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- 南ア中銀、薄氷の据え置き決定
南ア中銀は市場の利上げ予想に反し、政策金利を据え置くことを20日の金融政策決定会合で決定しました。前日に発表された6月の消費者物価指数が物価目標の上限を下回るなどインフレ率低下の兆しは見られます。しかしながら、南アを取り巻く環境を振り返ると物価上昇への懸念は根強く声明文でも物価上昇リスクが指摘されています。据え置きとはいえ、可能性として利上げ再開含みとみています。
南ア中銀、市場の利上げ予想に反して政策金利の据え置きを決定
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は2023年7月20日の金融政策決定会合で、過半の市場予想に反し、政策金利を8.25%で据え置くことを決定しました(図表1参照)。市場では0.25%の引き上げが見込まれていました。
南ア中銀の声明文によると、金融政策決定会合のメンバー5人のうち3人が据え置きを支持した一方で、2人は0.25%の利上げを支持しました。市場予想では、利上げが6割程度で、4割近くは据え置きを見込んでいました。21年11月に始まった今回の利上げ局面は最終段階に近いとの観測もある程度広がっていたとみられ、据え置き発表後のランドは小幅な下落にとどまりました。
南アの6月のインフレ率は物価目標の上限を下回る水準に低下した
南ア中銀は、今回の会合で据え置きを決定した背景を声明文で明確には述べてはいませんが、インフレ率の低下に言及しています(図表2参照)。また、最近の南アを取り巻く状況を考慮すると、米国金融政策動向、ランドの安定、電力供給問題の改善期待なども据え置きを決定した要因と思われます。
米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始したのは22年3月ですが、21年終わりには利上げを示唆しています。その結果生み出されたドル高/ランド安傾向への対応として、他の新興国同様に南ア中銀は利上げを迫られてきました。しかし米国の利上げは最終局面に近づいていると思われ、米国の利上げにお付き合いする意味合いは薄れつつあったとみられます。
次に南アの消費者物価指数(CPI)の低下が挙げられます。6月のCPIは前年同月比で5.4%上昇、変動の大きい項目を除いたコアCPIは5.0%上昇と、共に前月を下回りました。
南アの物価目標は上限が6%、下限が3%(中央値は4.5%)で、6月のCPIはコアも含め上限を下回りました。もっとも、南ア中銀は利上げを終了するのはCPIが4.5%に向かう場合と説明しています。今回の据え置きは利上げの一時停止と解釈するべきかと思われます。
なお、南ア中銀は声明文でインフレ見通しを23年は6%、24年は5%、25年は4.5%としています。前回の会合では23年を6.2%、24年は5.1%、25年は変わらずの4.5%としていましたので、インフレ見通しを下方修正しています。小幅ながら中央値の4.5%に近づきつつあるようです。
南アの通貨動向や電力供給に改善の兆しはあるが不安要因も多くみられる
据え置きの要因と考えられる残り二つはランド動向と、電力供給の改善期待ですが、筆者は不確実性もあるとみています。
まず通貨ランドの動向を振り返ると、足元でランド安がピークとなったのは5月前半です。それまでの様々なランド安要因に加え、南アのロシアへの武器供与疑惑がランド安を加速させました。南ア駐在の米国大使が5月に「昨年12月、ロシアの貨物船に武器や弾薬が積み込まれて、ロシアに運ばれたと確信している」と南アに対する疑惑に言及したからです。その後新たな情報に乏しいことから、武器供与疑惑から別の要因に目が向かいランド高に転じています。ただし、問題が解決したわけではないことに注意が必要です。
電力供給の改善(期待)も据え置きを支持する要因となった可能性があります。南アの経済不振に伴う信用力の悪化や、インフレ悪化の背景に電力供給への慢性的な不安がありました。
南ア政府は3月の内閣改造で電力供給の改善を担当するポストを新設しラモクゴパ氏を任命しました。ラモクゴパ氏は今月、電力供給の改善に言及し、計画停電の減少に自信を示しています。南ア中銀は声明文で電力供給について不安定と述べるにとどめています。電力供給の改善は始まったばかりで、成果を期待するには早すぎますが、今後の展開には注目が必要と思われます。
南ア中銀は声明文で家計の債務コスト負担の増加を指摘しており、間接的に金利が高水準となっていることを指摘しています。条件が整えば、利上げ局面を終了させる意向は潜在的に強まっていたと思われます。
ただし、不安定な為替動向や電力供給などの懸念要因は多く残されており、今回の据え置きはあくまで停止で、場合によっては利上げ再開の可能性も相当程度残されているように思われます。
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