- Article Title
- 中国:2024年のマクロ経済展望
2024年の中国経済についてピクテのマクロリサーチチームが解説いたします。
概要
・中国経済の緩やかな回復は2024年も継続することが予想されます。足元で強化された政策支援の継続が予想されるからです。
・不動産セクターの低迷が国内経済の足枷となる状況は、これまでほどではないにせよ、継続する公算が大きいと考えます。不動産セクターの安定化には、デベロッパー(開発業者)に対するもう一段の支援が必要ですが、最近発表された対策の一部は、正しい方向性を示しているように思われます。
・財政刺激策は2024年の成長を支える上で重要な役割を果たす公算が大きいと考えます。比較的高水準の財政赤字を維持することに加えて、多くの地方政府が直面する窮状に対応することも、政策立案者の重要な課題です。
・景気刺激策の継続と不動産セクターの緩やかな回復が実現すれば、中国は、2024年中にも、デフレ脱却を果たすことが出来るかもしれません。工業部門のリフレ(デフレ脱却後、インフレに達していない状況)が鍵になると考えます。
・ピクテの基本シナリオには、1)政策が後手に回る状況の継続、2)世界的、かつ、深刻な景気の減速、3)米・中間の緊張の再燃、という3つのリスクがあります。
緩やかな回復が続く
2023年のコロナ収束後の中国の景気回復は、期待外れに終わりました。不動産セクターのハードランディング(過熱した景気が、金利や株価などの急激な変化を伴いつつ、失速すること)によって多くの不動産開発業者が危機に陥っただけでなく、雇用が失われ、消費者心理に大きな打撃を与えたからです。
当局が、政策支援を本格的に強化し始めたのは2023年8月末以降のことです。不動産需要の回復を図った一連の対策が講じられたのに続いて、インフラ投資の拡大を支援する、より強力な財政刺激策が導入されました。例えば、8月以降は、地方政府債の起債のペースが加速し、2022年の水準を上回っています(図表1)。更に、中央政府は、特別国債の発行を通じて、財政赤字の1兆元の拡大を容認するという異例の決断を下しています。政策支援の強化を受けて、経済成長の勢いが目立って増したことから、2023年7~9月期のGDP(国内総生産)成長率は事前のコンセンサス予想を上回りました。
ピクテは、中国経済の緩やかな回復が2024年も継続するものと予想していますが、なだらかな道のりが続くとは限りません。ピクテは、中国の2024年通年のGDP成長率予想が、2023年予想よりも低下するものと見ています(図表2)。
不動産セクターの影響は、若干改善される
不動産セクターの低迷が国内経済の足枷となる状況は、2023年ほどではないとしても、2024年を通じて継続する公算が大きいと考えます。住宅市場の低迷は構造要因に因るものであり、中国の人口がピークを付け、都市化の速度が鈍化するに連れて、需給の均衡がシフトする状況を反映しているからです。住宅購入予備軍(潜在的な住宅購入者)が自信を持てない状況が、不動産不況を悪化させており、2023年の住宅販売件数は、実質的な潜在需要を遥かに下回ることが予想されます(図表3)。従って、信頼感の回復を図った追加の政策が引き続き必要だと考えます。こうした観点では、銀行セクターに対して、厳選した不動産開発業者向けの信用供与を拡大するよう促す施策は正しい方向性を示していると考えます。
ピクテの基本シナリオでは、2024年の住宅販売が小幅に回復することを予想しています。新規着工件数は増えないとしても、少なくとも、これ以上の落ち込みは回避されるように思われます。また、不動産投資全般についても、緩やかな改善が見込まれます。政策支援を受けて、一時中断していたプロジェクトを再開するケースが増えることが予想されるためです。
過去に発行のレポート(「China: Fear of systemic risks and equity outlook」)に詳説の通り、住宅市場危機は、銀行を含む、多くの不動産関連企業の業績予想を悪化させるとしても、当面のところ、金融セクターのシステミック・リスクを引き起こすことは想定されません。
財政支援が鍵
ピクテは、2024年も、財政刺激策が、経済成長を支える重要な役割を果たすものと予想しています。中央政府の2024年、対GDP比の財政赤字目標は、2023年と同様、3.8%前後と、高水準に留まることが予想されますが、地方政府の債務問題の解決には、財政赤字の水準よりも、経済の先行きを改善することの方が、間違いなく、重要です。
