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ECBー金融引き締めへ
2022/06/13

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概要

欧州中央銀行(ECB)は資産購入プログラム(APP)の終了と、7月に11年ぶりの利上げを実施することを発表しました。ユーロ圏では5月に過去最高のインフレ率を記録し、ECBにはインフレ対策への圧力がさらに強まりました。ECBのラガルド総裁が5月下旬のブログで示したように、ECBは2022年第1四半期にパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の終了を発表し、すでに政策の正常化を進め始めていました。APPの終了と7月に実施される利上げは、金融政策の正常化が次のステップに進んだことを意味しています。



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ECBは持続的な高インフレと低経済成長率の中で意思決定を行わなければならない

2021年にユーロ圏経済が力強く回復(実質GDPは前年比5.4%増)した後、ブローカーはより保守的に経済成長の見通しを立てていました。2021年年末では、2022年第2四半期および第3四半期の予想が継続的に上方修正されました(図1)。その一方で、2月にウクライナ紛争に対する懸念が高まり、ブローカーは経済成長予測を大幅に下方修正せざるを得なくなりました。2022年第2四半期のGDP成長率の予測中央値は、2月の1.2%から5月に0.2%に低下しました。第2四半期ほど極端ではないものの、同じ傾向は2022年第3四半期の予測中央値にも見られました(2月の0.9%から0.6%に低下、本稿執筆時点)。

図1:ブローカーによるユーロ圏の実質GDP成長率の中央値予測(%, 前四半期比)

出所: FactSet, Pictet Trading Strategy(2022年6月8日時点)

今後数四半期の予測インフレ率は上方修正されている

新型コロナウイルス関連の規制が解除されていく中、サプライチェーン問題に伴う大規模な金融・財政刺激策は、先進国・新興国の実際のインフレ率と期待インフレ率の上昇に寄与しています。ブローカーによるユーロ圏消費者物価指数(HICP)インフレ率の四半期ごとの予測中央値(年率)は、2021年12月から2022年前半にかけて継続的に上方修正されています(図2)。さらに、ロシアのウクライナ侵攻がインフレ率を上昇させており、ブローカーは今後数四半期でさらなるインフレ圧力がかかると予想しています。加えて、エネルギーと食品価格の上昇は、予測インフレ率の大きな重荷となるでしょう。例えば、ブローカーはユーロ圏の2022年第2四半期の総合インフレ率は中央値で前年同期比7.7%に達し、2022年第3四半期以降から2023年にかけて、高インフレ率は維持されるものの、低下傾向にあると予想しています。

図2:ブローカーによるHICPインフレ率の予測中央値

出所: FactSet, Pictet Trading Strategy(2022年6月8日時点)

利回り差はユーロの重石となっている要因の一つ

2021年半ばから、ユーロは多くの要因によって米ドルと比較した際の魅力が低下し、苦境に立たされています。まず、2021年下半期に連邦準備制度理事会(FRB)高官のタカ派的な発言が米国の利回りを上昇させ、ユーロと比較して米ドルの魅力が高まりました。その後、米国では金融引き締めが開始されましたが、ECBは金融緩和策を維持したため、両者の金融政策の方向性の違いが顕著になりました。2022年2月下旬には、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、安全資産への逃避が始まり、ユーロ圏経済への懸念が高まったことにより、ユーロの下落への圧力はさらに高まりました。さらに、エネルギーの輸入国であるユーロ圏諸国は、エネルギー価格の高騰に非常に脆弱であり、ロシアへの石油・ガス輸入に対する制裁を実施したことにより、エネルギー価格が上昇し、ユーロの下落は加速しました。

しかしながら、直近では対米ドルで1.04まで下落し、2017年以来の低水準となったため、今後数ヶ月でユーロが反発する可能性は高いと思われます。中期的にFRBがそれほど積極的に利上げを進めない場合、投資家のリスク志向が高まり、再びユーロへの投資を好むようになると考えられます。さらに、7月のECBによる利上げもユーロの下支えとなるでしょう。ECBのタカ派的な姿勢は、すでにドイツと米国の10年債の利回り差を縮小させ始めています(図3)。また、中国新型コロナウイルス関連の規制の解除、ウクライナ情勢が改善される可能性、財政政策の支援が、中期的にユーロの支援材料になると思われます。

図3:ユーロ/ドルの推移とドイツ10年債利回り(左軸) -米国10年債利回り(右軸、単位bps) 

出所: FactSet, Pictet Trading Strategy(2022年6月8日時点)

トレーダーのセンチメントはユーロを好む傾向にシフトしている可能性が高い

以下の図4の通り、ユーロ対ドルとユーロ対ドルの先物取引の建玉の相関性は、年初から大幅に弱まっています。

トレーダーが2021年の間にユーロ対ドルの先物取引のロングエクスポージャーを削減していく一方で、建玉は5月に反発する前に一時的にマイナスになりました。図4から、両者の乖離は現在大きくなっており、トレーダーのセンチメントがユーロを好む傾向にシフトしている可能性を示していると考えられます。

図4:ブルームバーグCFTC CME ユーロ投機的ネットポジション(左軸) とユーロ/ドルの推移(右軸)

出所: FactSet, Pictet Trading Strategy(2022年6月8日時点)

ユーロ圏の経済成長率の低下、インフレ圧力の上昇、ロシアのウクライナ侵攻の中で、ECBの金融正常化に伴うリスクは依然として大きいと思われます。さらに、ECBが金融引き締めをどの程度継続させることができるかも注視していかなければなりません。


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