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- 中国企業のADRについて
中国企業のADRについて、米国当局の監視強化などを背景に、上場廃止になる可能性が懸念が高まっています。これに対するピクテの新興国株式運用チームの見方と、今後の中国株式への投資見通しをご紹介します。
この問題の背景|なにが起こっているのか?
米国証券取引委員会(SEC)は12月2日、2020年に成立した「外国企業説明責任法(HFCAA)」に基づき、米国の証券取引所に上場する外国企業に対する情報開示義務に関する最終規則を発表しました。
HFCAAは、米国で証券取引所で取引されている外国企業が、外国政府の支配・管理下にないことの立証義務を課すとともに、米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)が監査を実施できない状態が3年連続で続いた場合、当該企業の証券の取引を禁止する内容となっています。
この最終規則の決定により、SECは、中国企業のADR(米国預託証券)を早期に効果的に除外できることとなります(早ければ2023年の第1四半期中、遅くとも2024年の第1四半期中)。
米国上場の中国企業のうち、時価総額の大きい大型銘柄などは企業は香港市場などに移行できるとみています(70銘柄程度)。一方、香港市場への再上場の対象とならない恐れのある企業(約200企業)は、ほとんどが小型銘柄になります。こうした企業のADRについては、流動性のある上場株式への投資を続けたい投資家などによる売り圧力が高まる可能性があります。
しかし、最も最近に発表された中国の5カ年計画では、金融の自由化やより高いレベルでの対外開放などが示されていることを考慮すると、これらの企業についても、香港市場への上場が認められる可能性もあります。
2022年3月半ば、香港上場の中国ハイテク関連企業の株価が大きく下落した背景の1つには、香港市場の流動性が、米国市場に比べると低い点などがあると考えられます。ただし、中期的には、中国本土から香港市場への投資ルートである「サウスバウンド」経由の投資資金増加などにより、流動性などに関するマイナスの影響の一部は相殺できるとみられます。
企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)の観点からみれば、中国企業のADRと香港上場株式の間には価値評価に差がつく理由はありません。
今後の中国企業のADRはどうなる?
- SECが上場廃止の可能性がある中国企業5社を発表しました(外食大手ヤム・チャイナ・ホールディングス、バイオ企業のベイジーン、医薬品開発のザイ・ラボ、ハチメッド・チャイナに加えて、半導体開発のACMリサーチ)。米当局は、これら5社について監査状況を検査できなかったとしています。
- 米当局は昨年、規制に従っていない監査法人のリストを公表しました(例えば、中国の監査法人やビック4とよばれる監査大手の関連法人等)。加えて、これらの監査法人が監査を行った財務諸表を発表したすべての企業のデータベースを公表しました。
- 企業がこれらの監査法人によって監査された年次報告書を公表するたびに、HFCAAのリストに追加されていきます(2022年3月半ばに前述の5社に起こった(リストに追加)様に)。
- 今後1~2ヵ月のうちに、残りの200社近い企業のADRが、リストに追加されていき、上場廃止へと近づいていくことが懸念されています。
中国企業のADRが上場廃止になる可能性はどの程度?
ピクテの新興国株式運用チームでは、非常に高い確率で上場廃止となるとみています。中国企業のADRは、資産クラスとして消滅する可能性がある、ということです。過去数年間にわたって、こうした流れは徐々に進んでいたとみられますが、足元の米当局による決定が、この流れを一気に加速させるとみています。
そこで、次に問題となるのが、時間軸の問題です。中国企業のADRが上場廃止になる流れは、多くの投資家が把握していた問題ですが、上場廃止が短期間のうちに行われる場合には、株式市場が大きく混乱する可能性があると警戒しています。
中国企業のADRの代替手段は?
