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- プライベート・エクイティ:持続可能な社会への移行
プライベート・エクイティ(PE)は、成熟した主要な資産クラスとして確立され、機関投資家や個人投資家の資産配分において、重要なパーツの一つになりつつあります。プライベート・エクイティへの投資は様々なメリットをもたらします。本稿は、プライベート・エクイティがアウトパフォームする主要な要因に関する仮説、分散型のプライベート・エクイティ・ポートフォリオから期待されるリターンの概要、ポートフォリオ構築のための推奨フレームワークを提供することを目的としています。また、経済的な成功のみならず社会的な責任を果たすことも意識してポートフォリオの構築を検討する投資家が増える中、インパクト投資の評価の枠組みであるプラネタリー・バウンダリーを用いて、環境保全の推進を目的としたファンドや企業への投資という新たなテーマについても議論します。
なぜプライベート・エクイティは上場株式をアウトパフォームすると考えられるのか?
プライベート・エクイティ投資とは、企業やその創業者に資本を直接投下することを通じて、実体経済に投資することです。ここでは、プライベート・エクイティ投資家(すなわちPEまたはVCファンドマネージャー)とその投資先(「投資先企業」)に注目します。ファンドマネージャーと投資先企業の関係性(プリンシパル・エージェント関係)は、プライベート・エクイティ投資モデルの核心です。プライベート・エクイティ投資はいくつかの理由でステークホルダー間の利害調整に優れています。プライベート・エクイティのオーナーは、企業の議決権の過半数を有する株主、または重要な少数株主として、企業の経営陣の選定に直接関与し、経営戦略などに関してアドバイスを行うことによって、企業の経営をサポートします。これは、企業の取締役会に対して大きな影響力を持っているからこそ実現が可能です。例えば、経営陣の刷新を迅速に進めることができること、優秀な経営陣(関連業界の経験やネットワークを持つ人材)を任命できること、少数株主やアクティビストからの圧力に対処する必要がないこと、などが挙げられます。加えて、プロ投資家が投資しているような非公開企業は、主に個人投資家保護を目的とする公開市場規制の制限を受けることはありません。
また、ファンドマネージャーは、ポートフォリオ全体を通して有意義なシナジー効果を生み出すことが可能であり、高度な専門性が必要とされる特定のセクターに特化して競争力を高めようとするファンドマネージャーも増えています。
もう一つの大きな要因は、プライベート・エクイティに投資している投資家はより長期的な目線で投資を行っていることです。特にベンチャー・キャピタルのファンドマネージャーは、赤字企業を数年にわたって支援することができるため、企業は製品開発を優先することで、より質の高いイノベーションを生み出すことができます。プライベート・エクイティ投資家からの投資を受けている企業は、四半期ごとの業績予想を達成しなければならないという、ステークホルダーからのプレッシャーがないため、経営戦略を実行するための長期ビジョンを持つことができます。
最後に、プライベート・エクイティ特有のインセンティブ・メカニズムは、公開市場への投資よりも優れたパフォーマンスを実現する上で重要な役割を果たしています。ファンドマネージャーと投資先企業の経営陣は、主に流動性イベントが成功した場合、つまり投資先企業が売却された場合、または上場した時点で報酬を受け取ります。流動性イベントは通常、買い手による徹底的なデューデリジェンスと競争オークションが先行し、取引される企業のファンダメンタル・バリューに対して一定の保障を提供します。このようなパフォーマンス・フィー(またはキャリード・インタレスト)は、長期的なファンダメンタル・バリューの創造が最終的に投資リターンにつながることを保障しています。また、このようなインセンティブ・メカニズムは、より優秀な経営陣を惹きつけると考えられます。PEファンドによる投資を受けた企業の経営者や創業者は、通常、株式の持分によって、エグジットした際に収益を得ます。
プライベート・エクイティは実際に上場株式をアウトパフォームしているのか?
