- Article Title
- バイオ建材を用いた二酸化炭素の回収
トーマス・ロビンソン氏が経営するアダプタベイト社が、建設業界の二酸化炭素(CO2)排出削減という難題にどのように取り組んでいるのかをご紹介します。
「近いうちに、これまでのやり方では何も建てられない、と気付くことになるでしょう。」
建設業界は、気候変動の原因となる二酸化炭素(CO2)を大量に排出する業界の一つです。国連環境計画によると、世界のCO2排出量の40%近くは建築環境や建設業界が排出しています。新しい住宅、オフィス、作業場等、新しいインフラが必要とされていますが、建物を新築するたびに、CO2排出量をどのように削減するかという喫緊の難題に直面することになります。国際エネルギー機関によると、建設業界から直接排出されるCO2排出量は、2030年までに50%削減される必要があります。
建設業界のCO2排出の原因が複雑に絡み合う状況を勘案すると、簡単な答えは見当たりそうにありませんが、ロビンソン氏は課題の一部を解決する糸口があると確信しており、CO2排出量よりも吸収量の方が多い「カーボン・ネガティブ」な建設資材を真っ先に開発することを目指しています。同氏が設立したアダプタベイト社は、建材の使用量ではコンクリートと鉄に次いで3位に付ける石膏ボードの代替として、低炭素で通気性のよいバイオ複合建材を製造し、市場に提供しています。
アダプタベイト社の通気性石膏ボードは農業廃棄物を原料にすることで、従来型の石膏ボードから発生するCO2排出量(英国ではこの分野の年間排出量の3.5%を占めている)を削減することに貢献しています。また、このボードは、大気中のCO2の回収を数時間で行うことが出来、回収に年単位の時間を要する他の方法と比べて極めて効率的です。2枚の紙の間に流し込んだ石膏スラリーが硬化し、CO2を吸収する過程で固まることで、CO2を回収するからです。
ロビンソン氏は、一般的な石膏ボードとまったく同じように取り付けることが可能な同社の製品が、人と地球に優しい製品であることを確信すると同時に、将来、恐らく不可欠の建材になる可能性があると考えており、「近いうちに、これまでのやり方では何も建てられない、と気付くことになるでしょう」と述べています。
だからこそ、アダプタベイト社が今、行動することが重要なのです。アダプタベイト社の製品は、建築業者がこれまでと同じ方法で施工しながら、建設現場のCO2を削減し、使用する建材の循環性を高めることを可能にします。しかし、環境の変化に迅速に対応出来ない業界に変革をもたらすことは容易ではありません。また、基準や規制の多い保守的な市場の特性に加えて、市場の価格競争力や価格感応度を維持するには多額の資本が必要です。
ロビンソン氏が克服しなければならなかったのは、それだけではありません。建設業界は半年から1年ほど前までは、持続可能な建材にまともに向き合っていなかったのです。これは、課題の大きさを認めようとせず、解決策を探ろうとしなかったからですが、状況は急展開を見せ、業界は直面する課題の重要性を強く意識しています。ロビンソン氏は、「建設業界は転機を迎えており、市場環境は良好で技術革新が進んでいる上に、施工のプロセスの策定や展開に必要な資本も入手可能です。」と、述べています。
また、ロビンソン氏は現状に甘んじることなく、野心的な目標を掲げています。現在、同社は3種類の石膏ボード製品を英国内の建築業者向け大型店舗で販売しています。「弊社の製品価値が市場に試された」と考えるロビンソン氏は、事業の拡大を図っています。
石膏ボード製品の将来性が、資金の提供者を惹きつけています。アダプタベイト社は、2023年初に220万ポンドの資金調達を行い、試験生産のための施設をブリストルに建設して、新しい石膏ボード技術の実験を行いたいと考えています。また、この施設ではアダプタベイト社の炭素回収技術を、実験段階から試作の段階に進めることが期待されています。石膏ボードに短時間で二酸化炭素を吸収させることで、CO2排出量が吸収量をわずかに上回る製品を、CO2排出量と吸収量とが完全に同等な「カーボン・ゼロ」の製品に変えようとしているのです。
アダプタベイト社は、気候変動への配慮に対する社会の認識や、サステナビリティ(持続可能性)を建設の中核に据えることの重要性が、業界で認識されつつある状況を活かして、事業を拡大することが可能な好位置につけています。
「大手住宅メーカーの一部は将来の市場への適応を促すために、金銭的な手当てを提供しています。企業にとっては現在の業績のみならず、将来の業績も重要だからです」。
トーマス・ロビンソン氏略歴
2008年 英ランカスター大学から学士号(自然地理学)を取得
2014年 英代替技術センター*から修士号(持続可能建築)を取得
*環境保護活動に特化する大学院課程および短期学習課程を有する他、再生可能エネルギー、持続可能建築、有機農法等に関する出版事業も展開
2014年 アダプタベイト社創設
アダプタベイト社略歴
2014年 Climate KIC CleanLaunchpad(欧州最大のクリーンテクノロジー事業構想コンテスト)英国部門優勝
2015年 グリーンアレイ賞(ドイツのランドベル・グループが設立し、循環経済に従事する新興企業に授与)受賞
2016年 「2015年最優秀起業家賞」(Shell LiveWIRE 2015:ロイヤルダッチ・シェルが設立し、若い起業家に授与)受賞
2022年 「持続可能な建設資材のための連合(英国の非営利団体)」加盟
個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。