や社会を豊かにしていきました。一方で、富が資本家ばかりに集中し、労働者へ適正に分配されず、資本家と労働者の階級的対立が加速するという事態が発生する中で、貧富の差が拡大していきました。このため、資本主義への批判を持つ人々が増えはじめ、労働者の環境を改善し、貧富の差からの解放を望む社会主義的な思想が広がりはじめました。この思想を理論化した人物がカール・マルクスです(図表1)。


図表1:経済思想史の変遷




■ カール・マルクス

マルクスはアダム・スミスと同じく労働価値説を支持しましたが、批判的に継承し、資本家と労働者という貧富の差を生み出す階級的対立を解消しなければ真の国富は得られないと考え、資本主義を批判する立場にありました。そして、労働者を主体とする社会(共産)主義国家の実現の重要性を訴え、資本家の持つ資本を社会全体で共同保有するために資本家を暴力的な革命によって打ち倒す必要性を説きました。この社会主義的思想を最初に記したのがフリードリッヒ=エンゲルスとの共同著書「共産党宣言(1848年)」です。さらにマルクスは著書「経済学批判(1859年)」や「資本論(1867年)」で資本主義の問題点を明らかにし、社会主義思想を科学的社会主義として理論化しました。マルクスが説いた経済思想について詳しく確認していきましょう。


■ 唯物史観と社会主義社会の実現

哲学者としてキャリアをスタートしたマルクスは最初に「唯物史観」という思想を持ちました。この考え方は「人間社会の土台となるのは経済であり、この経済の在り方に変革が起きることで、思想や政治に変化を与え、新たな社会が形成されていく」というものです。この唯物史観に基づくと、資本主義も、過去の社会変革の流れに従い、自然発生する生産関係の矛盾や階級闘争による革命を経て、社会主義に落ち着くと考えられることになります。マルクスにとって、資本主義は社会主義実現にいたる最後の敵対的思想でした。この唯物史観についてもう少し詳しく確認していきましょう(図表2)。

マルクスは世の中には物資のみが存在し、その物質によって精神がつくられると考えました。人間が考える物事はすべて、物質からの影響を受けて発生するという考え方です。よって、その物質の生産力や生産関係による経済が社会をつくる土台(下部構造)として存在し、その上に、経済に制約されるかたちで精神、つまり政治、法律、思想等(上部構造)がつくられると説きました。この考えに沿うと、過去より経済はあらゆる発展を遂げてきましたので、その度に新たな社会の形成を人間は繰り返してきたといえます。マルクスはこの過程に、常に生産関係の矛盾や階級間の対立、闘争があったと説いています。つまり、資本主義を考えると、その発展が生み出した貧富の差という生産関係(資本家と労働者)の矛盾によって人々の不満が生まれ、その矛盾を解消するために階級闘争がおき、資本を社会の共有財産とするために資本家を打ち倒すための革命が、資本主義に変わって社会主義社会を導くということになります。


図表2:唯物史観


■剰余価値説

では、なぜ資本主義社会において、資本家と労働者の生産関係に矛盾や対立が生じるのか、マルクスが考える労働価値説についてご説明いたします。労働価値説の基本的な考え方は、モノの価値は投入された労働量で決まるというものです。このとき、マルクスは労働量の内訳に注目しました(図表3)。従来の労働価値説に基づけば、労働者が提供する労働力の価値は、労働によって生み出されたモノの価値や労働の対価として支払われる賃金とイコールになるはずです。しかし、実際にはそれらはイコールではなく、労働者は常に賃金以上の価値を生み出しており、モノの価値から賃金を差し引いた部分、「剰余価値」が存在し、資本家はその剰余価値を利潤として得ているとしました。言い換えれば、資本家は労働者に適正な賃金を支払っていないことになり、これを「搾取」だと説きました。もちろん、剰余価値はさらなる生産活動拡大のために新たな資本につかわれます。マルクスもこの点には言及していますが、資本家が剰余価値、つまり利潤蓄積の最大化を目指す中での、適正な分配を受けられない労働者との貧富の差拡大を問題視しており、それはやがて資本主義の崩壊につながっていくと考えました。


図表3:剰余価値説



■計画経済

最後に「計画経済」についてご説明いたします。マルクスが掲げた社会主義的思想では資本主義社会で資本家が占領してきたあらゆる資本は社会全体の共有財産となり、すべての国民が階級の支配から放たれ、真の自由社会が実現します。このとき、資本は共有財産となるため、計画的に分配していく必要があります。そこで、マルクスは共有化された資本の分配を国家が策定した計画に基づいて行うことを主張しました。これが計画経済です。資本主義における自由な経済活動とは真逆のものになります。この計画経済ですが、当然すべての国民を常に満足させることは難しく、不満が溜まったときに社会がうまく機能しなくなる可能性があります。さらに、このとき計画を策定する国家が、むりやり国民を締め付けてしまう危険性も孕んでおり、これは独裁政治につながることになるとの批判もあります。

 



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