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- 新興国債券市場ではデフォルトリスクが過大評価されており、魅力的な投資機会を提供
新興国債券価格は、インフレ、金利リスク、ドル高、地政学リスクに晒され、大きく変動しています。しかしながら、市場はデフォルトリスクを過大評価しているようです。
新興国債券の投資家は、これほど複雑なマクロ経済・地政学的環境に直面したことはないでしょう。このような複雑な状況は、多くの投資家に新興国債券への投資を敬遠させる一方で、一部の投資家には魅力的な投資機会を提供しています。このことは特に市場の新興国リスクに対する評価からわかります。新興国債券のデフォルトリスクは、歴史的に見ても魅力的な水準となっているだけでなく、ハイ・イールド社債をはじめとする他の資産クラスと比較しても相対的に高い水準で評価されていることがわかります。
過大評価されたデフォルトリスク
このようなリスク評価は、世界の金利が今後どのように推移するかについて、数多くの不確実性が存在することに起因しています。新興国からの資本流出や、ドル高によってドル建て債務の返済が困難になることなど、資金調達コストの上昇と市場の流動性が受ける影響を考慮すると、新興国債券はこのような金利環境に対して特に脆弱であると考えられます。
米国債券価格の大きな変動は、新興国債券のボラティリティに大きな影響を及ぼしています。米国の10年債券利回りは過去12ヶ月で148bps上昇し、3.03%となりました。同時に、一次産品価格、特に新興国では消費の大きな割合を占める食料とエネルギー価格の変動が、市場環境をさらに複雑化させています。一部の新興国は主要な一次産品の輸出国であるため、価格高騰の恩恵を受けていますが、その他の国は苦境に立たされています。
図1:1983年から2021年における、格付け別5年累積デフォルト率(%)
出所: Moody's Investor Services, Pictet Asset Management(2021年12月末時点)
しかしながら、投資家は世界的なインフレショックや地政学的危機に対して機械的に反応しているだけで、必ずしも各国の事情を深く分析した上で投資判断を行っているわけではありません。新興国債券という同じアセットクラス内でも大きなファンダメンタルズ格差があるため、詳細なマクロ経済分析を行うことができる投資家の目には、価格の非効率性が散見されている状況です。
新興国債券が大きく売られた結果、新興国ドル建てソブリン債券指数は年初来約18%、現地通貨建てソブリン債券指数は14%下落しました。これは、市場がデフォルトリスクを過大評価していることを意味しており、直近では2008年の世界金融危機以来の高水準に近づいています。投資家は、デフォルト予想の高まりは、この先の投資リターンの向上につながる可能性が高いということを忘れてはいけません。直近20%弱と予想されているデフォルト率は、今後1年間の間に10%から15%程度の投資リターンをもたらす可能性があります。
新興国債券の中でも、ハイ・イールド債は最も大きな損失を被りましたが、投資適格債のスプレッドは比較的緩やかに推移しています。しかしながら、ハイ・イールド債に分類される国の数は、相場の全体的な下落に伴って増加しています。4月末時点で、約22%の新興国債券が米国債を1000bps上回るスプレッドで取り引きされていました。これは世界金融危機以降で最も高い割合であり、2019年半ばでは4%の水準だったことを考えると、この差は歴然としています。
差別化により投資機会が生まれる
債券投資家にとって、投資適格新興国債券とハイ・イールド新興国債券との間に存在する大きな差は、興味深い投資機会をもたらし得ると考えられます。例えば、新興国債券とハイ・イールド社債と比較してみると、新興国ドル建て債券は、同等の格付けを持つ米国ハイ・イールド社債より大きなスプレッドで取り引きされています。
