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ロシアのウクライナ侵攻:3つのシナリオ検証とQ&A
2022/03/09

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概要

ロシアがウクライナに侵攻して以降、ウクライナ危機は世界中の注目を集めています。ピクテで検証した「事態の緩和」、「紛争の定着」、「危機の深刻化」の3つのシナリオについてご紹介します。
またウクライナ危機についての質問について、運用担当者がお答えしています。



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ウクライナ危機:3つのシナリオを検証

2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻は、ここ数十年で最大級の地政学的ショックです。

これまでのところ、原油や商品価格の高騰し、株式市場は下落しています。制裁措置や企業活動の禁止によって経済と金融市場が機能不全に陥っているロシアでは、国内外の投資家が深刻な影響を受けています。一方、欧州の資産については、株式が10%超下落し、ユーロの水準は2002年以来、フェアバリューに対するディスカウントが激しい状況になっています。

【世界経済と金融市場への影響】

ウクライナの出来事は、侵攻前から懸念が顕在化していた「スタグフレーション」のリスクに拍車をかけた格好になりました。経済成長率の予測は既に引き下げられた一方、インフレ予測は上方修正されています。

明らかに、目先の最大のリスクは、ロシアの石油とガスの供給が途絶えることによって引き起こされるインフレの急伸であり、これは経済の勢いを著しく失わせ、潜在的には景気後退につながる可能性もあります。

ピクテの分析によると、現在のように原油価格がトレンドから50%上昇するたびに景気後退が起こっています。一世代前に比べて石油への依存度が下がったとはいえ、原油は依然として世界の国内総生産(GDP)に対して大きな比率を占めていることから、インフレ期待、ひいては消費者心理を動かしています。

このようなショックの影響は全世界で一様ではありません。例えばユーロ圏はロシアからのエネルギー輸入に依存しているため(ユーロ圏のガス消費量の約4割をロシアからの輸入に頼っています)、特に脆弱な状況にあります。

同時に、公共部門の大幅な財政赤字と高いインフレ率により、世界の主要国による追加の財政・金融刺激策の余地は、仮にあったとしても、限定されています。市場では依然として、米国の政策金利が今年中に150ベーシスポイント程度引き上げられると見ています。一方、ユーロ圏に関しては市場は今年の利上げを2回と見ており、侵攻前の3回から予想される回数は減少しています。欧州中央銀行がユーロ圏経済の支援のために介入する可能性は否定できませんが、欧州中央銀行(ECB)が新たな刺激策を講じるには、深刻な景気後退か、もしくはイタリア国債のスプレッドが250ベーシス・ポイント以上に拡大することが必要であろうと考えます。

しかし、リスクが明らかに高まったとしても、地政学的ショックは短期間で終わる傾向があることは重要なポイントです。通常、軍事衝突などの危機が発生すると、1-2ヵ月の間に株式は10%以上下落しますが、解決策が見えてくるにつれて、強い上昇に転じてきました。

【3つのシナリオとストレステストの結果】

最終的にどのような展開となるか知ることは不可能ですが、ピクテでは、事態の緩和、紛争の定着、危機の深刻化の3つのシナリオを検討しています。

米国と欧州の利益成長率および米国10年債利回りのモデルについて、最も妥当と思われるマクロ経済的結果を想定し、ストレステストを実施しました。

※ベスト・パフォーマー:ピクテの考えるベスト・パフォーマーです。
出所:ピクテ・アセット・マネジメント(2022年2月末時点)

【シナリオ1:事態の緩和】

ピクテで50%の確率で起こると予想している基本シナリオは、ウクライナとロシアが数週間以内に停戦に合意し、建設的な協議を実施するというもので、事態の緩和が予想されています。最も懲罰的な制裁措置(ロシアの銀行に対するSWIFT国際決済システムからのアクセス禁止やロシア中央銀行の資産凍結など)は解除されるものの、それ以外のほとんどの措置(ロシア政権に近い個人や団体が所有する資産の凍結や輸出制限など)は依然維持されるとみています。成長率とインフレ率の見通しは、当社が2022年に想定していたものから大きく逸脱する可能性は低いと考えます。米国と欧州の経済成長率はトレンドを上回り、インフレ率は2022年第1四半期にピークを迎えます。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めは、市場の現在の予想に沿って、3月に開始され、軌道に乗ることが予想されます。しかしFRBが成長の減速を代償として、よりタカ派的なスタンスに軸足を移すリスクは、ほぼないと思われます。このシナリオ1では、企業収益が10%上昇することで、世界の株式は年末までに最大15%上昇する可能性があります。米国10年債利回りは緩やかに上昇し、2.2%程度に落ち着くと予想されます。株式が最もパフォーマンスの高い資産クラスとなり、シクリカル・バリュー株への注目が維持されるとみています。

