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- 苦境に立つ転換社債市場
市場金利と社債利回りの上昇に加え、株式市場のボラティリティの上昇という逆風の中、転換社債市場は苦戦を強いられています。しかしながら、今後経済の見通しが好転すれば、好機は再び訪れると見込まれます。
債券と株式の性質を併せ持つ転換社債(CB)の特性
転換社債は、債券と株式の性質を併せ持つハイブリッドな金融商品です。一定の利回りと満期時に元本を支払うという点では従来の債券に似ているものの、債券を一定数の株式に転換する権利を保有者に与えるオプションが組み込まれています。この転換オプションによって、独特のリターンとなる仕組みとなっています。
転換社債の性質
出所:ピクテ・ウェルス・マネジメント-CIO&MR 2022年6月7日時点
この仕組みにより、歴史的にみれば、転換社債は株式に匹敵するリターンを確保してきました。転換社債は、株式の強気相場での上昇が見込める一方で、相場の下落時に下値抵抗力を示します。転換社債は、一般的に、原資産である株式よりも構造的に低いボラティリティ(価格変動率)を示しており、ボラティリティの高い市場においては、転換オプションの価値が高まることを意味します。
転換社債の流通は19世紀から始まりましたが、世界的に盛んに発行されるようになったのは過去20年のことです。しかしながら、市場規模はまだ小さく、時価総額は0.5兆米ドル強で、世界で運用されている金融資産全体の内0.3%に留まっています。
転換社債の多くは中小型の成長企業から発行されます。そのうち多数の企業は格付け対象外となっていますが、格付けした場合、投資適格債よりも、投機的からハイ・イールド(高利回り)債に近い位置にあります。
下記左図が示すように、中小型銘柄は転換社債は転換社債指数の33%を構成しており、S&Pグローバル株価指数では27%を構成しています。さらに、下記右図が示すように、世界の株価指数と比較して、転換社債の方が情報技術やコミュニケーションなど、成長企業の多いセクターの比率が高くなっています。
左図:転換社債指数とS&Pグローバル株価指数の中小型株の比率
右図:転換社債対世界株価指数のセクター比率
左図:出所:ピクテ・ウェルス・マネジメント-CIO&MR、BofA、Factset 2022年5月31日時点
右図:出所:ピクテ・ウェルス・マネジメント-CIO&MR、BofA、Factset 2022年5月13日時点
2020年3月の株式市場の調整に伴い、企業の資金調達のため転換社債の新規発行は増加しました。その際、発行体は成長企業や業績回復傾向にある企業が多くの割合を占めました。
新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受け、世界の主要中央銀行による政策金利の引き下げにより成長企業は2020年から2021年初頭にかけて生き残ることができました。レジャーや旅行・観光関連の企業もこの期間に転換社債を多く発行しました。
一方、昨年までとは対照的に、市場環境の悪化に伴う需要の衰退やボラティリティの高まり、転換社債の価格の下落などを受けて、今年の発行額は歴史的にみて非常に低い水準に低下しています。
世界の主要地域、国における転換社債の新規発行額の推移
左軸:100万米ドル単位
出所:ピクテ・ウェルス・マネジメント-CIO&MR、BofA 2022年5月31日時点
昨年までの新規発行の増加、株式市場における成長銘柄の上昇が転換社債のアンダーパフォームの主な要因となっている
好調な企業業績と良好な市場環境により、2020年と2021年に転換社債の新規発行が増加したことが、今年の転換社債が低迷している主な要因のひとつとなっています。転換社債の発行価格は非常に高い水準まで上昇し、クーポンは平均を大きく下回り、転換プレミアムは平均的な水準の中、「ボンド・フロア」は下落しています。
ボンド・フロアとは、転換機能を持たない発行体の債券の理論的な投資価値のことで、それ以下には転換社債の価値は下がらない、取り引きされる最低価値のことを指します(ボンド・フロアの水準は、債券の満期までの利息収入や元本償還で得られる現在価値から算出されます)。
また、今年の市場金利と社債利回りの上昇も、転換社債のボンド・フロアを低下させ、転換社債の下落時における対抗力を低下させました。
1996年以降、米国10年債利回りが100bps以上上昇した局面は13回ありました。このような局面において、以前は、転換社債が継続的に社債のパフォーマンスを上回り、うち5回は株式のリターンを上回りました。しかしながら、直近2回では、債券市場の下落に対する対抗力が弱く、転換社債はマイナスのリターンとなりました。このアンダーパフォーマンスの背景として、株式市場における成長株のローテーションと新規発行転換社債の平均デュレーションの長期化、インフレの進行、経済成長の鈍化の兆候がみられることが挙げられます。
米国10年債利回りが過去に100bps以上上昇した局面における米国転換社債(赤)、S&P500(灰色)、ICE BofA Current 米国債10年指数(青)のリターン比較
出所:ピクテ・ウェルス・マネジメント-CIO&MR、Factset 2022年5月19日時点
米国債利回りの上昇がボンド・フロアを低下させた一方で、転換社債は株式のボラティリティの上昇という逆風にもさらされています。1999年から2019年にかけて、転換社債は平均して米国優良株のボラティリティの60%程度となっていました。このため、転換社債の下落リスクは限定的といえました。しかし、最近では、高いボラティリティの持続が転換社債市場にも波及し、そのボラティリティは米国株式の約90%にまで上昇しました。
米国転換社債(赤)、S&P500(灰色)、発行元株式(青)のボラティリティの比較
出所:ピクテ・ウェルス・マネジメント-CIO&MR、Factset 2022年6月7日時点
米国と欧州の転換社債の比較
構造的に米国の転換社債は、欧州の転換社債と比較し、より株価との連動性が高くなっています。また、米国の転換社債の方が割高であり、セクターとしては情報技術関連の比率が高く、足元のパフォーマンス悪化の要因になっています。
米国(左)と欧州(右)の転換社債の最大下落率の比較
出所:ピクテ・ウェルス・マネジメント-CIO&MR、Factset 2022年5月31日時点
全体として、世界の転換社債市場の約15%は現在、価格が理論的な債券の下限に近い、もしくは下回る「ディストレス」カテゴリーで取り引きされています。
歴史的にみると、比較的高い利回りを提供するディストレスト型転換社債は、市場の反発時にアウトパフォームしてきました。しかし、今年、転換社債の利回りが上昇したにもかかわらず、デフォルトや信用リスクが比較的高いという点で、投資適格債やハイ・イールド債の利回りよりも魅力は劣るといえます。
転換社債市場の明るい兆し
苦境にある転換社債市場において、明るい兆しとしては、セルオフ(大量の売り)が進むことで、転換社債の過多な発行が行われた2020年、2021年の割高な価格が落ち着きを見せると見込まれます。現在発行済みの転換社債が償還日を迎えることで市場に変化が生じるとみています。世界経済の成長鈍化が予測される中、経済状況が再び好転する局面が訪れれば、成長企業による割高な価格設定が解消する可能性があります。現状の市場環境においては、転換社債を購入するのは時期尚早といえますが、経済の見通しが好転すれば、好機は再び訪れるとみています。
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