ほとんどのオルタナティブ資産は、特定のパフォーマンス測定方法が必要です。プライベート・エクイティも例外ではなく、最も広く活用されている3つのパフォーマンス指標があります。投資倍率(tvpi)は、分配金累計額と残存価値を合計し、それを投資金累計額で除したものです。実現倍率(dpi)は、投資の「実現度」を測るもので、分配金累計額を投資金累計額で除したものです。すなわち、dpiとは、累計の投資資金のうちどの程度を実際に回収したかを表します。最後に、内部収益率(IRR)は、キャッシュフローのタイミング効果と振幅を考慮しているため、PE投資に最も適した金額加重ベースのパフォーマンス指標といえます。
プライベート・エクイティ・ファンドの投資リターンを伝統資産ファンドの投資リターンと比較する場合、常にどちらかの資産クラスに適したパフォーマンス測定方法にもう一方が合わせるような形で比較を行う必要があります。最も市民権を得ている比較方法の一つとして、パブリック・マーケット・エクイバレント(PME)法が挙げられます。PMEにも測定方法としての限界はありますが、メリットも多くあるため、業界内の専門家に広く受け入れられています。プライベート・エクイティ投資家はキャッシュフロー(キャピタルコールと分配金)のタイミングをコントロールすることができないため、キャッシュフローを同等の公開株式インデックスで再現することで、エントリーポイントとエグジットポイントを同一にします。つまり、プライベート・エクイティのキャピタルコールごとに公開株式インデックスの株式が購入され、プライベート・エクイティの分配のタイミングで一定割合の株式が売却されることになります。この方法により、キャッシュフローの条件を一致させた上でのIRR計算が可能となり、プライベート・エクイティ・ファンドと伝統資産ファンドのパフォーマンス比較の手法の一つとなりました。
プライベート・エクイティの長期リターンの中央値にPMEの手法を適用すると、この資産クラスが継続的かつ長期的に公開株式インデックスをアウトパフォーマンスしていることが分かります。プライベート・エクイティ・ファンドは、以下のすべての年において、公開市場のリターンを上回っています。通常投資開始から3ー4年はプライベート・エクイティのパフォーマンスを正しく評価することが困難なため、2018年以降の数値は以下の分析から除外しています。この分析によると、プライベート・エクイティは継続的にアウトパフォームしていますが、実際ファンドマネージャーによって得られるリターンは大きく異なります(下位4分の1と上位4分の1のパフォーマンス間のスプレッドが大きい)。そのため、プライベート・エクイティへの投資においては、慎重に投資先ファンドを選定することが重要です。
図1:ファンド設立年別 パフォーマンス
出所:Preqin, vintage year performance(2021年9月30日時点)
グローバル・ポートフォリオの中で、どの程度プライベート・エクイティを組み込むべきか?
現代ポートフォリオ理論を用いて正確にPEへの資産配分比率を最適化しようとするには限界があります。上述の通り、プライベート・エクイティ投資に適用されるパフォーマンス測定手法では、伝統資産のポートフォリオの中でオルタナティブ投資の配分を決定することは極めて困難だといえるでしょう。実用的なアプローチとして、米国の財団におけるプライベート・エクイティ(ベンチャー・キャピタルを含む) の配分の調査結果を参考にすることを提案します。全米大学実務者協会(NACUBO)は、米国の大学基金が全資産の27.2%をプライベート・エクイティに配分していることを調査結果として発表しています。当然のことながら、この調査では、配分比率と運用資産総額に強い相関関係があることが示されています。
伝統資産によって構成された60/40のポートフォリオでは、プライベート・エクイティ投資は上場株式投資と基本的に同様の経済的リスクを負うため、株式ポートフォリオの中での投資を検討することをお勧めします。特に、上場株式投資と比較して、よりリスクの高いバランスシート構造を有すると考えられるレバレッジド・バイアウト取引の場合、プライベート・エクイティの投資先はさらに構造的リスクを負う可能性があります。プライベート・エクイティ投資特有の低流動性は、直接定量化できないためリスク要因として考慮すべきではないと考えますが、ショートフォール分析やストレスケースシナリオには含めるべきでしょう。
