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中国ソブリン債と人民元アップデート
2022/06/02

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概要

米中金融政策の乖離は人民元回復の重荷となる可能性があり、イールドギャップの縮小は中国ソブリン債券の魅力が低下していることを意味しています。



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中国債券利回りー上昇圧力なし

中国ソブリン債券は、世界中で観測されている急激な利回りの上昇から逃れられていることが注目されています。5月27日時点の人民元建て10年国債利回りは2.76%と、米10年国債が年初来123 bps上昇したのに対して、横ばいで推移しました(図1)。過去10年にわたり、中国国債の利回りは米10年国債の利回りを上回っていましたが、米10年国債利回りの急上昇により、両者は逆転しました。このような結果は、米国連邦準備制度理事会(FRB)と中国人民銀行(PBoC)の金融政策の乖離によってもたらされています。

図1:中国 VS. 米国 10年国債利回り

出所:Pictet's wealth management division - Factset 2022年5月27日時点

2021年下半期から目標を大幅に上回るインフレが加速する中、FRBは政策金利を引き上げ、6月以降ではバランスシートの縮小を予定しており、「量的引き締め」を積極的に実施しようとしています。米国が積極的にインフレ対策を行っている一方で、PBoCは中国経済の急減速に直面しています(ゼロ・コロナ政策によるロックダウンと不動産セクターでの問題が原因)。2022年の中国GDP成長率は、中国政府の目標である5.5%を大幅に下回る可能性が高いと考えられます。

インフレ圧力は抑制されているため、PBoCは経済成長目標の達成に向けて、金融緩和を継続すると思われます。5月には、一次取得者向けの住宅ローン下限金利の引き下げや、住宅ローンの基準となる5年物ローンプライムレート(LPR)の引き下げなど、住宅販売支援策を打ち出しています。しかしながら、政策金利(中期貸出金利)は1月以降変更されておらず、人民元安や資本流出への懸念から、より積極的な金融刺激策には踏み切れないことを示唆しています。その一方で、商業銀行に対する法定準備率(RRR)は、4月に引き下げられましたが、今後も追加で利下げが行われることが考えられます。

資本流出が人民元回復の重荷に

金融政策の乖離により、米国短期金利は上昇を続け、中国短期金利は低下し始めました(図2)。この金利差の縮小に加え、中国経済の先行きへの懸念や地政学的な不確実性が高まっていることから、中国証券市場(特に中国債券)から投資資金が流出しています。同時に、中国の輸出が低迷していることから、人民元は国際収支の下支えも失いつつあります。

図2:中国 VS. 米国 短期金利

出所:Pictet's wealth management division - Factset 2022年5月27日時点

人民元は対米ドルで下落し、5月13日には年初来最安値の6.81元となりました(図3)。このため、中国10年国債のトータルリターンは、人民元建て、ユーロ建てともに年初来でプラス(5月27日時点でそれぞれ1.7%、2.6%)を維持しましたが、米ドル建てではマイナス(-3.4%)の結果となりました。

図3:中国ソブリン債券利回り・ドル/人民元レート

出所:Pictet's wealth management division - Factset 2022年5月27日時点

これまでの人民元高(貿易加重平均で、3月に7年ぶりの高値を記録)は、経済成長に悪影響を与えており、その上中国政府のインフレに対する懸念も限定的であったことから、中国政府には歓迎されないものであったと思われます。しかしながら、人民元安が進んだ場合、資本流出が進行し、財政の安定が損なわれる可能性があるため、中国政府は引き続き人民元の安定性を維持しようとするでしょう。

人民元の下落は限定的だが中国債券の魅力は薄れる

コロナウイルスによる中国経済への影響は今四半期中に最大になると見込まれることから、人民元と中国ソブリン債券の利回りに対するさらなる下落圧力は限定的になると考えられます。財政政策と金融政策の双方に制約があるため、下半期の景気は緩やかなペースで回復し、人民元と中国ソブリン債券の価格を押し上げることができない可能性があります。

しかしながら、米国の経済成長の鈍化により、FRBが市場の予想通りの金融引き締めを行わず、米中間の金融政策の乖離が縮小することも考えられます。同時に、年初来のインフラ投資は、政府債券発行の前倒しに支えられており、今後は中国の景気回復を牽引する可能性があります。中国中央政府の対GDP比債務残高は第1四半期に47.8%と過去最高値を記録しましたが、不動産販売が低迷する一方で、地方債の発行が増加しているため、今後さらに上昇する恐れがあります(図4)。

図4:中国政府対GDP債務残高(%)

出所:Pictet's wealth management division - Factset 2022年第1四半期

債券供給の増加と海外投資家の需要の減少により(特に経済成長が回復した場合)、下半期の中国の長期国債利回りはやや上昇する可能性があります。米国債との金利差が再び逆転し、人民元回復の兆しが見えた場合、海外投資家資金は再度流入すると考えられます。

人民元に対する見通しを大幅に改善するには、中国当局のゼロ・コロナ政策の見直し、またはより効果的な景気刺激策が必要です。貿易関税や中国のロシアとの戦略的パートナーシップに起因する、米中間の地政学的緊張の高まりも依然として大きな課題だと認識されています。人民元に対する見通しの悪化と中国ソブリン債券の利回りの優位性が失われていく中、中国ソブリン債券の魅力は薄れていくと思われます。

図5:中国のクレジット・インパルス VS. ドル/人民元

出所:Pictet's wealth management division - AA&MR, Refinitiv 2022年5月25日時点

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