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- アジアの地域主義
世界経済の脱グローバル化が進んでいるとの見方が広がっているものの、アジア諸国の相互依存関係の高まりと経済力の向上は、この考えを覆すものとなっています。世界の貿易はアジア新興国の急成長を引き続きけん引すると考えられます。
成長の「原動力」
グローバル化の進行はアジア、特にアジア圏新興国の経済成長の強力な原動力となっています。脱グローバル化への懸念は高まっているものの、グローバル化はアジア諸国の経済成長を今後も支え続けると考えています。世界貿易の取引規模は縮小しておらず、一方でその構造には変化が見られています。構造の変化はアジア圏で発生しており、これはアジア圏の急速な経済成長の「副産物」だと考えています。
アジア圏新興国は持続的な経済成長を実現するために必要な要素をすべて域内で揃えることができる段階に突入しています。アジア圏は多様で相互補完的な経済の集合体となっており、世界のその他の地域への依存度がますます低くなっています。また、貿易、資本、知識、労働力といった安定的な経済成長に必要となる要素が域内に豊富に分散されています。
脱グローバル化
世界貿易は2008年にピークを迎えた後、縮小傾向にあると考える投資家もいますが、このような結論は2つの重要な要因を見落としているからだと考えます。
まず、世界貿易が縮小していく要因の一つに、中国が発展するにつれ、製造の内製化が進んだことが挙げられます。例えば家電の場合、今までは一部の製造工程を台湾などで行っており、場合によっては中国と台湾を2~3回以上往復していましたが、現在では製造工程のすべてが内製化されています。
図1:世界貿易対GDP比(%)
出所:Pictet Asset Management, CEIC, Refinitiv。期間:1960年1月1日~2023年1月2日。
2つ目は、サービス産業の輸出が急増しているにもかかわらず、世界貿易に含まれていないことがあるからです。2008年以来、サービス貿易の規模は2倍に拡大しています。
世界のGDPに占める物品貿易の割合は、今後も低下し続ける可能性が高いと考えています。しかしながら、これは世界経済が成熟するにつれてサービス産業が台頭してきていることが主因でしょう。とはいえ物品貿易の規模は今後拡大すると考えられており、2023年の予備データは、過去10年間横ばいで推移していた物品貿易が急激に増加することを示唆しています。
世界貿易の成長に逆風となる要因も存在します。例えば、米国は2022年にリショアリング(海外に移管・委託した業務を国内に戻すこと)により約22万件の国内雇用を創出しました。このような動きの一部はコロナショックにより引き起こされました。企業はグローバルなサプライチェーンの脆弱性を認識し、それによるリスクを低減しようとリショアリングを行いました。しかしながら、この傾向はコロナショック以前から見られており、地政学的緊張の高まりは、リショアリングとニアショアリング(既存の事業拠点から地理的に近い近隣国に事業を移転すること)の進行をさらに後押ししました。
一方で、少なくとも一部の商品やサービスの生産において、その国の競争優位性が失われることはないため、リショアリングにも限界はあるでしょう。
同時に、コロナショックは物品貿易に混乱をもたらしたかもしれませんが、サービス貿易の拡大には新たな道を切り開きました。コロナショック後、通信技術によってサービスが如何にグローバル化できるかが明らかになりました。サービス貿易はもはやインドにコールセンターを開設するようなサービス輸出にとどまりません。テレマイグレーションによって、金融、法律、エンジニアリング、建築、コンサルティング、広告、マーケティングなどのサービスが国際競争にさらされるようになりました。
図2:世界の物品・サービス輸出
2008年を100として指数化
出所:Picet Asset Management, CEIC, Refinitiv。期間:1990年1月1日~2023年1月2日
アジア新興国の台頭
グローバル化の最初の大きな流れは蒸気機関の実用化によって引き起こされました。高速かつ効率的な輸送手段の普及により、19世紀には世界的な貿易が加速しました。工業化が進んでいた国々がその恩恵を大きく受け、1987年にはG7経済圏が世界の約70%の製造を担っていました。
直近のグローバル化の進行は、もう一つのイノベーションであるインターネットによってもたらされました。情報伝達のコストを下げることで、生産と流通はさらに加速しました。このグローバル化の波で最も恩恵を受けたのはアジア圏です。中国だけで世界の工業製品の30%を生産しており、アジア圏の41%という数字は、G7経済圏の34%を凌駕しています(図3)。
図3:世界の国・地域別製造業生産(%)
出所:Pictet Asset Management, UNSTAT。1970年1月1日~2021年12月31日
