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- 回復基調にあると見られる金価格、今後の注目点は?
金価格は2021年3月末の1トロイオンス=1,700ドルを割り込む水準から、足元では同1,800ドルを超え、52週移動平均を上回るところまで上昇しています。金を取り巻く環境をみると、米国実質金利がマイナス圏にあり、さらに低下傾向を示していることや、米ドル安傾向、インフレ期待の高まりなどが金価格にとってプラスに働く可能性を示しているとみています。
金価格は反発、52週移動平均線を上回る
金価格は2021年3月末に1トロイオンス=1,700ドルを割り込む水準まで下落しましたが、その後、反発しています。5月7日時点では1トロイオンス=1,837ドルとなり、過去52週移動平均を約3ヵ月ぶりに上回りました(図表1参照)。
金価格は昨年8月に史上最高値を付けて以降、①景気回復期待の高まりとワクチン接種の拡大を受けたリスク回避の動きの後退、②米国の長期金利の急上昇、③米ドル(金と代替資産の関係にある)の上昇、などを背景に2021年3月末にかけて軟調な動きとなりました。
しかしその後は、米国の長期金利上昇や米ドル高傾向に一服感がみえてきたことや、インフレ期待の高まりなどを受けて金価格は反発しています。
実質金利の水準と米ドルの水準が金を下支えする可能性
今後の金価格の動きを見ていく上で、米国の実質金利の水準と米ドルの水準が参考になると考えます。
【米国の実質金利は依然としてマイナス圏に】
昨年夏以降、上昇基調にあった米国の名目金利(10年国債)は2021年3月末にピークをつけた後、上昇に一服感がみられます。一方、インフレ期待については、根強いサプライチェーン問題に対する懸念や資源価格の高騰に加え、雇用や景気の回復スピードにも一服感が見え、金融緩和が継続するという期待が高まり、上昇基調が継続しています(図表2参照)。
そのため物価上昇を考慮した実質金利(=名目金利-期待インフレ率)はマイナス圏にある中、さらに低下しています(図表3参照)。
米国では景気回復に向けて、長期失業者の解消などの課題を抱えていることから米連邦準備制度理事会(FRB)は金融緩和姿勢を維持する模様です。FRBがある程度のインフレを容認しつつ緩和的な姿勢を継続するのであれば、それは実質金利を低位に保つことにつながる可能性もあるでしょう。
【米ドルの水準~長期的なドル安圧力に注目】
世界の主要通貨に対する米ドルの動きを示すドル・インデックスの推移をみると、米国長期金利の上昇を背景に2021年3月末にかけて上昇していましたが、米FRBが金融緩和継続を示唆したことなどを受けて米国長期金利の上昇が落ち着いたことに伴い、足元では下落基調となっています(図表4参照)。
金は価値保存手段として米ドルの代替資産とみなされており、米ドルと金価格は逆方向に動く傾向があります。そのためドルが主要通貨に対して下落していることも、4月以降の金価格の上昇要因のひとつとなっています。
さらに、米ドルの今後を見通す上では、米国の長期金利の変動だけではなく、長期的な変動要因にも注目すべきでしょう。米国では、貿易収支と財政収支の赤字、いわゆる「双子の赤字」のリスクが高まりつつあるとみられます。トランプ前政権、およびバイデン政権の多額な財政出動による財政悪化傾向は加速しており貿易赤字の拡大と併せて、ドルへの信認の低下、すなわち、長期的なドル安圧力となる可能性が考えられます。
まとめ
金はそのものに価値がある資産である一方、利子や配当があるわけではありません。そのため、一般に、金利水準が高くなる局面では金への投資妙味は薄れるほか、リスク資産が過度に選好されるような局面では安全資産としての金への投資ニーズも低下する傾向があります。
しかしながら金を取り巻く環境は、米国実質金利がマイナス圏にありながらもさらに低下傾向を示していることや米ドル安傾向など、金価格にとってプラスに働く可能性があるとみています。
さらに米国ではインフレ期待が数年ぶりの高水準となっています。背景には短期的には根強いサプライチェーン問題に対する懸念や、世界経済の正常化に伴う需要拡大による原材料価格の高騰が指摘される一方で、長期的にも銅などの資源への需要拡大が挙げられます。このようにインフレ期待が高まる環境下では、実物資産である金への注目が高まることも想定されます。
金にはバリュエーション指標等がないことから、その局面局面での事象で市場が着目する変動要因が変化することが多いのも特徴であり、金を取り巻く環境を冷静にみていくことが重要と言えそうです。
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