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- 新たなマクロ環境への移行
コロナショックや地政学的緊張の高まりなどを受け、投資環境は大きく変化しています。そのような中、投資家はポートフォリオの資産配分を再考するべきだと考えます。
直近3年という短い期間の中で、投資家は今後長期にわたり経済と金融市場の形成に影響を与える、一連の前例のない変化を経験することになりました。
2020年年初、主要国はコロナショックによる大きな混乱を沈静化するため、大規模な財政支援・金融緩和政策を実施しました。経済再開により、需要が急激に回復した後(財政・金融政策に支えられ)、中央銀行は遅まきながらも経済環境がすでにパンデミック以前と大きく異なり、インフレ率の上昇が大きな課題となることを認識しました。欧米の中央銀行による金融引き締めが遅れたため、昨年以降、歴史的に見ても非常に急速な利上げが行われました。
一方で、2022年のロシアによるウクライナ侵攻によって、地政学的均衡が崩れ、異なる考えを持つ国家間の関係の再編が進みました。パンデミックとウクライナ紛争により、これまで当たり前のように供給されていたコモディティや製品が、今後は安定的に供給されないとの懸念が高まっています。これは、過去10年間に形成された経済・政治環境が大きく変わってしまったことを意味しています。そのため、今までの経済・政治環境を前提としたアセットアロケーションは、運用パフォーマンスの低下につながる可能性があります。2020年以前の環境に戻ることが期待できない中、投資家は今の市場環境に適応したアセットアロケーションを考える必要があります。
ピクテは以下の4つの主な要因が今後の投資環境に大きな影響を与えると考えています。それは、家計の過剰貯蓄、政府の大幅に拡大した財政赤字、中央銀行のバランスシートの大きさ、地政学的緊張です。
高水準にある家計貯蓄率と、(人手不足による)力強い賃金上昇により、家計の支出は維持され、その結果インフレ率の低下には長い時間がかかると考えられます。一方で、各国政府の財政は厳しい状況にあるため、新たな収入源を確保しようとするでしょう。特に中央銀行は保有している国債の売却や、再投資の停止を通してバランスシートを縮小させる動きを進めています。最後に、地政学的な緊張は、世界のグローバル化の流れを「逆回転」させ、企業は供給・生産ネットワークの再考と再構築を迫られています。
国際情勢が不安定な中、企業経営者のみならず、かつての同盟国に頼ることができなくなっている政府にとっても、生産方法の管理と供給の安定性の確保は最重要課題となっています。足元の国際情勢は冷戦時代に逆戻りしていると考える投資家もいますが、冷戦時代は米国とソ連という2つの超大国を中心とし、両陣営の緊張感が高まっていたのに対し、足元の状況はより複雑で、多極化した世界の中でさまざまな経済・政治国家群が対立しています。
各国政府にとっての最優先事項としては、産業基盤の強靭化とエネルギー供給の自立の促進、防衛力の強化、最新インフラの整備などが挙げられます。現在、これらの分野に弱みがある国は、急速に改善を行う必要があり、そのためには長期的かつ大規模な公共投資が必要となります。
このような背景から、主要な企業や産業を自国内にとどめるという戦略的目標を達成する一つの手段として、財政支援の活用が増加しています。最先端技術へのアクセスの確保・管理において、国家間の競争は今後ますます激化することが予想されます。投資の観点からは、労働市場が逼迫している中で、産業の競争力を高めようとしている国では、最新技術(人工知能を含む)により生産性が大きく向上しない限り、インフレ圧力はますます高まると考えられます。企業にとって、供給・生産ネットワークを再構築することは、関連コストの負担と収益性の悪化を意味します。また、得られた収益を新たな設備投資に回さなければならないことは、これまで企業の自社株買いや配当などの恩恵を受けてきた株主の利益を圧迫する可能性があります。設備投資以外にも、いかに人材を確保するかは、企業にとって株主への還元より重要な課題となることが考えられます。
2022年以降の金利の急上昇は、株式投資にも影響を与えています。貸出基準金利(中央銀行が民間の金融機関に短期的に資金を貸し出しす際の金利)は、将来のキャッシュフローの現在価値に影響を与えます。そのため、貸出基準金利の上昇は、株式のバリュエーションが相対的に低下することを意味しています。2022年以降の短期金利の上昇により、一部の国の現金通貨は再び魅力的な投資対象として見られるようになりました。その一方で、地政学的な分断により、国際通貨体制が再構築される可能性が考えられ、米ドルの基軸通貨としての優位性が絶対的なものではなくなる可能性もあります。投資家は、貿易や外貨準備における米ドルの支配的な役割が疑問視される中、今後10年間で国際通貨体制にどのような変化が起きるか注視するべきだと考えます。
株式だけではなく、債券投資においても、このような環境の変化の影響が及んでいます。過去数年の低金利時代では、投資家は魅力的な利回りを求め、よりリスクの高い債券商品に投資することが増えていました。しかしながら、直近のインフレ率の上昇とそれに伴う利上げによって、質の高い債券商品の魅力が増しています。インフレ率と金利が過去数年より高い水準で推移することが予想される中、投資適格社債や国債への資産配分を増加させることで、ポートフォリオのリスクを抑えつつ、十分なリターンを確保することが可能だと考えます。債券商品が再び適切なリスク・リターンを提供できるようになりつつあることは、典型的な60:40(債券:株式)の資産配分をしている投資家にとっては朗報でしょう。
昨年からのトレンドはさらに加速しており、投資環境は大きく変化したため、投資家はアセットアロケーションのアプローチを変えることを求められています。このような長期的な変化に目を向け、それが何を意味するかを理解することが、今後10年間の資産クラス別リターンを見通す上で非常に重要だと考えます。
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