Article Title
中央銀行動向:さらなる利上げ幅は限定的、高金利期間は長期化
2023/07/18

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

各国のマクロ経済状況を踏まえ、主要国の中央銀行動向についてピクテが考察します。



Article Body Text

中央銀行:利下げ観測をけん制

各国中央銀行に政策方針の違いがあるにせよ、この経済サイクルにおいて、多くの中央銀行は市場、企業、家計に対し、利上げは長期化するとの姿勢を示してきました。高金利には代償とリスクを伴いますが、利上げを実施しなかった場合、より大きな代償を払わなければならないと中央銀行は考えています。高いインフレ率が定着した場合、中央銀行はさらに金利を引き上げなければならなくなり、経済により大きな悪影響を与えることが考えられます。

中央銀行が直面する不確実性の主な要因(各国の大きな違いでもある)の1つとして、金融政策の実体経済への伝達に遅れがみられていることが挙げられます。米国の金融政策の経済への伝達はユーロ圏より遅く、その効果も顕著に表れていないと考えられています。銀行の預金金利と貸出金利の上昇が緩やかであったことや、米国の長期債利回りと住宅ローン金利が相対的に安定していたことなどが背景にあります。銀行セクターの企業が「破綻」に至らなかったユーロ圏では、少なくとも金融不安発生当初において、より顕著な与信条件の厳格化や、貸出抑制の動きがみられました。同時に、エネルギー・ショックは欧州により大きな影響を与え、インフレの粘着性がより強まりました。

図1:米国とユーロ圏における銀行の民間セクター向け融資

出所:Federal reserve, ECB。2023年7月5日時点

金融政策の伝達スピードが速いということは、他の条件がすべて同じであった場合、同等の金融引き締め効果を得るために、欧州中央銀行(ECB)は利上げ幅を抑えなければならない可能性があることを意味しています。米連邦準備制度理事会(FRB)とECBはインフレ率が2%の目標水準に回帰する確信が得られるまで、利下げに転じる可能性は低いでしょう。景気が急減速した場合には中央銀行も高金利の維持に慎重になると考えられますが、金利の「Higher for Longer(より高く、より長く)」から脱却するハードルは非常に高いと考えています。

図2:中央銀行の政策金利(予測を含む)

出所:Pictet Wealth Management, Fed, ECB, BoE, SNB。2023年7月5日時点

利下げ観測をけん制するために、中央銀行はインフレ沈静化の見通しが立った場合にも、利上げを継続すると市場を「脅し」続けなければならない可能性があります。その一方で、適切な金融政策スタンスに関する内部メンバー間の意見の相違は明らかにしないでしょう。このことは、直近の中央銀行と市場のコミュニケーションがやや混乱している理由の一つだと考えられます。FRBは年内2回の追加利上げを示唆していますが、6月は政策金利を据え置き、7月の利上げも確約されていません。ECBとスイス国立銀行(SNB)は6月に利上げを実施しましたが、インフレ見通しは大幅に上方修正されました。

中央銀行の金融政策は今後も経済データ次第で決定されますが、「Higher for Longer(より高く、より長く)」を市場に浸透させるコミュニケーション手段として、タカ派姿勢を強調することが考えられます。

FRB:利上げは最終局面に突入

FOMCは6月に政策金利を据え置きましたが、市場では年内までに50bpsまたはそれ以上の引き締めが実施されるとの見方が過半数を占めています。パウエル議長は、利上げサイクルの最終局面においては、金融政策の伝達のタイムラグをより適切に評価し、貸出抑制による影響を見極めるために、利上げペースを緩やかにする必要性を示唆しています。

また、7月に再び政策金利を据え置く可能性は低いと考えています。7月26日のFOMCまでに発表される主な経済データは、雇用統計と消費者物価指数(CPI)のみとなり、これらのデータが大きく予想を下回らない限り、直近の経済の底堅さと依然として高いインフレ率は、追加利上げを後押しする材料となるでしょう。

7月以降は、ディスインフレと景気減速の傾向がさらに明確になり、利上げは一旦停止されることが予想されます。FRBは追加利上げを示唆しているものの、パウエル議長は利上げを確約していません。連続利上げ、会合ごとの利上げの可能性はどちらにせよ排除されないでしょう。インフレの沈静化が想定される中、FRBはデータ次第で意思決定を行うことが考えられます。

しかしながら、FRBはタカ派姿勢を引き続き維持するでしょう。FRBはインフレを抑制するために政策金利と金融情勢を引き締める必要があり、市場が積極的な利下げを織り込まないようにタカ派姿勢を維持しなければなりません。さらに、経済成長率とインフレ率には上振れリスクがあり、9月または11月に追加利上げが実施される可能性は否定できません。

