- Article Title
- 実質利回りの上昇は高リスク債券への警告となるか
物価連動債のブレークイーブン・インフレ率と実質利回りの動きから、債券市場全体の見通しをピクテが考察します。
実質利回りは常に重要な指標の一つと考えられていますが、債券投資家は直近の実質利回りにどのような変化が現れているかをさらに注意深く理解する必要があるでしょう。米国実質利回りの上昇と、物価連動国債のブレークイーブン・インフレ率の低下は、債券市場と為替市場で投資家がさらなる痛手を負うことに備えるべきだと示唆しています。
米国実質利回りとブレークイーブン・インフレ率のモデルの分析からは、引き続きドルが選好され、新興国市場(債券と通貨)からは資金流出が進むと考えられます。また、ハイイールド債券価格がさらに下落する一方で、投資適格債券と米国国債は一定の値幅で推移する(レンジバウンド)と思われます。
この分析モデルは実質利回りとブレークイーブン・インフレ率が上昇または低下しているかによって、市場レジームを4つに分解することができます。これらのレジームは、それぞれ債券や通貨の動向に対して異なる意味を持ちます(図1)。
図1:実質利回りレジーム
出所:ブルームバーグ、Pictet Asset Management(1999年12月31日~2022年8月31日)。 米ドルのリターンはDollar Spot Indexを参照。先進国債券リターンは次の指数を参照: US Treasury Index, US Corporate Index, US Corporate High Yield Index, Pan-European Corporate Index, Pan-European High Yield Index。新興国債券・通貨のリターンは次の指数を参照: JPMorgan EMBI Total Return Index, JP Morgan CEMBI Broad Diversified Composite Index, MSCI Emerging Markets Currency Index。
例えば、昨年9月から11月にかけて実質利回りが低下し、ブレークイーブン・インフレ率が上昇した局面では、繰延需要の顕在化と供給制約の強まりに伴うインフレ期待の高まりからドル安が進み、高リスクの債券やクレジットが選好されました。また、ウクライナへの軍事侵攻が勃発し、米国連邦準備制度理事会(FRB)が「一過性のインフレ」の見方を変え、利上げを開始した時期では、実質利回りとブレークイーブン・インフレ率が共に上昇し、ドル高が進む一方で、米国国債や投資適格社債が下落しました。
通常長期化したレジームの転換には、緩やかな移行期間が伴います。しかしながら直近1年は、中央銀行がタカ派からハト派に急転換し、またタカ派に回帰するという、マクロ経済と金融政策が劇的に変化した年となりました。この期間中、米国のFF金利の誘導目標の上限値は、消費者物価指数が1981年以来の最高値である9.1%まで上昇したことを背景に、0.25%から2.5%に引き上げられました。その結果、前述のモデルに基づくと、2021年8月以降世界経済はこの短い期間にレジームを数回転換したことになります(図2)。
図2:レジームの転換
出所:ブルームバーグ、Pictet Asset Management(2021年6月30日~2022年9月1日)
今年8月、FRBの政策決定者は、インフレが期待通りのペースで減速していないことを懸念し、1970年代の失敗(FRBが利上げを早期に終了させ、インフレ抑制に失敗)を繰り返さない決意を強調しました。このようなインフレ抑制を重視する姿勢は、パウエル議長のジャクソンホール講演でピークを迎えていると思われます。パウエル議長はジャクソンホールの講演で、FRBの最重要課題はインフレ率を目標値の2%に収斂させることだと明言しました。そのため、トレンドを下回る経済成長や労働市況の軟化は避けて通れず、パウエル議長の言葉を借りれば、インフレの抑制には「痛み」が伴うということでしょう。政策金利を中立金利に引き上げるだけでは不十分なため、金融引き締めのスタンスは当面継続するとパウエル議長は主張しました。
以上を踏まえると、米国経済は実質利回りの上昇とブレークイーブン・インフレ率の低下に直面していると言えるでしょう(図1のレジーム3)。
世界経済が早期に好転することを期待している投資家は注意が必要です。直近数年間では、FRBは経済減速に直面すると、即座に金融緩和に舵を切っていました。しかしながら、インフレ率が期待通りのペースで目標値に収斂していかない限り、FRBは失業率の上昇と景気後退のリスクに目をつぶると考えられます。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
手数料およびリスクについてはこちら
MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。