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欧州におけるエネルギー危機とこれに対する欧州委員会による緊急対応策に関して
2022/09/29

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概要

欧州におけるエネルギー危機とこれに対する欧州委員会による緊急対応策に関して状況を整理しました。



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欧州のエネルギーおよび電力価格は、2021年中に最高値を記録した後、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、過去最高値を更新しました。欧州の電力価格の高騰は天然ガス価格の高騰と本質的に結びついています(詳細は後述)が、欧州の天然ガス価格は2022年年初来で約3倍に上昇しており、またドイツ、オランダ、フランスなどでは電力先物価格(1年物)が2022年年初来で約10倍に上昇しています。

欧州委員会(EC)の直近の発表によると、域内の電力価格は高止まりすることが予想されます。ロシアによるガス供給の削減に加えて、発電所における保守作業の増加、夏場の異常気象を背景とした水力発電量の減少、一部発電所の老朽化による閉鎖などに起因して、ここ数ヵ月、域内の発電量が減少し、電力市場の先行きへの懸念が高まっているためです。

原子力発電の比率が高く、他国に比べて天然ガスへの依存度がはるかに低いはずのフランスの状況は特に注目されます。原子力発電容量が61ギガワットに達し、電力の純輸出国だったフランスが、2022年は、原子炉の保守・改修作業などの影響で純輸入国になっています。また、夏場の異常な猛暑により川の水温が急上昇したことから、一部の原子炉は、効率的な冷却が不可能となり、一時的に運転停止や出力抑制を余儀なくされました。こうした状況が相俟って、欧州域内の電力価格が一段と上昇しました。気候変動の影響が甚大な場合、原子力発電でさえ全面的には頼りに出来ないということを痛感させられることとなりました。

 

短期見通し:ECは、エネルギー価格の高騰を受け、緊急対応策を提案

ECは、エネルギー価格の高騰から消費者を守るため、新規の緊急対応策を提案しています。フォン・デア・ライエンEC委員長は9月14日に欧州議会で施政方針演説を行い、当該対応策は例外的な性格のものであり、期間を限定して適用すると述べています。

緊急対応策は2022年12月1日までに導入され、期限となる2023年3月31日の時点でECが見直しを行うこととなっています。

また、以下の3つの提案を包括した法案を議会で討議し、9月30日開催のエネルギー相理事会が必要に応じて修正を加えた後、制定することとなっています。

 

提案1:エネルギー消費の削減

ECは、2023年3月末までのエネルギー消費削減目標を10%とし、エネルギー消費のピーク時間帯における5%削減を義務付けます。欧州連合(EU)加盟国は、目標実現に向けた施策を任意に選択することが可能です。

施策には、鉄鋼メーカーなどのエネルギーを大量に消費するエネルギー集約型企業や、エネルギー価格高騰により甚大な影響を被る企業に対する金銭面での支援策が含まれます。

 

提案2:限界コストの低い発電事業者に対する収益上限の設定

欧州の電力卸売市場は一律価格(シングルプライス)市場であり、操業コストの多寡にかかわらず、すべての発電事業者に同一の売電価格が適用されます。売電価格は、最も高い入札価格に等しいため、操業コストが高い企業の利益が相対的に小さくなるのに対し、操業コストが低い企業の利益は相対的に大きくなります。

現状、最高入札価格は天然ガス価格に左右されますが、前述のとおり、足元の欧州の天然ガス価格は2022年年初来で約3倍に上昇しており、電力価格全体が急騰しています。その結果、再生可能エネルギー発電事業者を含む、限界コストが相対的に低い発電事業者の収益は急拡大しています。当該事業者の売電価格には、ECが提案した緊急対応策に含まれる施策により、1メガワット時あたり180ユーロの上限が課せられることになります。

上限を上回る超過収益はEU加盟国政府が徴収し、エネルギー価格高騰の影響に苦しむ消費者や企業の支援に充てられます。上限価格は、異常ともいえる足元の売電価格を下回っていますが、域内の再生可能エネルギー発電事業者にとっては好材料とみられています。これは、当初想定されていた上限価格の水準を下回るものであることに加え、再生可能エネルギー発電事業者の利益予想の視認性が向上するためです。再生可能エネルギー発電事業者の操業コストは低く、販売価格の上限が設定されても、高水準の利益を維持し続けることができると予想されます。

 

提案3:化石燃料生産者の超過利益に対する一時的な課税(超過利潤税)

エネルギー業界が、石油、天然ガス、石炭のいずれかを問わず、困難な時期に公平にコストを分担するよう、化石燃料生産者の「超過利益(過去3年の平均利益を20%上回る利益)」に対する33%の課税が提案されています。超過利益に対する課税は施行後1年間に限ったもので、250億ユーロがEU加盟国の最終消費者に再分配される見通しです。

 

 

長期見通し:EUは長期計画の規定のとおり、Fit for 55*および「リパワーEU計画」**を継続

足元のエネルギー危機を受けて石炭火力発電所が一時的に再開されており、ドイツ、オーストリア、フランス、オランダなどが老朽化した石炭火力発電所の期間を限定した再稼働を計画していますが、これは欧州のエネルギー移行計画が逆行したことを意味するのではなく、移行促進の必要性を強調するものとなっています。

「リパワーEU計画」に対するEUのコミットメントが変わっていないことは、ECの緊急対応策の発表や、期間を限定した化石燃料生産者からの超過利潤税が「リパワーEU計画」に沿った再生可能エネルギー、エネルギー効率の改善、脱炭素技術などに関連する投資の促進に充てられるという事実からも明らかです。

 

*2030 年までに温室効果ガス排出量を 1990 年比で 55%以上削減するという目標を達成するための包括的な政策パッケージ

**ロシア産化石燃料への依存脱却を目指す計画

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