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ウクライナ紛争を巡る様々な問題と紛争の経緯 
2022/08/19

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概要

ウクライナ紛争を巡る様々な問題と紛争の経緯をまとめています。



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概要

・ウクライナ紛争は、過酷で先の読み難い第3段階に突入しています。ロシア、ウクライナ両軍の地上戦力は拮抗し、決定的な打開策に欠ける状況です。

・現時点では、どちらの側も、停戦の実現に殆ど意欲を示していないように思われます。ロシアが占領地域の併合の是非を問う住民投票を実施するならば、停戦協議再開の可能性は薄れるものと思われます。

・ウクライナとロシアは穀物輸出大国であることから、中東および北アフリカでは小麦等の食糧不足が懸念されています。

・もっとも、7月下旬には、国際連合(UN)とトルコの仲介によって、ウクライナ産の穀物輸出を再開するための安全な航路を確保する合意が成立しており、緊張は幾分緩和されています。

・エネルギー市場では、原油需要を下押しする世界的な景気減速の兆しと、欧州での冬場のガス不足を巡る懸念を受け、神経質な展開が続くことが予想されます。

・ロシア政府は欧州に対する影響力を最大限に強めようと画策していることから、天然ガス市場では、向こう数カ月、値動きの荒い状況が予想されます。

・中国は限定的ではありながらロシアに対する口先支援を続けると同時にロシアからのエネルギー輸入を増やしていますが、中露関係には、今のところ大きな変化は見られません。

・ウクライナ紛争による地政学、経済、エネルギー面への影響は、過去の地域紛争の場合と比べて遥かに甚大です。紛争の最も直接的な影響を被るのはウクライナ、ロシア両国ですが、冬場のガス不足のリスクが現実味を帯びており、欧州全域に影響が及ぶことが懸念されます。

紛争の長期化

ロシアによるウクライナ侵攻は、3つの段階に分けられます。最初の段階は、ドネツクおよびルガンスク人民共和国(DPRおよびLPR)の独立を承認したロシアが、3日後の2022年2月24日、ウクライナの首都キエフ(キーウ)に対して短期決戦による占領とウクライナ政府の転覆を謀り、電撃作戦を展開したことに始まります。ところが、軍事作戦は兵站(後方支援)の不備とウクライナ軍の予想外の激しい抵抗に遭って失敗に終わり、ロシア軍が想定していなかった市街戦に突入しました。

こうした状況が、ロシア軍が攻勢の軸足を移す引き金となりました。4月上旬、ロシア軍は「特別軍事作戦」の第一段階終了を宣言し、ドンバス地方を構成するルガンスク州とドネツク州のうち、ロシアの支配下になかった地域を「解放」することに目標を変更しました。(当時、ロシア軍はルガンスク州の約93%、ドネツク州の約54%を実効支配していました)。その後、ロシア軍はルガンスク州の全域、および、へルソン、ザポリージャ両州の大半を制圧しましたが、ドネツク州では、2014年のロシアのクリミア併合後、徐々に構築されてきたウクライナ側の強固な防衛態勢により、状況は殆ど進展しませんでした。

その後、紛争は膠着状況を呈する過酷な第3段階に入っていますが、特に西側諸国から物資が供与されるお陰で、地上戦力は一段と拮抗しているように思われます。実際のところ、ウクライナ軍は北東部のハリコフや南部のミコライフなどで反撃に転じており、ロシアは、ウクライナの東部と南部で既に確立した態勢を、軍事、行政の両面で強化せざるを得ない状況にあるように思われます。こうした状況は、早ければ9月にも、ウクライナの東部と南部の独立、あるいはロシア編入の是非を問う住民投票が実施されるとの観測が浮上していることからも裏付けられます。

とはいえ、ロシアの真の目的は、未だ明らかではありません。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、7月20日、ウクライナが西側諸国から受けている軍事支援が、ロシアの「特別軍事作戦」を南部のザポリージャ州、へルソン州に拡大することを正当化すると述べています。黒海沿岸のミコライフ、オデッサ両州を占領することは、ロシアにとって戦略的価値が高く、ウクライナを黒海から遮断すると同時に、ロシアの支援を受けてモルドバから離脱・独立したトランスニストリアとつなげることを可能にします。

現段階では、戦況の進展は殆ど見られませんが、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが実効支配地域を正式に併合しようとするならば、交渉による停戦の可能性は閉ざされると明言しています。