ASEAN、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定など、多様で相互補完的な貿易協定をはじめとするアジア経済の緊密な経済パートナーシップにより、製造業におけるアジア圏の優位性はさらに強まると考えられます。また、さらなるグローバル化は、人工知能という新たなイノベーションが追い風となるでしょう。中国が人工知能分野において大きな強みを持つことにも注目すべきだと考えます。
4つの経済圏
アジア圏は3つの新興経済圏と1つの先進経済圏から構成されていると考えます。それぞれが貿易、資本、労働力、情報において異なる強みを持ち、相互補完の関係にあると見ています。
中国と香港は、域内の中心的な存在となっています。アジア圏先進国の中国への輸出は全体の約25%を占め、オーストラリアの輸出の約40%は中国への輸出が占めています。世界第2位の経済大国であり、今後世界一になるとも見られている中国ですが、1人当たりGDPはアジア地域の先進国の3分の1にすぎません。また、人口動態の悪化の影響を受けているものの、資本が豊富なため、アジア圏の他の新興国に多額の投資を行うことができます。
2つ目の新興経済圏は発展途上国で構成され、その多くはASEAN加盟国です。中国の周辺にあるこれらの国や地域は、豊富で安価な労働力の供給源であり、より豊かな近隣諸国から資本流入を受けており、そのうち80%は、域内の先進国と中国からの流入となっています。
図4:国・地域への海外直接投資が世界全体に占める割合(3年平均、%)
※中国・香港間の直接投資は調整済み。ASEANXはASEAN加盟国に加え、モンゴル、ネパール、ミャンマーが含まれる。
出所:Pictet Asset Management, UNCTAD。期間:1999年1月1日、2023年1月2日。
次に、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカを含む南アジア圏が3つ目の新興経済圏にあたります。これらの国々はアジア圏内で最も貧しく、一人当たりのGDPはアジア先進国の20分の1にすぎません。また、他の地域との経済パートナーシップの構築も進んでいません。しかしながら、人口の平均年齢が若いことなどから、サービス輸出大国として成長しています。世界の情報通信技術輸出に占めるシェアは、米国の7.5%に対し、インドは13.2%となっており、アジア圏内のその他の国との強力なパートナーシップ関係が構築されていないにも関わらず、この分野における貿易は急速に拡大しています。
最後に、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、台湾、シンガポールを含む先進国が一つの経済圏として考えられます。これらの国々は一人当たりGDPが高く、都市化が進んでおり、最新の技術と余剰資本を有しています。
自立した経済圏の構築
アジア諸国が力を合わせれば、確実に自立した経済圏を築き上げることができると考えます。成長のポテンシャルがあるということは、資本が流入することを意味しています。2001年には、世界の資本流入の10.2%をアジアが占めていましたが、2030年には23.6%に拡大することが予想されています。一方で、同じ期間のうちに、米国への資本流入は23.6%から18.5%に低下すると考えられています。2030年には、日本を含むアジア諸国が世界のGDPの33%を占め、2000年の26%から上昇すると考えられます。
アジア圏の経済的な重要性が増すにつれ、金融市場でも大きな役割を担うようになることが想定されます。それは、世界債券指数への組み入れが進むことを意味しています。その結果、事実上人民元経済圏の形成を伴う可能性が高いとされています。2006年、中国人民元と他のアジア通貨との相関関係はゼロに近かったものの、直近では20%(相関係数0.2)に上昇しています。アジア地域の統合と発展が進めば進むほど、相関関係は高まると考えています。
図5:世界のGDPシェア(米ドル、%)
※汎ヨーロッパはユーロ圏、イギリス、スイスを含む。 その他先進国はカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデンを含む。
出所:Pictet Asset Management, Refinitiv, CEIC。期間:2000年1月1日~2023年1月1日
グローバル化の終焉に対する懸念は行き過ぎだと考えられる中、ましてやアジア圏の場合はまったく見当違いであると言えるでしょう。アジア圏の域内統合はさらに進み、相互依存関係を高めると考えられます。アジア圏の4つの経済圏には異なる優位性と補完関係が存在するため、世界の他の地域で物品貿易が横ばいとなった場合でも、域内貿易で経済成長を自立させることができるでしょう。コロナショック、金利上昇、地政学的緊張の高まりによって、アジア圏の成長はここ数年停滞していますが、十分な経済成長モメンタムがあると考えています。
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