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- 悪材料を織り込みつつある欧州株式
欧州株式市場は、世界的な金融政策引き締めや、ウクライナ戦争による地政学的リスクの高まりなどを受けて逆境の中にいるものの、相対的に割安な状態にあり今後上昇の余地があるとみています。
欧州株価は回復可能か
いくつかの理由から欧州の景気敏感株(景気変動に業績が左右されやすい特性を持つ)が短期的には株価の回復が大いに見込まれるとみています。
今年、株式市場の状況は厳しく、米国市場(S&P500指数)や欧州市場(ストックス欧州600)は引き続き逆風にさらされています。市場では織り込み済みとなっている米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策引き締め、長引くインフレ、サプライチェーンの停滞、中国のゼロコロナ政策などの影響を受けての世界成長の鈍化、そしてウクライナ戦争など、多くの問題が投資家心理の重石となっています。これを受けて両市場は下落傾向にあります。
これは、両地域の株価のモメンタムが引き続き悪化していることを示しています。どちらの地域の株価指数も、現在年初来で大きく下落しているナスダック総合指数とは異なり、まだ弱気相場入りには至っていません。米国では、FRBが景気を失速させることなくインフレを抑制すべく、いわゆる「ソフトランディング(軟着陸)」を実現できるかどうかを見極めるため、スタグフレーションや景気後退のリスクについての議論が高まっています。一方、欧州では主にウクライナ戦争の影響が注目されています。
経済面では、米国のGDP成長率は2022年第1四半期に前期比年率換算で1.4%低下した一方、ドイツでは同期間、概ね横ばい(前期比0.2%増)となっています。米国での、5月のNY連銀製造業景気指数(エンパイア・ステイト景況指数)の予想外の低下は、依然として製造業の活動が今後さらに低下する見込みであることを示唆しています。このような成長率の鈍化は、FRBが現在進めている長期間に及ぶ急な利上げを抑制する要因となる可能性があります。さらに、歴史的に見ても、過去の米国経済の後退局面においてFRBが利上げを行ったことはありません。
米国と欧州の株式市場はともに年初から下落しているものの、欧州市場は3月中旬以降、比較的堅調に推移
2月24日のロシアのウクライナ侵攻後、欧州株式が全体的に米国の同業銘柄のパフォーマンスを下回る傾向にあった時期がありました。投資家は紛争の激化、それに伴う食糧やエネルギー価格の上昇、成長率の低下といった最悪のシナリオを織り込み、欧州株式市場は3月8日に底を打った後、3月中旬に反発して米国市場に追いつき、その後4月には米国市場のパフォーマンスを上回りました。
この背景には、下記の通りいくつかの要因が考えられます。
堅調な企業業績:最近の欧州企業の決算発表をみると、欧州企業は堅調な業績を上げており、経営陣は厳しい環境にも関わらず、依然として経営状況に自信を持っているように見受けられます。
政策格差:現在、市場では欧州中央銀行(ECB)による初の利上げが早ければ7月に実施されるとの観測が広がっていますが、現在の経済的な逆風やウクライナ戦争の状況を鑑みると、ECBがFRBほどタカ派的である可能性は低いと思われます。
ユーロ安:ユーロ圏と米国間のセンチメントと金融政策の相違により、ユーロは対米ドルで6年ぶりの安値に近い水準にあります。欧州企業の多くは輸出依存度が高いことから、歴史的に見て、ユーロ安は欧州株には追い風となる傾向があります。
極端な市場心理:市場心理の極端な悪化がみられることから、逆張りの観点からは魅力的な投資機会となっています。従って、市場にとって明るいニュースがあれば、短期的に反発する可能性があります。例えば、第1四半期のユーロ圏のGDP成長率(2次速報値)が1次予測(前期比0.3%、速報値0.2%)を上回ったことで、リスクオンの相場状況となり、欧州株式の上昇に繋がりました。
中国:上海で3日連続で新型コロナウイルス感染者が報告されなかったというニュースは、それによって当局が規制を緩和し始める可能性もあることから、中国株式市場にとって追い風となります。また、政策当局は、新規住宅ローン金利の引き下げや、一部の不動産開発業者への信用支援強化など、経済支援の強化を発表しています。中国経済が回復に向かえば、アジア大国の経済に大きく依存している欧州の株式にとって短期的には追い風となることが見込まれます。
株価指数の構成:米国市場は依然として成長株が高い比率を占めることから、金利上昇時には、割安株の割合が高い欧州市場よりも大きな影響を受ける傾向があります。
なぜ短期的に株価が反発すると考えるのか、さらに、なぜ米国株より欧州株を選好しているのか、さらに詳細にみていきましょう。
