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米国株式投資戦略 「囚人のジレンマ」に陥った米中貿易戦争
田中 純平
2019/05/21

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概要

米中貿易戦争は「囚人のジレンマ」に陥った可能性があります。「囚人のジレンマ」とは、利害の対立する状況にある集団の行動を数学的に捉えた「ゲーム理論」の概念で、お互い協力した方が良い結果になると分かっていても、相手を裏切ったほうが利益を得る状況では互いに協力しなくなる、という現象を指します。



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「囚人のジレンマ」とは?

意思疎通が出来ない別々の部屋で尋問を受ける容疑者Aと容疑者Bがいたとします。この二人が取れる選択肢は、「黙秘」又は「自白」のいずれかです。二人とも黙秘した場合はいずれも懲役2年です(図表1の左上)。一方、一人が自白し、もう一人が黙秘した場合は、自白したほうが懲役1年、黙秘したほうが懲役10年になります(図表1の右上と左下)。そして、二人とも自白した場合はいずれも懲役5年になります(図表1の右下)。本来であれば、二人とも黙秘することが最適な結果となりますが、相手が裏切るかどうか分からない状況では、二人とも自白する選択肢を取ってしまいます。これが「囚人のジレンマ」です。

 

 

米中貿易戦争を「ゲーム理論」に当てはめると?

上記の例を米中貿易戦争に当てはめたのが、図表2になります。ここでは簡略的に、米国が取れる選択肢は追加関税引き下げ/引き上げとファーウェイ規制緩和/強化の2パターン、中国が取れる選択肢は(中国企業に対する)産業補助金撤廃/維持と(米国企業からの)技術移転禁止/強要の2パターンとします。米中を含めたグローバル経済を考慮すれば、米国は追加関税引き下げとファーウェイの規制緩和、中国は産業補助金撤廃と技術移転禁止を選択すべきです。しかし、中国が産業補助金撤廃と技術移転禁止を順守する一方で、(実行性を見極めるため)米国が追加関税の引き上げやファーウェイ規制強化を維持すれば、米国が覇権を握ることになります。反対に、(合意を受けて)米国が追加関税の引き下げとファーウェイの規制緩和を実行し、(合意に反して)中国が産業補助金維持と技術移転強要を維持すれば、やがて中国が覇権を握ることになるでしょう。このため、米国は追加関税引き上げとファーウェイ規制強化、中国は産業補助金維持と技術移転強要を選択する誘因が働き、貿易戦争が激化することになります。つまり、「囚人のジレンマ」に陥るわけです。実際の米中貿易交渉はこのような単純な構図ではありませんが、ゲーム理論を参考にすることで、米中貿易戦争の解決が一筋縄ではいかないことが理解できます。

 

 

米中貿易戦争は長期化へ。米国株式の慎重スタンスを堅持

今回発表された米国の追加関税第3弾やファーウェイ規制強化に加えて、実施が示唆される追加関税第4弾が発動されれば、グローバル経済に対しては明らかにマイナスとなります。米中貿易戦争が長期化の様相を呈してきた以上、今後は主要各国の輸出やPMI(購買担当者景気指数)といったマクロ経済指標の下振れリスクを見極める局面になります。米国株式は適温相場を背景に年初来で大きく上昇しただけに、当面は慎重なスタンスが求められます。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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