ウクライナ産穀物輸出の再開は世界の食料価格を抑制する

ロシア、ウクライナ両国は、主要穀物の生産および輸出大国であることから、両国間の紛争が既に先物市場に影響を及ぼし始めています。2016年から2020年までの世界の農産物輸出に占める両国の輸出比率の合計は、小麦の24%、トウモロコシの14%、ひまわり油の57%に達しています。穀物の中では米に次いで最も重要なタンパク源であると同時に、消費量では2位の小麦の輸出停止は、特に懸念されています。

ウクライナ紛争は、世界の穀物市場に様々な形で影響を及ぼしています。第一に、収穫面積の縮小と収穫高の減少により、ウクライナの農業生産が大幅な減産を余儀なくされること(米国農務省の最新の推計によると-35%)が予想されます。第二に、ロシアによるウクライナの港湾封鎖と西側諸国によるロシアの輸出に対する制裁が、穀物輸出を妨げています。第三に、ロシアとウクライナからの肥料輸出の減少が、世界中の農産物の収穫を危機に晒しています。

もっとも、国連とトルコの仲介を受けた合意により、ウクライナは、2,500万トンに積み上がった大量の穀物および食料油在庫を解消することが可能となり、懸念は幾分緩和されています。合意された協定は、ウクライナの港を出港し、トルコに入港する全ての貨物船がトルコで4者(UN、トルコ、ウクライナ、ロシア)の代表による積み荷検査を受けることと、協定を4ヶ月ごとに自動更新することを規定しています。また、ロシアによる穀物および肥料の輸出は、西側諸国の制裁の対象とならないことが保証されています。

ウクライナの主要港、オデッサが協定調印直後にロシアの攻撃を受ける等、波乱の出だしとはなったものの、協定は今のところ守られています。8月8日までに穀物を積んだ8隻の貨物船がウクライナの港を出港しており、今後数週間については、1日3〜5隻の出港が予定されています。

エネルギー市場の不安的な状況は変わらず

ウクライナ紛争では、食料品だけでなく、エネルギー価格にも影響が及んでいます。欧米各国がロシアからの石炭、石油、天然ガスの輸入を禁じ、ロシアがその報復として欧州向けの天然ガス供給を削減していることから、エネルギー価格が高騰しています。こうした状況は、新型コロナウイルスのパンデミック(大流行)が再発を繰り返していることや、世界的なエネルギー生産設備の投資不足が続いてきたことに起因して既に逼迫していた世界のエネルギー供給を一段と悪化させています。

                                                                                                                                                                                                      

欧州連合(EU)のロシアに対するエネルギー依存度が、紛争前で約40%と高いことから、天然ガス市場の動向は特に注目されています。ロシアは、西側諸国向けガス輸出の削減がEUによるロシアへの制裁の対抗措置であるとしていますが、ロシアのEU向けガス輸出量が総じて減少しているのは、エネルギーを西側諸国に対する武器として利用しようとするロシアの意図を示しているように思われます。こうした戦略には、天然ガス価格を高位に維持し、輸出量の減少を相殺する輸出金額の増加分を戦費調達に充てることが出来るという利点がある一方で、EU加盟国間の分裂を引き起こし、ウクライナへの支援を抑制する可能性があると考えます。

冬場のガス不足のリスクに直面するEU各国は、ガス消費を過去5年平均に対して15%、自主削減することで合意しており、消費削減の手段は加盟各国がそれぞれ選択するとしていますが、ガス不足のリスクが強まった場合には、欧州理事会が、供給の安定性に関する「EU緊急警告(EUアラート)」を発動し、削減を義務付けることが出来るという条項が含まれています。

ピクテの試算では、ガス貯蔵量が1ヵ月以内に容量の80%へと、急速に増加しているにもかかわらず、あるいはそのためか、欧州のガス価格は1メガワット時当たり200ユーロ前後で推移しています。これは、新型コロナウイルスのパンデミック前の10倍、ウクライナ紛争前の2倍を上回る水準です。紛争が長期化し、ロシア政府が欧州への影響力を最大限に強めようと画策する中、天然ガス市場では、向こう数ヶ月、上昇相場の継続が予想されます。

中露関係は紛争に際しても変わらず

 ロシアのウクライナ侵攻に先立つ2022年2月4日、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が、「両国の友好に限界はなく、協力に聖域はない」と記した共同声明に署名してから、中国がどこまでロシアを支援するかを巡って様々な憶測が飛び交っています。

