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ESGラベルとは:債券市場におけるサステナブル投資の再考
2023/05/26

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概要

債券投資家は、持続可能な経済社会の実現に向けて、投資活動を通じて貢献をすることができるようになりました。しかしながら、グリーン・ボンドへの投資だけではなく、他のアプローチによる投資も視野に入れるべきだと考えます。



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気候変動の緩和から、より公平で公正な社会の実現まで、民間企業や個人は持続可能な経済社会の実現において重要な役割を担っています。政府が変革のための資金を供給することが困難となっている一方で、投資家は投資を通じて社会にポジティブなインパクトを与えたいという考えが強まっているため、資本市場はそれに適応する必要があるでしょう。

このような中、債券市場は投資家が投資を通じて持続可能な社会の実現に貢献できるような投資環境を整えつつあります。

直近数年では、環境・社会・ガバナンス(ESG)目標を組み込んだ債券の発行が盛んになっています。ピクテ・アセット・マネジメントの調査によると、国際金融協会はESGラベル付き債券の発行額が2025年までに4兆5000億米ドル(年間)に達し、2022年の発行額である863億米ドルから大幅に増加すると予測しています。その一方で、アセットオーナーも独自の持続可能目標を掲げているため、需要も拡大すると思われます。

ピクテはこのようなトレンドを歓迎しますが、持続可能な債券投資とは何かについて考えるに際して、より広い視野を持つべきだと考えます。現在の投資環境は、多くの投資家が認識している以上に魅力的な投資機会を提供しています。

ピクテにおいてサステナブル債券とは、ESG評価が高く、さらにその評価が向上しつつある企業が発行する債券のことを指します。多くの場合、ESGラベル付き債券もこの中に含まれており、これらの債券への投資には明確なメリットがあると思われます。過去のデータから、ESGラベル付き債券は一般的な債券と比較すると、ドローダウンが抑えられており、ボラティリティも低い水準にあります。例えば、2020年3月のコロナショック時、BBB格のESGラベル付き社債の損失が6%だった一方で、BBB格の非ラベル付き社債の損失は10%でした。加えて、ESGラベル付き債券の価格はより早い回復を見せています。

図1:30日ローリング ボラティリティ

出所: ICE, Bloomberg, Pictet Asset Management. データ期間: 2019年12月31日~2023年4月28日

ESGを重視する投資家が債券市場のこれらの動向を支持する理由はたくさんあります。サステナブル債券は、すでに持続可能社会への移行に大きく貢献しているクリーンエネルギー、教育、水と廃水セクターなどにおける発行が多い傾向にあります。

また、各国政府が気候変動対策への取り組みを加速させる中、これらのセクターに属する企業は大きく成長すると考えられます。ピクテのエコノミストは、米国のインフレ抑制法の成立のより、電力網、再生可能エネルギーセクターへの支援や補助金などに1兆5000億米ドルの資本が投下されると予想しています。一方、ヨーロッパのグリーン・イニシアティブは、さらに4兆米ドルの資本を動かす可能性があると考えられます。

このような法規制により、持続可能な企業は優遇され、そうでない企業は罰せられるようになりつつあります。

しかしながら、高まる持続可能な企業の債務への注目は、独自の問題を抱えています。まず、「サステナブル」な企業活動についての明確な定義はなく、規制当局の中でもまだコンセンサスが得られていません。そのため、投資家は独自のガイドラインを設定し、デューデリジェンスを行う必要があり、それには時間、リソース、経験などを要します。

グリーン・ボンドは、これらの問題を解決する投資先に見えるかもしれません。

グリーン・ボンドは特定の環境関連プロジェクトの資金調達のために発行される債券です。しかしながら、調達した資金がその目的に使用されたことを確認するためのモニタリングはほとんど行われていません。また、グリーン・ボンドを発行する発行体への制限はほとんどなく、その中には主な収益源となる事業が持続可能とは言い難い企業も含まれています。石油タンカーの製造や石炭火力発電を主な事業とする企業は、太陽光発電企業と同様にグリーン・ボンドを発行することができます。