このようなスプレッドの乖離は、特に低格付け領域で最も顕著に表れており、B 格の債券では約 250bpsの差が生じています。新興国のソブリン債券がハイ・イールド社債よりもかなり低いデフォルト率を示しているにもかかわらず、このような差が生じているのです。同じB格でも、1983年から2021年までの期間で、5年以内にデフォルトした確率は、社債の20.2%に対し、新興国ソブリン債券は12.7%でした。一方、新興国ソブリン債券の回収率(デフォルトした債券の額面のうち投資家に返済された割合)は、1998年以降平均して52%と、比較的健全な水準にあります。 その一方で、企業がデフォルトした場合、社債の回収率は新型コロナウイルスのパンデミックの期間中に大幅に低下し、ムーディーズによると1ドルあたり45セントのみ回収できたという結果となっています。
図2:EMBI構成国のうち米国債を1000bps上回るスプレッドで取引されていた割合
出所:JP Morgan index research, Bloomberg, Pictet Asset management(2004年5月31日から2022年4月29日)
投資家が直面している重要な課題は、現在の市場環境が過去とどのように異なっているかということです。懸念されているのは、新興国の債務水準が、パンデミック発生時や過去の世界的な金融危機時と比べてはるかに高いことです。そのため、金利上昇は新興国の債務の返済にとって大きなリスクになります。しかしながら、パンデミックによって、世界的に金利が前例のない水準まで急落したため(特に2020年)、新興国が歴史的に低い金利水準で債券を発行できたことも考慮するべきでしょう。その結果、これらの債務は非常に低い金利で返済され、対GDP比での債務返済コストは今後数年間低下すると推測されます。このため、新興国ソブリン債券がデフォルトに陥る可能性は極めて低いと考えられます。一方で、デフォルトリスクは、食料やエネルギーを輸入に依存しており、短期的な資金需要が高く、小規模で脆弱な新興国の債券に集中するでしょう。
米国金利が上昇していく中、新興国の経済が直面する課題は多くありますが、歴史的に、米国の金融引き締めが見込まれる期間において、新興国債券のパフォーマンスは大きく悪化する傾向があります。こうした引き締めサイクルがひとたび始まると(現在既に始まっている)、新興国債券の過小評価は少しずつ解消されていくと考えられます。その時点でドル高の進行は休止し、新興国経済への圧力は軽減されます。
このような市場環境と、過去の経験に比べて高い予想デフォルト率に見られるリスク・プレミアムの上昇は、新興国債券のスプレッドがさらに拡大する可能性は低いことを示唆しています。金融政策の正常化がより確実なものとなるにつれ、金利のボラティリティが低下し、スプレッドは再び縮小すると考えられます。
経済復興
同時に、新興国の経済も立ち直りつつあります。中国と欧州新興国を除いた国では、今後5年間の経済成長率はパンデミック前の5年間とほぼ同水準になると推測されています。地域別では、ラテンアメリカ、アフリカ、湾岸諸国および中東は、今後5年間パンデミック前の経済成長率を上回ると考えられています。
また、モザンビーク、コートジボワール、インド、インドネシア、ベトナム、ウズベキスタン、ジョージア、パナマ、ドミニカ共和国、コロンビアでは、経済成長率が前年比3.9%から7.2%になると推測されています。先進国の中でも、経済成長が最も期待されている米国の2.2%よりかなり高い水準であり、パンデミック直後の傾向を逆転させる可能性があります。先進国の経済成長率が伸び悩むと考えられている中、新興国経済の好調は資金流入をもたらし、その結果、現地通貨建て債券市場を押し上げるでしょう。
過去の経験則から、投資資金の配分を行う際には、投資資金を投入するタイミングがとても重要であるといえます。マクロ経済や地政学的環境が複雑であり、市場環境を見極めることが難しい時期に投資を開始した場合は、適正なバリュエーションが債券価格に反映されている時期に投資を開始する場合よりも、長期的により多くのリターンを得られる傾向があります。以上の観点から、現在の新興国債券を取り巻く市場環境は好ましい投資機会を投資家に提供していると考えられます。しかしながら、このアセットクラスは個別性が強いため、投資の落とし穴を回避するためには慎重な分析が必要です。現在の市場環境では、慎重かつ積極的に投資判断を行うことによって、今後数年間で魅力的な投資リターンを得られる可能性が高いと考えています。
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