一方で、FRBが年内に利下げに転じる可能性は低いと考えます。ピーク金利に達した後も、政策金利はその水準で維持されることが考えられます。FRBが利下げを開始する場合、インフレ率の低下が確認されたことが主な要因となるでしょう。インフレ率が低下するにつれ、実質金利で測定される金融引き締めの水準を維持するためには、名目金利を低下させる必要があります。失業率の大幅な上昇を伴う急激な景気後退に陥らない限り、FRBはターミナルレートをわずかに上回る金利(2.5%)で利下げサイクルを終了させることが予想されます。

また、年内に量的引き締め政策が変更される可能性も低いと考えます。T-bill(国庫短期証券)の発行が増加していることから、早期終了が見込まれていますが、これまでのところ、マネー・マーケットが供給の大部分を吸収しているため、民間銀行の中銀当座預金はほとんど減少していません。

ECB:利上げ継続の一方で、引き締め過ぎは禁物

ECBは6月の政策理事会で25bpsの利上げを行い、中銀預金金利(銀行が中央銀行に預ける際の金利)を3.5%に引き上げました。ECBは、「インフレ率を中期的目標の2%に戻す」ため、金融引き締め姿勢を維持すると示しています。

ラガルド総裁は、「インフレは新たな段階に入り、インフレ圧力は強まりつつある」と述べ、その主な原因は「持続的な賃金の上昇」であるとしました。逼迫した労働市場がインフレ沈静化のペースを遅らせており、先行指標は軟調に推移しているものの、ECBは利上げを継続するでしょう。ECBは「企業が直近でみられたような価格設定を続けることができないように」、消費需要の抑制を長期化させる必要があると考えています。

7月の利上げは確実視されていますが、9月の利上げの可能性は相対的に低くなるでしょう。ECBのタカ派メンバーは利上げを停止するには、コア・インフレ率が「明確に低下」する必要があると主張しています。一方で、コア・インフレ率は9月ごろまで上昇し、ボラティリティの高い状態が続くと予想されているため、9月までにコア・インフレ率が低下する可能性は低いと考えます。インフレの上昇モメンタムが鈍化しており、9月の利上げも確約されているわけではないため、9月の利上げ観測が下方修正される可能性もあります。いずれにせよ、9月に利上げが実施された場合、これがこのサイクルにおける最後の利上げとなり、政策金利は4%となることが予想されます。注目すべきは、ECBはこの金利水準を長期的に維持する必要があり、2024年下半期までに利下げは行われないと予想されていることです。

BOE:信頼回復のためのさらなる利上げ

イングランド銀行(BOE)は6月、消費者物価指数(CPI)と賃金の上昇により、50bpsの利上げを実施し、政策金利を5%としました。根強いインフレ圧力に対応するため、BOEは今後の利上げを示唆する一方で、信頼性を維持するために利上げを前倒しせざるを得ない状況となっています。

BOEは8月に50bps、9月に最後の25bpsの利上げを行い、政策金利を5.75%とする可能性が高いと考えています。しかしながら、市場予想を下回る小幅な利上げが実施される可能性もあります。まず、8月までにコア・インフレ率と賃金上昇率が鈍化した場合、8月のみ25bpsの利上げが実施されることが考えられます。次に、利上げの累積効果が拡大するにつれて経済はさらに減速するでしょう。BOEは、利上げは経済(特に住宅ローン市場)に影響を与え続けると考えています。固定金利住宅ローンの割合が高いことなどから、利上げによる効果が表面化するまでタイムラグが発生していますが、それによる経済への影響は今後も続き、さらなる経済減速が予想されます。

インフレについて、BOEは生産者物価指数を含む先行指標が改善したことを認識していますが、それ以上に懸念されるのは、賃金への上昇圧力が「顕在化した時よりも解消に時間がかかる」可能性があることです。しかしながら、BOEは「将来の賃金上昇を示す一部の指標は弱まった」とみています。

SNB:9月が最後の利上げとなるか

SNBは6月の会合で政策金利を25bps引き上げ、主要政策金利は1.75%となりました。直近数ヶ月インフレ率が低下傾向にあるにもかかわらず、(中期的な)インフレ見通しについてはタカ派的なコメントがされており、2024年と2025年のインフレ見通しは上方修正されました。その背景として、電力価格と家賃の上昇、国外からのインフレ圧力の長期化が予想されていることが挙げられます。特に懸念されるのは、消費者物価指数の18.6%を占める、金利の影響を受ける家賃の上昇です。

SNBによると、2023年と2024年の平均総合インフレ率(年率)は2.2%、2025年は2.1%と予想されています。インフレ率は2026年第1四半期においても物価安定目標を上回ると予想されており、SNBはさらなる利上げが必要となる可能性を示唆しています。従って、SNBは9月に25bpsの最終利上げを実施し、その後政策金利を2.0%に据え置く可能性が高いと考えています。


●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら




関連記事


2024年7月の新興国株式市場

持続可能で再生可能な未来に貢献する建物

中央銀行はなぜ金を保有するのか?

2024年6月の新興国株式市場

新興国市場:メキシコ初の女性大統領~選挙戦の後の株価調整は中長期的な投資機会とみる

イベント・ドリブン戦略に好機を提供するアジアの肥沃な土壌