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栄養への投資が人類と地球の健康に好ましい影響をもたらす
2023/08/25

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概要

ピクテ・アセット・マネジメント(以下、ピクテ)で、食の未来に関する「ニュートリション」に焦点を当てた運用を行っているインベストメント・マネージャー、メイサ・アル・ミダニ(Mayssa Al Midani)が、地球の食料システムが変曲点にあると考える理由について解説します。また、極めて大きな変革を起こすとメイサが考える解決策の幾つかを紹介します。



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「地球の食料生産システムは変曲点を迎えています」と話すのは、ピクテで食の未来に関する「ニュートリション」に焦点を当てた運用を担当するチームのリード・インベストメント・マネージャーを務めるメイサ・アル・ミダニです。メイサが率いるチームは、世界の人口に食料を提供する、農場から食卓に至るバリューチェーン上のマクロとミクロのトレンドを追跡しています。ですから「地球の食料生産システムは変曲点にある」とのメイサの発言は、単なる一般論ではなく、世界的なトレンドや市場の影響力についての綿密な分析を踏まえた発言であることに留意すべきだと考えます。

メイサによれば、足元の極めて重要な瞬間は「環境の危機と人間の健康の危機、その双方が引き起こした」ものであると同時に、危機に対する政府と消費者の反応が引き起こしたものです。危機をもたらした要因として最初に挙げられるのは規制で、その一例が、世界のメタンガス削減を目指す「グローバル・メタン・プレッジ」です。「気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」で採択された「グローバル・メタン・プレッジ」は、2030年までに世界のメタンガス排出量を2020年比で30%削減することを目標に、米国と欧州連合(EU)が主導するイニシアチブですが、「メタンガス排出量全体の37%を排出する農業が、目標の実現の鍵となることに疑いの余地はありません」。EUは、化学肥料および殺虫剤(農薬)の使用の削減、ならびに国民一人当たりの食品廃棄物の半減を目指す独自の目標も設定しています。こうした戦略の策定や目標の設定は、域内全域に危機感を広げることはもちろんのこと、新しいテクノロジーやソリューションを開発するための政府支出の増額につながっています。

「メタンガス排出量全体の37%を排出する農業が、目標の実現の鍵となる産業であることには疑いの余地がありません。」

地球の食料生産システムがこのような状況に陥った二つ目の要因は、新型コロナウイルスです。メイサによれば、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受けて、政府と消費者の双方が、肥満の危険や、食生活の乱れと疾病に対する脆弱性との相関関係を理解したからです。今後は、砂糖税の導入や、食品包装の栄養成分表示ラベルを義務化する等の規制の強化が進む公算が高いと考えます。また、パンデミックは、以前から問題となっていた流通システム上の課題を露呈すると同時に、新たな課題も生み出しました。メイサによれば、「新型コロナウイルスは、食料生産システムのストレス・テストだった」と考えられますが、新型コロナウイルスの感染をもたらした要因が食物連鎖にあったとの見方もあることから、食物連鎖を短縮すると同時に、食の安心と安全を強化することの必要性が浮き彫りになりました。

メイサが指摘するように、新型コロナウイルスのパンデミック期を通じて、世界の食の安全に疑問が呈され、この1年は、世界の地政学的緊張を背景に、状況が更に悪化しています。私達は、食料不足と、ここ何年も経験したことのないような食品価格の高騰を目の当たりにしていますが、食品廃棄物の削減から化学肥料の使い過ぎに至る、あらゆる課題に取り組むためには、革新的な解決策や画期的な取り組みが急務です。

メイサは消費者の行動変容のトレンドについても指摘し、「消費者、特に、(1981年から1997年の間に生まれた)ミレニアル世代と(1996年~2015年に生まれた)Z世代は、自分自身の健康や環境に対する意識をこれまで以上に強めています。こうした傾向は以前から存在したものの、新型コロナウイルスのパンデミック期に明確なトレンドが形成されています」と話しています。それを裏付けるのが、減量のためのダイエット・ソリューション、プロバイオティクス、ビタミンやサプリメント剤などの免疫力を高める食品、植物由来の代替食品等に対する強い需要です。「今後は、社会の意識が高まると同時に、規制や技術革新(イノベーション)を一因に、人間と地球に優しい様々な食品が選好されることになる」とメイサは予測しています。

メイサの予測にある「イノベーション」も、地球の食料生産システムを変曲点に到達させた要因の一つです。「私達は早急に解決策を必要としていますが、こうした機会を認識した企業は、現行の食糧制度が抱える課題に対処するための新しい技術やソリューションを次々と開発しています。このような企業は、農場から食卓に至る食のバリューチェーン上のあらゆるところで生まれています」とメイサは説明していますが、メイサが率いる運用チームも、もちろん、この分野に注目しているのです。