新型コロナウイルスのパンデミック(大流行)は、地方政府の歳入に甚大な影響を及ぼしました。2023年の土地「使用権」の売却と住宅販売件数が激減したことから、地方政府の財政には強い下押し圧力がかかり、インフラ投資の削減に留まらず、極端な場合には、通常支出の削減を余儀なくされた場合も散見されます。
こうした強力な財政引き締め策が2023年前半の中国経済の低迷をもたらしたわけですが、中央政府は、7~9月期以降、地方政府の財政危機に真摯に取り組み始めています。一例を挙げると、一部の地方融資平台(LGFV)が抱える1.5兆元規模の「隠れた債務」と交換(デット・スワップ)するために特別地方借換債が発行されています。デット・スワップは、資金調達コストを半減し、償還期限を、平均、3~5年、先送りしています。
2023年10月末開催の中央金融工作会議では、地方政府の債務リスクを抑制するための長期的な仕組みの確立が打ち出されており、地方政府の債務問題の解決に向けた取り組みは、2024年も続くことが予想されます。債務の再編には、デット・スワップ、地方政府による資産売却や融資の期限の延長等、様々な手法が含まれます。問題の完全解決には長い年月を要するものと思われますが、地方政府の財政が圧迫される状況を軽減することが出来れば、2024年には、(不動産セクターが)、再び、経済成長を牽引する重要な役割を果たすことが出来るように思われます。
中国人民銀行(PBOC)は、国債の増発に対応するため、潤沢な流動性の供給を通じて、緩和的な政策スタンスを維持するものと思われ、利下げの可能性も否定出来ないと考えます。
緩やかなリフレの展開
世界の多数の国がインフレとの闘いに苦戦したのとは対照的に、2023年の中国は、内需の低迷によるデフレに見舞われました。中国のGDPデフレーターは、2023年4~6月期にマイナス圏に沈み、若干の改善があったとはいえ、7~9月期も低下基調となりました。デフレが最も深刻だったのは製造業セクターで、GDPデフレーターは、4~6月期に-4.7%に落ち込んだ後、7~9月期には-3.3%に、若干、改善しました。また、サービス業セクターのGDPデフレーターはプラス圏に留まったものの、製造業セクターと農業セクターの落ち込みを相殺するには足りませんでした(図表4A)。
もっとも、生産者物価指数(PPI)が示唆する通り(図表4B)、製造業セクターの物価には底入れの兆しが見られます。製造業セクターの需要の押し上げには、持続的なインフラ投資を通じた政府の継続的な支援が不可欠です。住宅建設の緩やかな改善も、工業セクターの需要に寄与する可能性があると考えます。
中国の2023年の輸出は、先進国の個人消費がモノからサービスに転換したことを受けて、激減しました。世界経済の減速は続くとしても、中国の輸出には、ここ数ヶ月を通じて、安定化の兆しが散見され、最悪期を脱した可能性もあるように思われます(図表5A 、5B)。2024年には(輸出から輸入を引いた)純輸出が、経済成長の足枷となってデフレに寄与する状況は消滅するように思われます。
リスクは何か?
2024年の緩やかな景気回復を予想するピクテの基本シナリオにとって最大のリスクは、政策が後手に回る状況が続くことです。米中の戦略的競争の激化を一因に、中国の国家安全保障予算は、過去30年で見られなかった水準にまで膨らんでいます。また、いわゆる「共同富裕」、社会や環境への影響を配慮した不動産開発(グリーン開発)、金融リスクの抑制なども、政府の最優先課題です。経済成長一辺倒の時代は終わったものと思われます。複数の、時に相反する目標を掲げる状況での政策策定は、迅速性や有効性を欠いたものになる可能性があると考えます。
世界経済の減速が、現時点で想定しているより厳しいものになることもリスクです。当面は、米国の2024年上半期のリセッションは緩やかなものに留まる一方で、ユーロ圏は、リセッションを辛うじて回避すると見ていますが、世界経済が想定外の停滞を余儀なくされる場合には、中国の輸出セクターに下押し圧力がかかり、中国経済のリフレのプロセスを損なう可能性も否めません。
最後に重要なことは、地政学リスクは決して無視出来ないということです。2023年11月のバイデン大統領と習近平国家主席の会談以降、米中間の緊張は幾分和らいだ感があるとはいえ、紛争の火種は尽きません。2024年1月の台湾総統選挙と11月の米国大統領選挙は、いずれも、混乱の可能性が否めません。こうしたリスクが、直接投資であれ、証券投資であれ、外国人投資家の中国への関心を失わせる公算が大きいように思われます。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。