その一方で、規制当局がこのような問題の発生を警戒していることは評価されるべきでしょう。

欧州連合(EU)は年初にグリーン・ボンドを発行する企業に対し、その資金がどのように使われるかについて、より詳細な情報提供を要求する新しいグリーン・ボンドの発行基準を発表しました。また、グリーン・ボンドの資金使途となるプロジェクトが、より広範な企業レベルでの移行計画にどのような影響を与えるかを示すことを企業に義務付ける条項も含まれています。

これらの規制はESGラベル付き債券市場の発展を支える重要な一歩であり、他の国や地域が追随する可能性が考えられます。

以上の取り組みはされているものの、法規制の領域において一貫した明確な規制は整備されていません。

もう一つの課題は、ESGラベル付き債券市場の規模が小さいことです。グリーン・ボンド市場は急成長しているものの、その規模はまだクリティカル・マス(急速に拡大する分岐点)には到達していません。発行体やセクターも限られています。つまり、グリーン・ボンドに集中投資している投資家は、ポートフォリオの分散が難しくなります。

社会的課題の解決を資金使途とするソーシャルボンドにも同じ課題が見受けられます。その一方で、直近2年間、ソーシャルボンドの発行額はESGラベル付き債券全体の10%程度に過ぎませんでしたが、今後このシェアは拡大すると思われます。

このような課題による影響を回避しつつ、ポジティブなインパクトを最大化するために、ピクテは独自の財務およびESGスコアカードを開発し、企業のビジネスモデルの持続可能性を評価しています。そのため、ピクテは独自の分析により発行体の取り組みを評価し、事業の健全性と債券のバリュエーションが適正であることを確認した上で、グリーン・ボンドに投資します。

また、従来の社債がグリーン・ボンドよりも高いESG評価を得られる可能性があることにも注目すべきだと考えます。これらは発行体の取り組みに依存すると考えます。

ピクテは、使用済み油や洗浄剤のリサイクル、廃水の再利用など、環境に優しい事業から収益を得る企業が発行する非ラベル付き債券に積極的に投資します。EUグリーン・タクソノミーに基づき、ピクテは水資源、汚染防止、生物多様性保護、気候変動緩和の分野で事業を行う企業を持続可能な投資セクターと考えます。

このようなアプローチを用いることにより、グリーン・ボンドへの投資を断念することもあります。例えば、グリーン・ボンドではあるものの、その発行体である銀行のESG評価が低いため、投資を控えたケースが挙げられます。一方で、ピクテのアプローチは、市場に十分に評価されていない企業を発掘することを可能とします。例えば、ピクテはESGスコアが大幅に改善しており、事業の性質上、クリーン・エネルギーへの移行にポジティブな影響を与える可能性が高いと思われる公益セクターの企業の債券に積極的に投資しています。

しかしながら、持続可能な投資は環境(ESGのうち、E)の側面に限った投資ではありません。ピクテは、持続可能な未来には、より公平な社会が必要だと考えています。その結果、人々は自然と地球を尊重することができるようになると考えます。このため、ピクテは積極的に社会(ESGのうち、S)の側面から貢献を目指す企業に投資しています。セクターとしては、教育の促進、安全な飲料水の確保、あるいは情報へのアクセスや接続性の改善をするための通信インフラの構築(社会の結束と統合の改善)などが対象となります。

どのようなテーマであれ、ピクテは社会と環境に良い影響を与えることを優先的に考え、投資を行います。責任ある投資家として、ピクテは長期的な保有を通じて、投資先企業と定期的なエンゲージメントを行います。企業の経営陣と良好な関係を維持することは、持続可能な社会の実現を目標とする企業の移行を支援する上で極めて重要だと考えます。

リスクを抑えるために、ピクテは優良な発行体に投資し、資産担保証券などの証券化された債券ではなく、「企業の信用リスク」のみに投資するアプローチを採用しています。証券化商品は近年人気が高まっていますが、世界経済の減速に伴い、より脆弱になることが予想されます。

債券投資家は、ESGラベル付き債券に投資するだけではなく、より環境に優しく、より公平で、より生産的な経済の構築に大きく貢献できる企業の資金調達を支援することで、持続可能な未来に向けた企業の移行において重要な役割を果たすことができると考えています。


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