 ロシアと中国のこれまでの関係は極めて複雑です。1950年代から60年代にかけては、共産主義の理念を共有する両国間の緊張が高まり、1969年には一時、軍事衝突に発展しました。両国の関係が漸く正常化に転じたのは1980年代後半に入ってからで、また、改善が見られたのはソ連崩壊後のことです。1994年に宣言された「建設的パートナーシップ」は、1996年になって戦略的パートナーシップに発展し、その後「特別な関係」が構築されています(2013年)。また、上述の「無制限の友好」宣言(2022年)に先立って、「包括的戦略的協調パートナーシップ」(2019年)が締結されています。

 両国間の関係の核心にあるのは、プーチン大統領と習近平国家主席の強い個人的な関係と、地政学、経済両面で両国の利害が一致していることです。両首脳は、冷戦の経験と、西側諸国、特に米国が支配する地政学的秩序への反発によって形成された共通の世界観を共有しているように思われます。また、両者とも「自国の経済的・政治的地位を回復するための歴史的使命感」を持っているようです。もっとも、一般の国民間の関係は、さほど強いようには思われません。

中露関係は、経済的にも軍事的にも極めて不均衡で、そうした傾向はますます強まっています。貿易を例に挙げると、ロシアは中国の輸出入全体のわずか2~3%を占めるに過ぎないのに対し、中国はロシアの輸出の15%、輸入の25%を占めています。また、中国がロシアから主に石油、ガス、石炭等の鉱物や金属を輸入しているのに対し、ロシアは中国から機械や電気機器等の高付加価値製品を輸入しています。

ロシアと中国の軍事的な関係は、ロシアがクリミア併合によって国際市場から孤立する一方で、中国が軍備の近代化に向けた取り組みを強化し始めた2014年以降、特に強まっていますが、ここでも、中国の軍事技術が時間の経過に連れて発展し、ロシアの軍事力との格差が縮まるにつれて、力関係は中国の優位に傾いているように思われます。

地政学的な観点からすると、ウクライナ紛争は中国に利害の調整を迫っています。中国は、西側諸国との貿易関係を維持しつつ、ロシアとは「理念」を共有していますが、未だに主権と領土の保全という中国の原則を堅持していることは、中国の指導者にとって、外交的にも経済的にも軍事的にも、難しい均衡を取ることが必要であることを意味します。従って、中国のロシアへの支援は、口先の支援とエネルギー輸入を増やすことに留まっているのです。

                                                                                                                                                                                                              

一方、中国が事態に適切に対処し、世界的な紛争や核戦争等の最も危険な事態を回避するならば、資源国を掌握することで貴重な資源を、おそらく意のままに大量に確保出来る等、様々な形で便益を得る可能性が考えられます。また、ウクライナ紛争は、中国が台湾に侵攻した場合の西側諸国の反応について、極めて重要な知見を提供していると考えます。

地域紛争、世界的な影響

ロシア・ウクライナ間の紛争の影響は、地理的な境界を大きく越えて広がっています。最も大きな被害を受けるのがウクライナであることは明らかですが、紛争が長引けば長引くほど、生産資本が破壊され、労働力が紛争地域を離れるため、経済活動の維持に大きな影響が及びます。2020年のウクライナのGDP成長率は、最悪の場合、35%縮小する可能性があるとの試算も散見されます。

欧米による巨額の制裁は、ロシアが「特殊軍事作戦」を断行したことに対する代償を意味します。制裁の影響が実際に現れるまでには、通常、一定の時間がかかりますが、ロシア経済は既に弱体化の兆しを見せています。例えば、自動車生産には部品不足の影響が、一方、小売り売り上げにはインフレ高進と輸入品不足の影響が現れているように思われます。エネルギー価格の高騰は国家予算、ひいては戦費に寄与するものの、国際通貨基金(IMF)は、ロシアのGDP成長率が2022年には6%、2023年には3.5%縮小する可能性があると試算しています。 

エネルギー価格高騰の影響は世界中に広がって、エネルギー輸入国の経常収支を悪化させ、エネルギー集約型産業のキャッシュポジションに影響を及ぼしています。欧州への影響は特に甚大で、価格の上昇とロシアからの天然ガス輸入量の減少により、冬場のガス不足が懸念されています。IMFの分析は、ロシアからのガス輸入が途絶えた場合、EUのGDP成長率が1%、最悪の場合は2.7%縮小する可能性があること、また、ドイツ、イタリアおよび東欧諸国が特に深刻なリスクに晒される可能性が高いことを示唆しています。エネルギー情勢に起因するEUの景気後退は、世界経済全体に影響を及ぼす可能性が否めません。

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