1. 現在の株価について
米国と異なり、欧州では経済見通しの悪化は既に株価に織り込み済みと思われます。下のグラフは、S&P 500指数と独DAX指数がそれぞれの地域の経済活動をどのように連動してきたかを示しています。それぞれ米供給管理協会(ISM)新規受注指数と欧州製造業購買担当者景気指数(PMI)を指標としています。S&P500指数の年間リターンは現在の経済活動に追随しているように見えますが、独DAX指数と欧州の製造業指標の間には大きな差が開いています。このことは、市場心理、あるいは経済データに少しでも改善がみられれば、欧州の景気敏感株が急回復する可能性があることを示唆しているとみられます。
S&P500指数対ISM新規受注指数、独DAX指数対欧州製造業PMIの比較
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
2. 欧州の景気敏感株指数の対ディフェンシブ株指数相対パフォーマンスはファンダメンタルズを逸脱しているか
両地域の景気敏感株指数の対ディフェンシブ株指数相対パフォーマンスの推移と、それらがそれぞれの活動指標とどのように連動しているかを見ても、同様の結論が導き出されます。
米国では相対パフォーマンスは低下しているものの、ISM製造業景況感指数の低下と同水準であり、欧州では景気敏感株指数が相対的に大きく下落し、ファンダメンタルズ(基礎的条件)を逸脱しているように見えます。これは、欧州の景気減速に対する市場の期待を反映していると思われますが、わずかな改善でも景気敏感株の急反発につながる可能性があることを示唆していると考えます。
米国(上段)と欧州(下段)製造業ISM指数と景気敏感株指数の対ディフェンシブ株指数相対パフォーマンスの比較
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
3. 欧州企業EPS(1株当たり純利益)見通し、米国よりも高い上方修正
今年の株式相場は、主に金利上昇と地政学的緊張などによる影響が大きかったことから、企業決算は概ね底堅く、引き続き良好な内容が多かったものの、期待外れの動きとなりました。これは特に欧州において顕著となっています。年初来より企業は投入コストを適切にヘッジしていることから、2022年の予想EPSは欧州で9.4%、米国で2.6%上方修正され、この傾向は足元で、欧州では一段と加速しています。
ストックス欧州600指数とS&P500指数の構成企業における、2022年予想EPSの上方修正率推移
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
こうしたこともあり、足元では唯一、欧州企業は上昇修正の銘柄数と下方修正の銘柄数の差が拡大しています。
主要国・地域の企業における予想EPS成長率の上方修正と下方修正の銘柄数の比率の差
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
4. 欧州株はユーロ安の恩恵を受ける傾向がある
ストックス欧州600指数は、エネルギーや素材といった典型的なリフレーションの恩恵を受けやすいセクターへのエクスポージャーが高いため、これらのセクターの動向が、予想EPSの上方修正に大きな影響を与えています。また、対米ドルのユーロ安も大きな追い風となっています。
下のグラフが示すように、欧米の株式アナリストによる企業利益のコンセンサス予想は、ユーロ/米ドル為替に連動する傾向があり、ユーロ安になると欧州の株式は米国の株式よりも格上げされる傾向があります。従って、過去6ヵ月間に見られたユーロ安は、次の四半期まで維持される可能性が見込めます。
ストックス欧州600指数の対S&P500指数相対予想EPS成長率(左軸)と米ドル/ユーロ為替の前年比(右軸)の比較
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
米ドルは依然として安全資産と言える
現在の米ドル高は、主に高い不確実性の結果として安全資産への逃避が背景となっており、米国における金融引き締め政策、また正常化への移行も対ユーロでみると米ドル高の下支えとなっています。下記の長期テクニカルチャートでわかるように、ユーロ/米ドル為替は最近40年来の上昇傾向を打ち崩し、下落傾向がさらに続く可能性を示唆しているとみています。
ユーロ/円長期テクニカルチャート
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
※上記のテクニカルチャートにおけるターゲット・プライスは、チャート分析に基づくものであり、ピクテの金融リサーチ部門によるものではありません。