【シナリオ2:対立の激化】

望ましくないシナリオですが、このシナリオでは消耗戦が長期化することが想定されます。西側諸国はさらに制裁を強化しますが、ロシアからの反応は限定的です。欧州は穏やかな景気後退となり2022年の生産は1.5%減少することが予想されます。一方、米国のGDP成長率は長期トレンドの2%に近い水準まで減速することが予想されます。インフレ率は長期的に高止まりし、消費者心理を圧迫し、消費とサービスの回復を遅らせることになります。特にユーロ圏では、企業心理が弱く、投資に水を差すことになります。企業収益が10%減少するため、世界株式は現在の水準から最大で10%下落する可能性があります。米国10年国債利回りは年末までに1.7%程度と2%を下回る水準に落ち着くとみられます。この場合、欧州中央銀行(ECB)は緩和策を意識しながら金融政策の保留を継続すると予想します。FRBは金融引き締めのペースを緩めるとみられますが、それでも今年中に数回の利上げを実施するはずです。経済はスタグフレーションの方向に動き、コモディティ、米国株、優良株が最も良いパフォーマンスを示すことが予想されます。

【シナリオ3:危機の深刻化】

最悪のシナリオは、紛争が拡大し、NATOがより明確に紛争に関与するようになることです。西側諸国は全面的な貿易封鎖を行い、ロシアはエネルギー供給停止によりこれに対抗するとみられます。その結果、世界的な景気後退が起こり、ユーロ圏経済は4%縮小し、米国の成長率はわずかプラス0.5%にとどまると予想されます。この危機が欧州経済に与える影響は、エネルギー供給の不足や配給制により工業生産が打撃を受けるという二次的なものだけではありません。企業収益が25%減少し、株式は30%下落する可能性があります。そして米国10年債利回りは0.8%まで低下します。典型的な不況となり、国債、ディフェンシブ株、金が上昇するとみられます。

注 当社の収益モデルは、企業収益と名目GDP成長率、国内および世界経済の実質GDP成長率の加速度、および貿易ウエイトをかけた為替動向との景気循環の関係に基づいています。米国債利回りモデルは、米国経済先行指標、インフレ期待調査、FRBバランスシートに基づいています。

ウクライナ危機に関するQ&A運用担当者からの回答

Q:ロシア経済は制裁に耐えられますか?またロシアの資産はどの程度、投資可能でしょうか?

A:(ロシア株式担当シニア・インベストメント・マネージャー、ヒューゴ・ベイン)

ロシアにとって長期的な影響がどうなるかを判断するのは時期尚早ですが、短期および中期的にはロシア経済が壊滅的な打撃を受けることは明らかです。

ロシア政府は、世界がロシアの商品(エネルギーや資源)に大きく依存しているため、制裁を乗り切れると考えていました。しかし制裁の範囲とそのスピードは、プーチン政権の予想を上回るものでした。現在、ロシアの資本勘定は完全に閉鎖されようとしています。特にロシア中央銀行の資産凍結は、ロシアが自国経済を守るために期待していた盾を奪ったという意味で重大です。

ロシアの資産に関しては、ここ数日、ロシア株の売買は成立していません。国内市場を再開する計画があると聞いていますが、現時点でその確証はありません。仮に国内市場が開かれたとしても、資本勘定が事実上閉鎖されている以上、ロシア株が投資対象になるとは考えにくい状況です。

Q:他の新興国市場はどうなっていますか?      

A:(エマージング株式運用の責任者、キラン・ナンドラ)

新興国市場の中で最も恩恵を受ける可能性が高いのは、明らかに商品輸出国です。ラテンアメリカや中東がその例として挙げられます。

アジアは最大の商品輸入国であるため、一見すると損をするように見えますが、当社のマクロ経済分析では、その影響はまだ比較的限定的です。アジアには中国とインドという2大経済大国がありますが、どちらもまだ自己主導型の経済です。特に中国のA株は、地政学的リスクが高まったときに相関が低くなっています。

Q:ロシアは債務不履行に陥りますか?また、その債券は主要な新興国指数から除外されませんか?             

A:(新興国債券担当、メアリー=テレーズ・バートン)

債務不履行(デフォルト)になることは十分にあり得ると考えます。ロシアに支払い能力があることは明らかですが、その意思と能力は決して確かなものではなく、また仮に支払う意思があると仮定しても、制裁措置があるため非常に困難です。

ロシアの主要指数への組み入れも危うい状況です。現在、ロシアは「インデックス・ウォッチ」になっており、これまでのところ、指数のウエイトに変化は見られませんが、おそらくこの状況は長くは続かないだろうとみています。(追記:3月7日にロシア債券が全てのJPモルガン債券指数から3月末に除外されることが発表されています。)

※当資料はピクテ・グループの海外拠点が作成したレポートをピクテ投信投資顧問が翻訳・編集したものです。

 

 

 

 

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