プライベート・エクイティへの投資を計画する際には、適切なポートフォリオを構築することが最も重要です。期待キャッシュフローのパターンと実質的な投資期間について理解することによって、必要なエクスポージャー(出資約束額ではなく純資産価値)に到達するために、ファンドへの出資約束額を適切に調整することが可能となります。ポートフォリオ構築の最終目標は、プライベート・エクイティ・ポートフォリオがセルフ・ファイナンシングの状態(新規資金を投下することなく、分配金の一部の再投資だけでPEエクスポージャーが維持できる状態)を達成することであり、これにより理論上は永続的にキャッシュフローを得ることが可能です。このような目標を達成するには、プライベート・エクイティへの一定のエクスポージャーの確保、つまり数サイクルにわたりプライベート・エクイティへ継続的に出資約束することが必要です。
テーマ型プライベート・エクイティ投資:プラネタリー・バウンダリーのフレームワークを適用した環境投資の例
世界中の資産運用会社は、投資リターンの目標以外に、非財務的な目標を追加することを求められています。これは、社会的、環境的、あるいは人道的な目標に対して、様々な形でコミットメントを表明することを意味しています。ファンドの組成主であるファンドマネージャーは、これらの目標を達成するためのソリューションをいち早く提供しており、「持続可能」「インパクト投資」「責任投資」「ネットゼロ」などの戦略が数多く登場しています。
環境、社会、ガバナンス(ESG)のフレームワークについてコンセンサスはまだ得られておらず、一部の投資家は、規制当局がフレームワークを明確化することを望んでいます。欧州委員会のサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)は導入されたばかりですが、その一例です。しかしながら、このフレームワークは、資産運用会社が投資アプローチに一つまたはいくつかのESG要素を統合し、最終的に財務的及び非財務的目標を達成するために必要な実用性に欠けていると考えています。
図2:プラネタリー・バウンダリーと人類の「安全な活動領域」
BII: Biodiversity Intactness Index
E/MSY: Extinctions per Million Species-Years
出所:Stockholm Resilience Center, Pictet Asset Management(2022年5月時点)
ESGの中でも「E(環境)」を中心に考えられたフレームワークとして、「プラネタリー・バウンダリー」が挙げられます。当該フレームワークは、地球システムの安定性を制御する本質的な生物物理学的プロセスに基づき、人類の「安全な活動領域」を定義しています。このフレームワークは、9つの地球環境に関するプラネタリー・バウンダリーと、それぞれの安全な活動領域における境界線を定量化しました。これらのうち、生物多様性の喪失、生物学物質(窒素とリン)の循環、気候変動、土地の転用の4つは、人間が安全に活動できる境界を越えるレベルに達していると指摘されています。今後さらに限界値を超過することを防ぐために、プラネタリー・バウンダリーの観点から投資資金をどのように配分すべきかを理解しなければなりません。
このフレームワークでは、温室効果ガスの濃度や生物多様性の喪失など、いくつかの客観的な基準を用いており、各基準がどの程度変化すると、環境に不可逆的な危害を与える恐れがあるかを明らかにしています。ピクテは、当該フレームワークの中で、企業の年間売上高100万米ドルごとの環境負荷を定量化する独自のモデルを開発しました。企業の活動が、バリューチェーン全体にわたり、9つの境界それぞれにおいて安全な水準で行われていれば、環境的に持続可能な企業であるとみなすことができ、そうでなければ、その企業は地球環境を悪化させていると考えられます。
このフレームワークは企業の持続可能性をよりよく評価するためのデータ収集にも役立つと考えています。また、環境問題の解決に積極的に貢献している企業に焦点を当てることにより、他の企業が環境問題を認識するきっかけにもなり、全体として環境フットプリントを削減することを促進できます。
プライベート・エクイティへの投資は、実体経済への投資であり、私たちの世界を日々形成している企業への投資です。長期的な目線で投資する資産クラスとして、ファンダメンタルかつ持続可能な価値創造が、プライベート・エクイティ及びベンチャー・キャピタルのファンドマネージャーにとって、優れたリターンを生み出す核心となります。投資家と運用者のインセンティブ・メカニズムは、イノベーションと強力なリターンのカタリストとなります。PE投資家は、テーマ型のファンドに資金を配分することで、新しいトレンドや次世代経済の形成を支援することができます。このようなファンドは、投資対象を確信度の高いセグメントに絞っています。直近では、持続可能性やインパクト投資に焦点を当てた戦略も登場しており、必ずしも期待リターンを犠牲にすることなく、投資家に財務的・非財務的目標の達成を提供することを目的としています。
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