5. バリュエーション(投資価値評価)
相対的な評価では欧州株は現在、米国に対して27%割安で取引されており、これは過去20年間で最も割安な水準の範囲にあると言えます。過去1年間で、ストックス欧州600指数は23.5%の予想株価収益率(PER)の収縮に見舞われたのに対し、S&P500指数は18.9%に留まっており、両者のパフォーマンスは同じ(約3.5%)となっています。先に示したように、欧州株はもはや割高とは言えない一方、米国株は依然として割高な水準にみえます。企業利益の下方修正や高成長企業へのエクスポージャー増加を考慮すると、米国は更にバリュエーション低下のリスクにさらされる可能性があるとみています。
ストックス欧州600指数対S&P500指数 - 相対1年先予想株価収益率(PER)
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
今年は、全ての主要地域の指数が予想PERの低下に見舞われています。欧州の現在の予想PERは12.9倍で、2021年の15.9から低下しており、20年の歴史的レンジで見ても、現在の水準は相対的に割安感もみられます。一方、米国、新興国、グローバル全体では、依然として歴史的な高水準で取引されています。
世界の主要国・地域の株式市場:バリュエーション - 予想株価収益率(PER)
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
6. 投資家心理に改善がみられれば、欧州株式はさらにアウトパフォームする見込み
投資家は依然として比較的リスクを避けているものの、当社によるリスクオン・リスクオフ指標は最近、極端なリスクオフ領域からの回復の動きを見せています。これは、市場参加者が今後、より多くのリスクを取ることを望むようになる兆しと言えます。下の2つのチャートのうち、下段のチャートに示すように、極端なリスクオフのレベルの後には、通常、欧州株式のリターンがプラスになる傾向があります。この動きはすでに始まっているように見えますが、リスク選好の正常化が続ければ、今後もさらに欧州株式のリターンが拡大する余地があると考えられます。
ピクテの私設取引システムにおけるリスクオン、リスクオフ指標(上段)対MSCIヨーロッパ指数(下段)
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
7. テクニカル面での見通し
長期的なテクニカル分析では、ストックス欧州600指数は1996年以降、170~400の幅で推移しています。過去8年間、欧州のベンチマークは、強気の「メガホン」パターン(3つの高値と3つの安値で特徴付けられます。)を形成しながら、歴史的に見ての高い水準で取引されてきました。
2020年、株価指数はコロナウイルス感染拡大による暴落の後、320付近で留まり、その後急反発し、長期的に上値となっていた400付近を上回った後、490の歴史的な高値に向かいました。直近では、株価は勢いを失い、かつてのメガホン型上昇抵抗線である425付近で維持されようとしています。この水準は、新規買い付けの好機となる可能性があると考えています。
ストックス欧州600指数:長期テクニカルチャート
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
※上記のテクニカルチャートにおけるターゲット・プライスは、チャート分析に基づくものであり、ピクテの金融リサーチ部門によるものではありません。
短期的には、先週420ドル付近で強気の高値を形成した後、反発しました。この高値と年初来高値を結んだ455円付近が重要な水準となると考えられます。
ストックス欧州600指数:短期テクニカルチャート
出所:FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月16日時点
※上記のテクニカルチャートにおけるターゲット・プライスは、チャート分析に基づくものであり、ピクテの金融リサーチ部門によるものではありません。
欧州景気敏感株
ウクライナ戦争の継続、インフレ率の持続的上昇に対する懸念、また金融政策引き締めの見通しにより、投資家心理は極めてネガティブな水準にもかかわらず、逆張りの観点からは、欧州株の反発を狙った短期的な投資の好機となり得るとみています。今後、ニュースやデータにわずかでも改善が見られれば(FRBのタカ派的姿勢がやや弱まる、ウクライナ停戦の可能性、インフレのピーク・減速の兆しがみられるなど)、株式は下落圧力から回復する可能性があり、このシナリオが実現すれば欧州企業はより魅力的な投資先となるでしょう。
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