「イノベーション」について、メイサが特に注目しているのは、精密農業関連技術と食品廃棄物ソリューションの二つのセクターです。極めて興味深い新しい製品や、サービスが生まれていると感じているからです。まず、精密農業関連技術ですが、メイサによれば、農業は設備投資や研究開発(R&D)の面で、過去数十年間、他の産業に出遅れてきました。「農業技術は進歩してきたものの、そのペースが他の産業に比べて緩慢過ぎたのですが、そうした経緯が、今、大きな機会を生んでいるのです」とメイサは説明しています。その一例が、天然資源の使用を減らしつつ、作物の収穫量を増やすことに寄与する農業機械やソフトウェアです。 

その一例が、いわゆる「シー・アンド・スプレー(See and Spray)」で、メイサは、これを「コンピューター・ビジョンを使った人工知能(AI)」だと説明しています。コンピューター・ビジョン(コンピューターとスキャナーに機械学習を組み合わせたもの)を利用したAIが、畑の中から雑草を識別し、それだけを狙って農薬を散布する一方で、作物のみに散水を行うというものです。この技術により、除草剤と淡水の使用量を最大80%削減出来る可能性があると考えられています。淡水使用量全体の70%程度が食料生産に使われていることを考えると、水不足の解消に極めて大きな影響を与えることが期待されます。

この他に、メイサが注目している農業分野の先端技術には、(遠隔測定が可能な)リモート・センシング・ドローン、AIを搭載した自動農機具、農業データ分析を可能とするインターネット接続機器(コネクテッド・デバイス)等が含まれます。

食品廃棄の分野でも、様々な技術革新が進行中ですが、生産された食料のほぼ3分の1が廃棄されるという深刻な状況を考えると当然の成り行きだと考えます。刺激的なテクノロジーやソリューションが数多く開発されつつあり、この分野でもAIの応用例が確認されますが、AIとセンサーを搭載した食品選別ソリューションに特に注目しているとのことです。廃棄されそうな果物や野菜をどの時点で別の製品に作り変えたらよいか、あるいは、(ソースやジュース等)異なる用途に使えるかどうか、を判断することが可能だからです。メイサは保存期間の延長や、食品の腐敗の回避に貢献する食品培養物や酵素についても指摘しています。(詳細は、この分野の最大手であるデンマークのクリスチャン・ハンセン社と同社の最高経営責任者(CEO)についてのレポート:2023年7月20日付「ミクロの微生物は世界最大の難題解決にどう寄与するか?」をご参照下さい。)

疑う余地がないほど明白なことのように思われるかもしれませんが、こうしたソリューションの最も刺激的な側面は、人間の健康と地球の健康に同時に好ましい影響を与えることが可能だということです。二つの健康を維持するための課題の大きさを考えると、忘れてはならない大切なことだと考えます。メイサと運用チームが自問しているのは、「地球を守りつつ、世界の食料安全保障を確保し、世界に食料を供給し、栄養不足に起因する疾病や死亡者数を減らすためにはどうすればよいのか?」ということです。食料を必要とする世界の人口が2050年には100億人に増えるとの予測を考えると、課題の解決は決して容易ではありません。「食糧生産システムが抱える環境面の課題と社会面の課題を解決するために、私達は全力を尽くさなければなりません」とメイサは話していますが、二つの課題に、同時に取り組むことが必要なのです。

「食糧生産システムが抱える社会的・環境的課題の両方を解決するために、私達は全力を尽くさなければならないと考えます。」  

しかし、課題の深刻さや大きさは、チャンスの規模も大きいことを意味しています。ピクテは、市場原理だけでは解決が困難な社会問題や環境問題に取り組むために、マネージング・パートナーが設立した助成財団であるピクテ・グループ財団を通じて、長年この分野に取り組んできました。水と栄養は、教育や環境と並んで、財団が特に重点を置いている分野の一つであり、起業家精神に溢れた社会や環境の「変革者」との連携を通じて、強靭なコミュニティーや生態系の構築に資すると思われるプロジェクトやソリューションを支援しています。

メイサが、栄養の分野で日々、投資活動を続ける動機付けとなっているのは、栄養への投資を行うことが、社会や環境に大きな影響を及ぼす機会をもたらすということです。「栄養不良の影響に対処するために食生活を改善する等の社会面の課題と、食糧生産システムに起因する環境劣化を緩和する等の環境面の課題の二つが併存するという点で、栄養は異色の分野です」とメイサは説明し、EATランセット委員会(EAT-Lancet commission on Food, Planet and Health)が発表した、「食料、地球および健康に関する報告書」から引用して、「食料は人間と地球の健康を改善するための最も強力な手段なのです」と指摘しています。「このような課題の解決のために必要とされる、革新的で最先端のソリューションの発掘や破壊的で独創的な企業への投資は魅力的です」とメイサは結論付けています。

 


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