中国企業のADRのうち40程度(時価総額にして5,000億米ドル)のまだ香港市場に上場されていない株式については、香港上場という選択肢があると考えます。また、米国上場を目指していた企業もそれを断念し、香港市場での上場に切り替えることが想定されます。
- 米国および香港の両市場に上場している中国企業のADRについては、香港上場株式への転換が進められる可能性があります。
- 香港市場に上場していない企業のADRについては、まずは、香港市場への上場を目指すと考えられます。これらの企業のADRが米国市場で廃止された場合、香港証券取引所は、香港上場株式に転換するにあたり、その上場要件等を満たすために3年程度の猶予期間を与えるものとみられます。
- 上海証券取引所の新興ハイテク企業向け市場「科創板」の活用も考えられますが、小型銘柄の多くは、ハイテク関連という要件を満たさないため、この選択肢は活用できない可能性が高いとみています。
- 最悪のシナリオは、超小型銘柄が、市場で再評価されるリスクを避けて非上場化を決定する場合です。また、可能性としては低いですが、非中国企業として上場する可能性です(中国のデータセキュリティ法の適用範囲外となる)。
投資家は中国企業のADRすべてが上場廃止リストに載ることを警戒しています。米当局は、ADRを発行するすべての企業に米国企業と同様の基準を基にした監査報告書の提出を求めています。ADRを巡るリスクがさらに高まれば、より多くの企業がADRを香港上場株式への転換を選択するものとみています。これらの動きはすべて政治的な米中関係の緊迫化を背景としていることから、この流れが後退する兆しはなかなか見出しにくいと考えます。
中国企業のADRが上場廃止された場合、どのような影響がある?
特に小型銘柄のADRについては、さらなる売り圧力にさらされるリスクがあるとみています。この場合の売りは、米国市場がより流動性が高いことに関連するものと考えています。加えて、個人投資家や機関投資家の中には、ADRが香港上場株式に転換された場合、これを望まない、あるいは保有できない理由がある場合もあり、このためにADRを売却せざるを得いケースも出てくると想定されます。こうしたことは、ADRを発行する企業のファンダメンタルズがいかに強固で成長性が見込めるとしても、株価は下落圧力を免れることはできないとみられます。
ピクテの新興国株式運用における、中国企業のADRは?
ピクテの新興国株式運用チームには、複数の運用戦略がありますが、いずれの戦略においても、中国企業のADRについて香港市場に重複上場している銘柄については、既に、香港上場株式への投資に切り替えるなどの対応を開始していました。
中国株式に対する、今後の見通し
我々は中国株式について、A株(中国本土上場)については、こうした問題の影響を比較的受けにくいのではないかと考えています。また、中国国産ブランド関連、環境関連、金融自由化関連、共同富裕関連など特定のテーマに関連した企業についても、株価への影響は比較的小さいのではないかと考えています。A株は、他の中国株式に比べると、投資家層の多くは依然として中国国内の投資家という特徴があります。
米中の「大国間の競争」は今後も続くと考えています。米国では共和党トランプ政権から民主党バイデン政権への政権交代が行われましたが、中国に対する厳しい姿勢には変わりがありません。また5ヵ年計画を鑑みても、中国企業が自国市場に株式を上場する流れは今後も続いていくと考えます。
中国は特に、コア・テクノロジーの開発に傾注しています。中国の製造業は、より高度化し高付加価値で、エネルギー効率のよいものへと転換していく可能性があると期待しています。AI(人工知能)や5G(第5世代通信規格)などの分野では、中国は既に先駆者的なポジションにあります。一方、半導体や宇宙工学などの分野では、進歩の余地が大きく残されています。
また、5ヵ年計画において、2060年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出をネットゼロ)とする目標を示しています。こうした目標の達成に向けて、鉄鋼生産量の削減や、アルミニウム製錬所の閉鎖などが予想されます。その結果、過剰供給の解消などを通して、鉄鋼価格などが適正水準に落ち着くことで多くの産業が恩恵を受けることにつながると考えます。ただし、再生可能エネルギーの分野について、成長が見込めると期待していますが、関連企業を個別にしっかりと分析した上で、株式のバリュエーション(投資価値評価)水準などにも注意を払いながら、銘柄選別をしていく必要があると考えます。
全体として、多くの投資家は引き続き政策動向や金利動向などを注視しており、短期的には市場の値動きは大きくなりやすい状況にあると考えます。しかし、市場が大きく調整した局面では、キャッシュ・フロー創出力がしっかりあり、長期的に成長が見込める企業の株式については投資の好機となる可能性もあるため、バリュエーション水準などもしっかり考慮しなら、投資タイミングを見極めていく方針です。
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